第68回 「STAR TRAIN」は、新たなスタートラインか?
Perfumeの2015年を、簡単ですが振り返ってみましょう。
3月 映像作品「Perfume WORLD TOUR 3rd」リリース、「SXSW」出演
4月 シングル「Relax In The City / Pick Me Up」リリース
5月~8月 各地のフェス/イベント出演
9月 「Perfume Anniversary 10days 2015 PPPPPPPPPP」開催
10月 シングル「STAR TRAIN」リリース、映画「WE ARE Perfume –WORLD TOUR 3rd DOCUMENT」公開
こうして見ると、結成15周年&メジャー・デビュー10周年に相応しく、周到に計画・準備のなされた、充実したアニバーサリー・イヤーでしたね。
その記念的な1年の締め括りにリリースされたシングルが「STAR TRAIN」です。映画「WE ARE Perfume –WORLD TOUR 3rd DOCUMENT」のために作られたこの曲。SNSでの評判を見ると「泣ける!」「この曲はPerfumeそのもの!」「ヤスタカから3人へのメッセージ!」などなど、極めて好評のようです。
でも、これは全部、歌詞への称賛であり、サウンド面などにはあまり言及されません。なぜでしょうか?
◇Thinkin bout...
映画だけでなく、「LIVE 3:5:6:9」でもフィナーレを飾るという、象徴的な使われ方だった「STAR TRAIN」。近田春夫さんのJ-Pop時評連載「考えるヒット」924回(週刊文春2015年11月19日号)で、この曲が採り上げられていたので、主な内容を引用させていただきます。
・PerfumeがTVに出演して「今回は泣ける曲です」と言っていたけど、大丈夫なのか? これまでに聴いてきたPerfumeの曲は、どれひとつとして〈泣ける曲〉〈泣かせる曲〉などなかった
・J-Popの世界は、作品の良し悪しではなく、演者への感情移入や応援が優先されるという意味での〈アーティスト至上主義〉の世界と言える
・そんななかでも、Perfumeはあくまでもサウンドのおもしろさや新しさでのアピールに徹してきたはずだ。言い換えれば、決して情に訴えるようなことはしなかったのに、今回は様子が違う……
・悲しいことに予感が的中してしまった。まったくビートっ気のない曲調、ベタでひねりのない歌詞。どこにも刺激が感じられない
・あれほど近未来的なテクノ(筆者注:厳密にはテクノではないと思います……)をやっていた人たちとは思えぬほど、普通に普通のJ-Popの音
・キツい言い方になるが、これは退行ではないか?
・これを機に、Perfumeも無難な路線に進んでしまうのだろうか。聞けば聞くほど不安が募る
近田さんは、ずっとPerfumeを(それなりの距離を取りながら)応援して、その楽曲の魅力を高く評価してこられた方です。
それは近田さんがPerfumeのライヴでお馴染みの「ジェニーはご機嫌ななめ」の作曲者である、という背景とも違う、ミュージシャンとしてのフラットかつフェアな評価でした。直近では「Relax In The City」なんかも、近田さんは惜しみなく評価して下さっています。こちらはブログにも書いています。
また先日出版された「Fan Service[TV Bros.]~」では、2007年の近田さんとPerfumeの対談も掲載されており、こちらも必読です!
そんな近田さんが「STAR TRAIN」を、違和感や戸惑い、不満を隠すことなく、正面から批評(※単なる批判ではありません)しました。
この記事を読んだ私は〈そんなことない、「STAR TRAIN」は泣けるよ!〉〈近田さんはPerfumeの関係性をわかっていない!!〉といったことを……
まあ1ミリも思いませんでしたね。この記事には一理ありますし、むしろ私の感じたところを、踏み込んで表現して下さったようにも感じました。
◇Music is everything?
ここで私の「STAR TRAIN」の感想を、サウンド面から書かせていただくならば、これはPerfume流のスタジアム・ロック(アリーナ・ロックとも言う)だと思います。なおこの見方、ネット上では他にどなたも書いていません。一応英語も含めてググって確かめました。
では、そのスタジアム・ロックって何?ですが、大雑把ながら
1:大会場に似合う、壮大な曲調・サウンドで
2:群衆がシンガロングして盛り上がれる曲
でしょうか。それこそColdplayやFoo Fighters、Imagine Dragons、U2なんかをイメージしていただければと思います。One DirectionやTaylor Swiftもある意味ではそうかもしれません。イメージ的に1曲挙げるとすれば、これですかね。
そして2010年代のスタジアム・ロック(的にウケているもの)といえば、間違いなくEDMです(とりわけビッグルーム・ハウス。サウンド面での差異はさておき)。これはアトランタのダンス・フェス、TomorrowWorldでも体感しました。ド派手なサウンドに合わせて、群衆がシンガロングしまくり。たとえその曲がインストであっても、観客は大声でウォウウォウと歌うことで、会場の一体感を高めていきます。
「STAR TRAIN」の〈ウォーーオーー、ウォウォゥオオーーー〉(他に書き方ないのか)というシンガロング・パートは、まさにそれですし、途中でいかにもなビルドアップ(1分15秒あたりとかの、アゲていくブレイク)が入るのも、ビッグルーム・ハウス的です。
Perfume版のスタジアム・ロック(としてビッグルーム・ハウスを拝借する)というアイデア、いままでになかったしおもしろいですよね。しかも、これみよがしにドラマティックな展開にもできるところ、それは避けて、基本的に4つのコードが循環するだけの、抑制の利いた構造もユニークです。
しかし、それで新鮮なおもしろい曲になるかは、また別のお話なわけで……。
ヤスタカは「STAR TRAIN」の構造をシンプルにする代わり、アレンジで抑揚を付けています。これを単調と取るかダイナミックと取るかは人それぞれですが、確かに近田さんの指摘する通り、ミディアムのビートは良くも悪くも平凡な印象です。それに乗るピアノもギターも普通のアコースティックな音色で、ちょっぴり保守的な印象は拭えません。
もちろん「STAR TRAIN」に新味がないわけではなくて、3分20秒からのアカペラで声を重ねてアゲていく感じは新鮮です。あとは、うーんと……まあいろいろありますよね……
◇ You ready for this?
