第58回 Ultra Japan、何かヘンだぞ?
※今回は少し趣を変えています(
※まずないと思いますが、万一関係者の方がご覧になる場合「あー、
Ultra Japan 2015、全券種ソールドアウト! 関係各位、おめでとうございます!
ついに日本でもEDMが大ブレイクですね!
ヨーロッパでのEDM人気から7~8年、アメリカからも4~
あれ……?
Ultra Japanの3日券って39,000円もするんだ……?
↑TomorrowWorldのチケット購入明細
うーーーん、TomorrowWorldはステージが8つあって出演者も
あれ、極東アジアといえば2013年にUltra Koreaも行ったな……
↑Ultra Koreaのチケット購入明細
当時はいまより円高ウォン安のため、
Ultra Korea 2014、いま2DAYSチケットを買えば、通常価格の半額の75000ウォン(6500円くらい)か…。1日あたり3000円ちょっと。そこらのライブハウスより安い http://t.co/itJIKeTwV3
— t_kito (@t_kito) 2013, 8月 8
Ultra KoreaのPerfumeライヴ終了。 あんなに苦戦してるPerfumeは初めて見た。悔しいなぁ
— t_kito (@t_kito) 2013, 6月 14
◇Ultra Japanのチケットは割高?
◇個人的にもっとも奇妙な点
◇まとめ的なもの
EDMブームを仕掛けて〈売れるうちに売っちまえ!〉
第57回 SONICMANIA2015
行ってきましたSONICMANIA、楽しかったSONICMANIA!
Perfume SET LIST
1. Pick Me Up
2. レーザービーム
3. GLITTER
4. Spring of Life
MC
5. NIGHT FLIGHT
P.T.Aのコーナー(mihimaru GT「気分上々」)
6. Party Maker
7. だいじょばない
8. チョコレイト・ディスコ
まあしれっと書いていますけど、私が入場したのは最初のMC時。
あ~ちゃん「暑いねー! もう帰ってもいい? いや、もう帰ってもいいくらい、みんな熱いし楽しかったから!」と、遅れてきた(しかも海浜幕張駅から会場まで全力で駆け抜けた)私には底のない脱力感を与えるものでした。「GLITTER」聴きたかったよ……
というわけで後半の4曲しか観られていないのですが、なかなか良かったのではないかと思います。3人のダンスのグルーヴも出ていたし、P.T.Aのコーナーであ~ちゃんが「(ピースサインを目元に当てながら)ヤバぁーい、チョー盛り上がってるぅー!……今日の裏テーマは〈ギャル〉です! ははは!でもいちばんギャルのマネがうまいのは、かしゆか!」
かしゆか「(生意気そうな口調で)パーリーナイ!チョーサイコー!☆」
そういうギャルがいるかはさておき、のっち空気になってるじゃねえか!
はい、Perfumeの感想は以上です。いや今日書くことたくさんあるので!
Madeon
個人的には、Perfume→Madeonの流れは願ってもないものです。Madeonくん(94年生まれ)はフレンチ・エレクトロシーンの若きエースにして、〈UMF〉などのEDM系フェスにも引っ張りだこのDJ/クリエイターですが、実は熱心な中田ヤスタカファンでもあります。『Japan Only EP』などで聞けるエレクトロ・チューンはまさに中期capsuleと相通じるものだし、DJするときはいつもヤスタカの曲をセットに入れているとか。
つまり、Perfume→Madeonと続けて観ることの、裏テーマは〈ギャル〉……じゃなかった〈中田ヤスタカ〉なわけです。
そんなMadeonくん、先日発表した初のフル・アルバム『Adventure』のリード曲である「Pay No Mind feat. Passion Pit」を、中田ヤスタカがリミックスすることになりました。http://www.sonymusic.co.jp/artist/madeon/info/456312
Madeonのコメント「僕は何年も前からCAPSULEと中田さんが手掛けられた作品のファンで、僕の音楽にも大きな影響を与えています。僕の曲「ペイ・ノー・マインド」のリミックスをお願いして、快諾してくれた時には嬉しくて興奮しました。完成したリミックスも素晴らしくて、いつもDJセットでプレイしています。」
このリミックス、Apple Musicなんかで聞けますので、聞ける方はぜひ。
つまり、Madeonは間違いなくPerfumeもチェックしているし、Perfumeが出演する日本のフェスで自分もパフォーマンスできることを、そしてPerfumeのライヴを楽しみにしていたはずです。そんなMadeonくんのタイムスケジュールがこちら。
……もろに被ってるじゃないか……
ただ、ネット情報ではPerfumeライヴの序盤に、Madeonくんの姿がフロアで目撃されていたので、最初の5分くらいは観られたんじゃないかな、と思います。まあ、Perfume観たければ来日すればいいんですよ、かのSurgeon先生のように!!
