R.E.P.

Perfumeに特化した音楽ブログ/音楽に特化したPerfumeブログ

第54回 伊勢丹とPick Me Up!

isetanparknet.com

Perfume伊勢丹のコラボレーションにはびっくりしました! 店内スタンプラリー、「Pick Me Up」MVのセットやPerfume衣装の展示、伊勢丹内のメンバーお薦め売り場を紹介したマップ、さらにはメンバーによる館内放送&「Pick Me Up」オンエアと盛りだくさん!

Perfumeは現代のファッション・アイコンである〉という百貨店業界(のトップ!)のお墨付きともいえ、レポートし甲斐のある企画ですが、実は当の伊勢丹のブログがいちばん的確なので、そちらにおまかせします。

f:id:t_kito:20150410200924j:plain

そして、このコラボ企画の核と言えるのが新曲の「Pick Me Up」です。

 

メンバーインタヴューによると、この「Pick Me Up」は伊勢丹から(というよりは広告代理店でしょうけどコラボの企画を持ちかけられ、それを受けてヤスタカが作った曲とのこと。

しかしこの曲、ヤスタカには珍しい、というか

これまでなら絶対にやらなかった類のアプローチにも思えます。

 

「Pick Me Up」発表時、〈この曲はEDMだ!〉という感想が多く聞かれました。そこで今一度、これまでのPerfumeとEDM〉の距離感を考えてみて下されば、というエントリーです。

なお、ブログ運営を経ての大きな学びとして「よくわからないことは絶対に書かない」が信条ですが、そうも言ってられない状況っぽいのでがんばります。

まとめ(いきなり)

いまからあれこれ書きますが、長いです。〈現代人は長文が読めなくなった〉菊地成孔さんもお書きでしたので(わざわざこのブログを見に来て下さる方はそんなことないと思いますが!)、まず要旨を書いておきます。

 

・最近は何でもかんでも雑に〈EDM〉って括られるし、猫も杓子も〈EDM!〉と言ってる

・〈なんか流行ってるらしいんでやってみました!〉みたいな安直EDMもあるけど、我らがPerfumeは、毎回ヤスタカがひねりを利かせてるからな!

・「Pick Me Up」……あ、あれ、なんか安直EDMになってる……?

ヤスタカどうした

まぁパッケージ通して聴かないとわかりませんね!

以上です。

f:id:t_kito:20150410203423j:plain

EDM=Electronic Dance Music

EDMを知るためには、何度も紹介していますが2012年のbounce誌掲載、「Di(s)ctionary〈EDM〉」が断トツで丁寧かつわかりやすいです。そして以下は、私なりの解釈も含めた、その概略です。

広義のEDMは〈電子音によるダンス・ミュージック〉なので、テクノもハウスもエレクトロも、トランスもユーロ・ダンスも、そしてテクノ・ポップも、EDMといえばEDMなのでしょう。

しかし2000年代の後半以降になると、〈EDM〉という単語の使われ方が変化。エレクトロ~プログレッシヴ~ユーロ・ハウス、ダッチ・トランス~ダーティー・ダッチ、あとブロステップやトラップあたりのド派手で享楽的でひたすらアッパーなダンス・ミュージックが、〈EDM〉というレッテルでひと括りにされている印象です。

ある意味ブランディングというか、マーケティング的な側面もあったと思います。

f:id:t_kito:20140927224315j:plain

ヨーロッパから届いたこのサウンドが、2010年頃からアメリカを席巻し(つまり日本でのブームはかなりの出遅れ)、〈EDM〉というワードが完全に定着。いまや世界中で巨大なマーケットを創出したわけです。

それ自体は素晴らしいことですが、いまやそのワードだけが独り歩きしている状況も見受けられます。

日本におけるEDM認知度(一例)

ライター業をやっていると、レコード会社の宣伝ご担当者が作成する、新譜の紙資料を拝見する機会が多々あります。マスコミやネットでの宣伝などでも絶対欠かせない、重要なプロモーション・キットですね。私は主に邦楽の資料を拝見しますが、そこに最近では、昔からあるようなエレクトロ・ポップでも〈今回はEDM!〉と書かれているものも……

 

まあ、それは良いとしましょう。皆さんご多忙です。しかし、ただシンセや電子音を入れただけなのに〈今回はEDMを採り入れた!!〉と書かれたものもあります……

 

 

ま、まあ、上述の〈広義のEDM〉解釈なら決して間違っていないし(絶対そういう意図じゃないだろうけど……)と思っていると、どう聞いてもロック・バンドなのに〈俺たちの音楽はEDMだと思う〉というメンバーコメントが載った資料までも……

 

 

さすがにこれらは少数(?)の例としても、EDMの音楽的な多様性や、曲自体の出来の善し悪し度外視(≒記号化)し、十把一絡げに供給している(どこで?)のはさすがに無神経だと思います。

PerfumeはEDM?