「音楽と人」2015年12月号によると、今回は最初に「TOKIMEKI LIGHTS」ができていたものの、もう1曲(つまり「STAR TRAIN」)を作るためにヤスタカは相当な時間をかけて、レコーディングの予定も延期を重ねたそう。これは〈5分の曲なら5分で作れる〉とうそぶくヤスタカにしてはかなり珍しいことのようです。
そしてようやく曲が出来上がり、レコーディングに臨むメンバー3人が詞を読み、〈この曲、私たちのことを書いてくれている……!〉と泣いた。というのが、言ってしまえばこの曲の最大のポイントなわけで、そこに乗れるかどうかが、この曲の評価を大きく分ける気がします。
〈そこに乗れるかどうか〉、つまりPerfumeのストーリーや、3人の関係性にどれくらい感情移入できるか、心酔しているか、です。「STAR TRAIN」は、Perfumeの〈ストーリーと関係性〉を描くためにあるような曲です。〈肩を組んで笑ってきた/僕らはきっと負けない〉とか〈歯車のように噛み合う力は/一人じゃきっと伝わらない〉とかね。
Perfumeの楽曲には、ヤスタカがその時々のPerfumeを巡る状況や、3人へのメッセージを、詞に書き込んだと思しきものが散見されます。解釈は人それぞれですが、「love the world」や「マカロニ」(たぶん)、「JPNスペシャル」、言わずもがなの「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」……
そして「Dream Fighter」。
この曲、リリース当時は初の日本武道館公演に挑むPerfumeを象徴する楽曲という印象でしたが、いまやこの曲は普遍的な応援ソング(a.k.a 頑張れソング)として、多くのファン、そして何よりPerfumeメンバーから親しまれています。
今回の「STAR TRAIN」の受け入れられ方は、「Dream Fighter」と非常に近いものがあります。それ自体はまあそうだろうな、という感じですが……さあ、ここからが本題ですよ(※前置きが長い)。
前回のエントリーで、Perfumeには〈多面的な魅力〉があり、ファンがそれぞれ自分の好きな要素を見い出すと書きました。いま、その需要が〈Perfumeのストーリー性〉と〈3人の関係性を含むキャラクター性〉に偏ってきているのではないでしょうか。あと、〈最新テクノロジーの活用〉もあるんですが、それはまた稿を改めて……
◇SERVICE
以前、ジャズ・ミュージシャンの菊地成孔さんは「昨今の日本人が、やたらと感動しよう、感動しよう、でなきゃツッコミを入れよう、入れよう、としている」と、ブログで書かれていました。その通りだと思います(もしあとひとつ付け加えるなら、褒められたがっている、特に海外から、とも感じます)。
その風潮の背景には様々な社会的要因がありそうですが、それはさておき、感動できて、泣けて、ツッコミを入れられる(そして海外でも認められる)ことにコンテンツの価値があるとするのなら、Perfumeってそういう意味では完璧かもしれません。
でも、Perfumeの……というより音楽の魅力は、〈感動できること〉だけではないわけで。
今回の「STAR TRAIN」、やたらと〈感動〉ばかりに焦点が当たっていますが、では実際にヤスタカはどういうつもりで書いたのか?
もちろん、Perfume3人のことを想って書いているとは思いますが、むしろヤスタカが時々やる、「お前らこういうの好きなんだろ?」的なサーヴィス精神の表れといいますか……
ここで、CMなどのタイアップが付いた、近年の楽曲の傾向を考えてみましょう。
「Natural Beauty Basic」のCMソング「ナチュラルに恋して」
「氷結」のCMソング「GLITTER」
「氷結やさしい果実の3%」のCMソング「微かなカオリ」
「映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)」の主題歌「未来のミュージアム」
「VIERA」(ディスプレイ)のCMソング「DISPLAY」
「メルセデス・ベンツ Aクラス」のコンセプト〈Next Stage with YOU〉をそのまんま拝借した「Next Stage with YOU」
これらに見られる、これでもか!!というくらいクライアントやその商品に寄せていく意匠が、間違いなく今回の「STAR TRAIN」にも透けて見えると思います。
むしろその意味で、Perfumeらしい曲でもありつつ、ものすごーーくヤスタカらしい曲とも言えるのではないでしょうか。
なお「STAR TRAIN」はWiz KhalifaとCharlie Puthの異常ヒット曲「See You Again」に似ている……というかそっくり……いや激似という話はまあ置いておきましょう。
◇Next Stage with YOU
いろいろ書いてきましたが、Perfumeは常に過渡期にあり(ますよね?)、「STAR TRAIN」が〈感動〉面での支持を集めても、結局はPerfumeの過程の、ひとつに過ぎないはずです。
この先に控えているニュー・アルバムとツアーで、また新しくておもしろい何かを見せてくれることを、心から楽しみにしています。