そうそう、Madeonくんのパフォーマンスですが、機材の一部を観客に見えるように向けて、演奏している様をわかるようにしていました(オレはちゃんと演奏してるよ!的な)。エレクトロ~エレクトロ・ポップを中心に、メリハリのある構成。アゲ一辺倒ではなく、多様なリズムとキャッチーなリフで始終フロアを良い温度で盛り上げていて、うまいなー飽きさせないなーと思いながら観ていました。「Pixel Empire」は、もろに「Merry Christmas, Mr. Lawrence」だなーとか。
特に終盤、「Finale」からの「Pay No Mind(※ヤスタカリミックスではなかったはず)」というコンボは超強力! そしてブースを離れ、ステージに置いてあったジャケットを羽織りり、手を合わせてぺこりとお辞儀。あ、終わりかな?と思ったら、もう1曲、キーボードを弾きながら美しいスロウを歌ってくれて(声は加工していた)、エレクトロニック・シンガーソングライターみたいな風情もありました。サウンドも魅力的ですが、全体的にミュージシャンシップの高さが滲み出ていて、そこがMadeonくんらしさなんだな、と気付きました。
さあ、次はPorter Robinsonです!
Porter Robinson
個人的に、フジロックやageHaでのDJも観ていて、これが3回目。以前はアゲアゲのエレクトロ・ハウスばかりかけていて、いかにもなEDMの新世代DJ!って感じでしたが、今回は〈Live Set〉とのことで、どうなるんでしょうか。
そこへTwitterのこんなリプライをいただきました。Madeonのスケジュール(Perfumeともろ被り)に関する私のツイートへの反応です。
@t_kito ポーター・ロビンソンの勝ちということで pic.twitter.com/qamQVM9j5b
— ずるり【=◈︿◈=】 (@pinkertonJPN) 2015, 8月 14
そう、Porter RobinsonもMadeonと同類です!!!(Perfumeと時間が被っているかどうかの大きな差はあるが)
そもそも、Porter Robinsonの初のフル・アルバム『Worlds』は、売れ線EDMから完全に一線を画したエレクトロ~ドリーム・ポップになっていて、これはPerfumeが「透明人間」で見せたアプローチと同じであり、Mat Zo『Damage Control』なんかもこの路線ですね。これはひとつの(EDMブームへのカウンターも含む)潮流でもあると言えますし、そして、Porter RobinsonとPerfume、Mat Zoは奇しくもAstralwerksでのレーベルメイトでもあっ……いえ、なんでもないです。
その作品のなかに、EDMブームに対する批評性を内包し、〈EDM〉と一括りにして消費されることを良しとしない。そしてユーザーへの〈こういうサウンドもおもしろくない?〉という提案と、自分ならではの音楽を追求する姿勢がある。これはヤスタカ、Porter Robinson、そしてMadeonにも共通するマインドであり、そういう意味でもこの3者は非常に近い立ち位置にいるように思います。
しかしPorter Robinsonのライヴは、私の予想を遥かに超えるものでした。サウンドは『Worlds』のとおりの、かなりナード(オタク)に寄ったエレクトロ~ドリーム・ポップで、彼の優れたソングライター性がよく出ているのですが、スクリーンに映し出される映像は日本のアニメ、ゲーム、漫画にインスパイアされたものばかりで、アニメやドット絵で描かれた色とりどりのキャラクターや、バグったような日本語がスクリーンを乱舞し、あまつさえ「Flicker」では「魔法少女まどか☆マギカ」の主題歌(だと思う)を重ねて流すという大暴走!! っていうかこの人、単に日本のアニメ・ゲームのマニアじゃねえか!!