Perfumeが2012年に「Spending all my time」を発表した当時や、「Party Maker」の頃もPerfumeがEDMやってる!〉と散々言われていました。しかしこの2曲、シンセの音色こそEDMっぽいですが、楽曲の構造や展開は、あくまでも従来のエレクトロ~テック・ハウス路線に則っています。

f:id:t_kito:20130827164521j:plain

↑「LEVEL3」すらも一部で〈EDM路線に振り切ったアルバム〉とか言われていたな……

 

いままでのPerfume曲に、新たなテイストを採り入れて独自路線を更新しようとする、つまり〈EDM、オレならこうやるね!〉というヤスタカ節(=提案)がありました。〈なんか流行ってるらしいんでEDMやってみました!〉みたいな安直EDMとは一線を画そうという意図が、はっきりあったと思います。

 

また「Sweet Refrain」の甘いメロディーとは対照的な、いかにもブロステップな攻撃的ベース(通称:ウォブルベース)だって非常にEDM的でした(あれを聴いて〈EDMだー!〉と言ってた人はあまりいなかったような……)

 

かように、ヤスタカは海外のダンス・ミュージックのトレンドを踏まえつつ、常に自分ならではの創意工夫を図ってきました。それがヤスタカの作家性の大きなポイントのひとつ、という認識でしたが……

 

「Pick Me Up」

www.youtube.com

うーーーーむ……これ、そのまんまちょっと前の売れ線EDMでは? どうしたヤスタカ?

 

CAPSULE『WAVE RUNNER』もEDM路線でしたが、凝った構成やアンサンブルのおもしろさに〈オレならこうやるね!〉感がビンビンでした。しかしこの「Pick Me Up」では、とうとう例のド派手なブチ上げブレイクも、トランシーなシンセもガンガン使って、いかにもなビッグルーム・ハウスになっています。

注:ビッグルーム・ハウス=大会場を盛り上げる、エレクトロ~プログレッシブ・ハウスを大まかにまとめてこう呼んでいると思います(トランスの要素も濃い気がします)。Beatportでもちょっと前まで〈This Week's Best Of Big Room〉なんてコーナーがあったのですが、最近見たら消えてました

 

序盤のあ~ちゃんの歌い出しで、これ見よがしにアコースティック・ギターなんか入れていますが、EDMにアコギ入れるのなんて、David Guettaの「Lovers On The Sun」とか、それこそAviciiの「Wake Me Up」で…………あれ? なんかタイトルが……

www.youtube.com

 

エモーショナルな処分歌唱

売れ線EDMになっている(ように聴こえる)他に、「Pick Me Up」で従来と違う点があるとすれば、メンバーの歌唱ではないでしょうか。

これまで(松尾潔さんが指摘されていたように)、ノン・ビブラートで情感を抑えた歌い方Perfumeのキャラクターでした。ここ数年はかつてのようなチューン・ヴォイス(ロボ声)ではなく、ナチュラルな揺らぎも含めた、歌声の肉体性を感じさせるように(つまり生の声に)なり、先の「Cling Cling」からは曲中のコーラスをメンバーの歌唱で録音した(それまではヤスタカが歌声を素材として編集して重ねていた)という変遷があります。

f:id:t_kito:20150310130948j:plain

そして「Pick Me Up」では〈♪輝く星空のような〉の部分で、いままでになかったほどエモーショナルにメロディーを歌い上げています(あののっちが!)。〈Perfumeとしての新機軸〉と言えなくもないですが、EDMのヒット・チューンでは、多くの場合シンガーがこれ以上ないくらいエモーショナルに歌い上げまくりなので、これもPerfumeでやる意味はどこにあるんだろう?というのが正直な感想です。

 

ってどんだけ

長々と書いてるのかという話ですが、そもそも次回のリリースは「Pick Me Up」を含む3曲入りとのこと。パッケージにおけるサウンドのバランスや曲順の流れで、聞こえ方や評価も大きく違ってくると思います。

それこそがCDをリリースする意味やおもしろさだと思うし、そういう意味で「Pick Me Up」も〈おもしろい曲〉になることを期待しています!

f:id:t_kito:20150410215657j:plain

疲れました! そしてここまで読んで下さった奇特なあなた、本当にありがとうございます!