日本のお客さんは結構ウケてましたし、「Hear The Bells」とか「Lionhearted」とか見事な曲も多いし、ライヴとしての完成度とユニークさはかなりものだと思いますが、このセットで海外のフェスでも戦ってるんだ……と思うと、Madeonのミュージシャンシップとはまた異なる、〈業の深さ〉を感じました。
Dillon Francis
これまでのアクトとはまた異なる文脈で、とても楽しみにしていたのがDillon Francis。先日のTomorrowland2015でもメインステージに登場、超盛り上がったらしいし、特に昨今のEDMフェスでは王道の売れ線EDMではなく、彼のような〈トラップ〉(だけじゃないけど)の方が支持されているらしいし、これこそ2015年のいま、観ておくべきアクトです!!!
うっわー客いねええ!!!!!!
まあ予想はしてましたけど、ただパフォーマンスはすごかった! トラップやエレクトロ、ジャングルにヒップホップ、ダンスホール・レゲエ(なのか?)などのベース・ミュージックを中心に、とにかく底抜けに踊らせる曲を連発。ブーティーでヒップで、はちゃめちゃでエネルギッシュで、もうホントにいまの時代のサウンド、って感じでした。
そしてDillon Francis、ステージの去り際に「ニホンダイスキー! カンチョー(ポーズしながら)!!」と。お前、さては適当だな? っていうか誰がこんなの教えたの?
やばい。。。@DILLONFRANCIS にカンチョウを教えなきゃよかった…
— porter robinson (@porterrobinson) 2015, 8月 15
お前かーーー!!!!
第56回 Relax In The City/Pick Me Up/考えるヒット
Perfumeの両A面ニュー・シングル「Relax In The City/Pick Me Up」がリリースされました(結構前に)!
そして週刊文春(2015年5月21日発売号)の近田春夫さんのJ-Pop時評連載「考えるヒット」でも、「Relax In The City」が採り上げられています!!
私の文章はともかく近田さんの原稿の書き出しを抜粋させていただきます。
ちなみに、いまさら書く必要もないと思いますが、近田さんは「ジェニーはご機嫌ななめ」の作者です。
・新譜が出れば聞いてみたくなるのがPerfume
・アーティストとしてのポジションや本人たちのスキル、
メジャーデビューして10年経ってるのに、まだ〈可能性の幅がたっぷりある〉って珍しいですよね……そして近田さんは以下のように続けます。
・ドメスティックな大衆性を保持しつつも、グローバルなリスナーに向
Perfumeの、〈グローバルなリスナー(というかトレンド?)〉を視野に入れた音楽的スタンス。そこにしっかり触れている、近田さんらしい評論です。
◆「Relax In The City」(のベース)
さてお待ちかね(※誰も待ってない)私の感想も。この曲、CDリリースで初めてちゃんと聴いたのですが、パッと聞きの印象は
「え? これ〈微かなカオリ〉?」
『JPN』の時期に顕著だった、柔らかいサウンド・デザインとポップなメロディー、優しい歌い口。「Relax In The City」ではさらにメンバーのヴォーカルの存在感が前に出た印象で、Perfumeのコーラス・グループとしての魅力にフォーカスされています。
うん、良い曲ですね…でもちょっと保守的かな、と思う間もなく、何でしょうこのロウな鳴りのベースは。「Sweet Refrain」ではいわゆるウォブル・ベースを導入して、ゴリゴリにディストーションが掛かっていましたが、というかいま思うと「Sweet Refrain」ってとんでもない傑作だった(割に対して語られなかった)気がしますが、それはさておき。
近田さんは、このイントロからの流れをどう聴いたのでしょうか。
・
・ホットでイケイケなだけのアイドルものとは一線を画す、体感温度低
・比較的女性の側に立った質感の曲調には似つかわしくない、ある種豪
そうそうそうですよね近田さん!! オルゴールとは微妙に違う気もしますが!!
近田さんの評論は〈温度感〉や〈(予定調和ではない)楽曲の展開〉〈ビートの重たさ〉という概念が結構出てきますが、まさにこの曲こそ、そういう切り口がぴったりな気がします。というか、そういうテーマをもって作られる曲が少なすぎ、ということでしょうか……
◆「Relax In The City」の持つ力
「Relax In The City」のサウンド・プロダクションの特徴は、重みのあるベースを、そうと聞かせず…というか、軽やかで穏やかなウワモノとの、絶妙なアンサンブルになっているところだと思います。この実験精神というかバランス感が、やっぱりヤスタカ素直じゃないなという結論に至る所以でしょう。
そして、そのチャレンジが自己満足ではなく、最終的には3人のヴォーカルを引き立てるためになされている、これはいかにもPerfumeらしいプロデュースワークと言えそうです。
で、私がつべこべ書いているところ、近田さんはサラッとこんな風にこの曲を評価されています。
・例えばこの曲が、全然日本語の通じないどこか外国のクラブでかかっ
言葉や国境や人種や時代を越えて、盛り上がることができるのが音楽の力だとすれば、この近田さんの文章が示すものこそ、まさにそれだと思います。
もっとも、歌詞はそんなに特筆することがない気もしま……
◆音楽業界を考えるヒット
「Relax In The City」は世界のどこでも盛り上がるだろう、と綴る近田さんの文章は、Perfumeを離れて音楽業界へと向きます。
・メジャーどころで、近頃彼女たち以外に一切そういった(筆者注:世界でも通用する)印象の音がないことは、未来に向けて、いくらなんでも
・そのあたり、商業音楽制作のトップに君臨されている皆さん的には
いやー、私も一応音楽業界にいる身として、さすがにここまでは書けませんが、
……近田さんの引用なら書ける!!!!
今回は近田さんと私の合評(※私からの一方的な)になりましたが、実はテキストそのものは「考えるヒット」の前に書いていたので、こういう形式にさせていただきました。もう近田さんに連載の感想(akaファンレター)送ろうかと思っています。
次回は「Pick Me Up」、そして「透明人間」について書きたいところです。それにしても、気のせいかなー、なんか「Relax In The City」を聴いてると、麦芽とアロマホップでできた炭酸飲料を飲みたくなってくるなー
第55回 PAとは
いつもはPerfumeの楽曲やライヴについて、あーでもないこーでもないと言ってるブログですが、今回はPerfumeのライヴにおいて欠かせない要素のひとつ、PAについて書きましょうか。
PA=?
いきなりですが、PAの正式名称をご存じでしょうか?
〈拡声装置〉を意味する、Public Adress Systemです。
ライヴ会場に設置された、スピーカーなどの音響機材がPAシステム。
その機材を駆使し、会場で鳴らされる音を作り上げるのがPAエンジニアです。
音楽業界ではこれらをいっしょくたにしてPAと呼ばれますね。
ではどこまでがPAシステムか。厳密に言えば、ステージ上で出ている音を増幅するための機材……マイク、アンプ、モニター(ステージに立つ人が自分の出して いる音を聴くための)スピーカー、客席用スピーカー、そしてそれらの音を調整するミキサーが含まれるはずです。
が、ここでは〈ステージで鳴っている音を観客に伝えるシステム〉。という大まかな認識で書いて行きます。恥ずかしながら私はこのへんド素人なので、詳しい方のつっこみを切望しております。
ちなみにPAトリビア(懐かしい…)として、以下の2点をお伝えしましょう。
1:日本のコンサートでPAが使用されるきっかけは、The Beatles
1966年6月30日~7月2日のビートルズ日本武道館公演では、なんと日本にまだPAシステムが存在しません。ヴォーカル・マイクと、アンプ/ドラムスに立てたマイクだけで大観衆と向き合っています(なお、この時のビートルズの機材はUKから持ち込まれたVoxで、当時の日本製スピーカーとは桁違いの出力だったそう)。
モニタースピーカーもないため、そのころのビートルズは「アメリカでは観客の絶叫で自分たちの演奏が聞こえなかった」そう。それと比べると日本の観客は静かだったとか。
さておき、日本で初めての1万人超の大規模公演がビートルズの日本武道館であり、それ以降は大型体育館や球場などでのコンサートが一般化。音響や照明の機材、舞台美術、演出等が進化していき、現在に至るのです。ビートルズが日本の興行史を変えたわけですね。
2:日本で初めてPAシステムの会社を作ったのは加藤和彦さん
69~70年ごろ、サディスティック・ミカ・バンドのUKレコーディング(すげえな)でロンドンを訪れたトノヴァンさん(加藤さんの愛称)が、「その頃日本には機材とか今でいうローディーとかPAがなかった」ため、PA機材を大量に購入、日本に持ち込みライヴで使えるPAシステムを構築。しかも初めてモニター系統を(場内に流す音と)別に作ったのもトノヴァンさんたちだそう!
そしてトノヴァンさんが日本で最初のPA会社・ギンガムを設立されました。その当時、まだ22~23歳だったそうで、空恐ろしい話です。
こちらはMusicman-NETの加藤和彦さんインタヴュー(超おもしろい)から引用させていただきました。
PA エンジニアの役割
PAシステムの話はこれくらいで(逃げて)、ここからが本題。
PAエンジニアとは、音響機材のセッティングによるPAシステムの構築、そしてステージ上で鳴らされたサウンド(そして歌や演奏の信号)が送られてくるPAミキサーを操作し、音を増幅して、スピーカーから出力する仕事です。
え? ステージ上の音をただデカくするだけでしょって? いえいえ、それだったら無能で知られる私にもできてしまいます。
PAエンジニアの役割は、ステージ上で鳴らされた音を、その会場の隅々まで、バランスの取れた良い音で届けること。そのためのシステム構築とミックスだと思います。
その音はあくまでナチュラルかつクリアで、しかもミュージシャンの持ち味を最大限に引き出し、最高の状態でお客さんに届けられます。
書くのは簡単ですが、これは高い技術と豊かな経験、優れた音楽的センスに裏打ちされた職人技です。音響工学の知識、楽器の特性や、そのミュージシャンの音楽性についても熟知していなければなりません。
PAエンジニアはそれらのスキルを元に音を作り出す、クリエイティヴな仕事と認識しています。
バンドなら一人くらいいなくてもライヴはできますが(ホントかよ)、PAがいなければ音を増幅できず、規模の大きなライヴは不可能です。
Sound Of Music
ステージ上で、ミュージシャンの出す音は毎日違います。
そもそも会場ごとで、空間の広さや構造、残響などの環境がまったく異なります。
しかも、人間は音を吸収するので、無人の会場での音と、大観衆が詰めかけた会場での音はまったく変わってきます。
これらの状況を踏まえつつ、その日のミュージシャンと観客にとって、どんなサウンドがベストか。どういう音を作れば、演者は最高の気分でパフォーマンスし、お客さんは心から音楽を楽しんでくれるか。
それを追求するために、理想的なPAシステムを構築し、ライヴ中にはステージ上で鳴っているありとあらゆる音を、その音量・音質・音域を整え、バランス良くミックスする。状況が変われば即座に対応、常に良い音をキープし、すべての人に届ける。それがPAエンジニアの仕事です。
ちなみにPerfumeのライヴでは、進行に伴って音量が段階的に上がっていきます。それによって観客のテンションをコントロールするわけですが、これもPAならではの演出です。
このように、ライヴに絶対欠かせないPAエンジニアですが、大抵のお客さんは「会場の全員」が「良い音」で聴けるのがあたりまえと思っているはず。
できてあたりまえなこと、しかしその裏でPAエンジニアはこんなお仕事をされている……そう考えると、ライヴでの楽しみ方もちょっぴり変わってくるのではないでしょうか。
ただ「透明人間」……じゃないや、〈Too Many Gain〉な、爆音なら良いってもんじゃありません。
そして最高のサウンドを鳴らそうとして下さる方々の志があるからこそ、ライヴはおもしろいし、かけがえのない体験になるのだと思います。
第54回 伊勢丹とPick Me Up!
Perfumeと伊勢丹のコラボレーションにはびっくりしました! 店内スタンプラリー、「Pick Me Up」MVのセットやPerfume衣装の展示、伊勢丹内のメンバーお薦め売り場を紹介したマップ、さらにはメンバーによる館内放送&「Pick Me Up」オンエアと盛りだくさん!
〈Perfumeは現代のファッション・アイコンである〉という百貨店業界(のトップ!)のお墨付きともいえ、レポートし甲斐のある企画ですが、実は当の伊勢丹のブログがいちばん的確なので、そちらにおまかせします。
そして、このコラボ企画の核と言えるのが新曲の「Pick Me Up」です。
メンバーインタヴューによると、この「Pick Me Up」は伊勢丹から(というよりは広告代理店でしょうけど)コラボの企画を持ちかけられ、それを受けてヤスタカが作った曲とのこと。
しかしこの曲、ヤスタカには珍しい、というか
これまでなら絶対にやらなかった類のアプローチにも思えます。
「Pick Me Up」発表時、〈この曲はEDMだ!〉という感想が多く聞かれました。そこで今一度、これまでの〈PerfumeとEDM〉の距離感を考えてみて下されば、というエントリーです。
なお、ブログ運営を経ての大きな学びとして「よくわからないことは絶対に書かない」が信条ですが、そうも言ってられない状況っぽいのでがんばります。
まとめ(いきなり)
いまからあれこれ書きますが、長いです。〈現代人は長文が読めなくなった〉と菊地成孔さんもお書きでしたので(わざわざこのブログを見に来て下さる方はそんなことないと思いますが!)、まず要旨を書いておきます。
・最近は何でもかんでも雑に〈EDM〉って括られるし、猫も杓子も〈EDM!〉と言ってる
・〈なんか流行ってるらしいんでやってみました!〉みたいな安直EDMもあるけど、我らがPerfumeは、毎回ヤスタカがひねりを利かせてるからな!
・「Pick Me Up」……あ、あれ、なんか安直EDMになってる……?
・ヤスタカどうした
・まぁパッケージ通して聴かないとわかりませんね!
以上です。
EDM=Electronic Dance Music
EDMを知るためには、何度も紹介していますが2012年のbounce誌掲載、「Di(s)ctionary〈EDM〉」が断トツで丁寧かつわかりやすいです。そして以下は、私なりの解釈も含めた、その概略です。
広義のEDMは〈電子音によるダンス・ミュージック〉なので、テクノもハウスもエレクトロも、トランスもユーロ・ダンスも、そしてテクノ・ポップも、EDMといえばEDMなのでしょう。
しかし2000年代の後半以降になると、〈EDM〉という単語の使われ方が変化。エレクトロ~プログレッシヴ~ユーロ・ハウス、ダッチ・トランス~ダーティー・ダッチ、あとブロステップやトラップあたりのド派手で享楽的でひたすらアッパーなダンス・ミュージックが、〈EDM〉というレッテルでひと括りにされている印象です。
ある意味ブランディングというか、マーケティング的な側面もあったと思います。
ヨーロッパから届いたこのサウンドが、2010年頃からアメリカを席巻し(つまり日本でのブームはかなりの出遅れ)、〈EDM〉というワードが完全に定着。いまや世界中で巨大なマーケットを創出したわけです。
それ自体は素晴らしいことですが、いまやそのワードだけが独り歩きしている状況も見受けられます。
日本におけるEDM認知度(一例)
ライター業をやっていると、レコード会社の宣伝ご担当者が作成する、新譜の紙資料を拝見する機会が多々あります。マスコミやネットでの宣伝などでも絶対欠かせない、重要なプロモーション・キットですね。私は主に邦楽の資料を拝見しますが、そこに最近では、昔からあるようなエレクトロ・ポップでも〈今回はEDM!〉と書かれているものも……
まあ、それは良いとしましょう。皆さんご多忙です。しかし、ただシンセや電子音を入れただけなのに〈今回はEDMを採り入れた!!〉と書かれたものもあります……
ま、まあ、上述の〈広義のEDM〉解釈なら決して間違っていないし(絶対そういう意図じゃないだろうけど……)と思っていると、どう聞いてもロック・バンドなのに〈俺たちの音楽はEDMだと思う〉というメンバーコメントが載った資料までも……
さすがにこれらは少数(?)の例としても、EDMの音楽的な多様性や、曲自体の出来の善し悪しを度外視(≒記号化)し、十把一絡げに供給している(どこで?)のはさすがに無神経だと思います。
PerfumeはEDM?
Perfumeが2012年に「Spending all my time」を発表した当時や、「Party Maker」の頃も〈PerfumeがEDMやってる!〉と散々言われていました。しかしこの2曲、シンセの音色こそEDMっぽいですが、楽曲の構造や展開は、あくまでも従来のエレクトロ~テック・ハウス路線に則っています。
↑「LEVEL3」すらも一部で〈EDM路線に振り切ったアルバム〉とか言われていたな……
いままでのPerfume曲に、新たなテイストを採り入れて独自路線を更新しようとする、つまり〈EDM、オレならこうやるね!〉というヤスタカ節(=提案)がありました。〈なんか流行ってるらしいんでEDMやってみました!〉みたいな安直EDMとは一線を画そうという意図が、はっきりあったと思います。
また「Sweet Refrain」の甘いメロディーとは対照的な、いかにもブロステップな攻撃的ベース(通称:ウォブルベース)だって非常にEDM的でした(あれを聴いて〈EDMだー!〉と言ってた人はあまりいなかったような……)
かように、ヤスタカは海外のダンス・ミュージックのトレンドを踏まえつつ、常に自分ならではの創意工夫を図ってきました。それがヤスタカの作家性の大きなポイントのひとつ、という認識でしたが……
「Pick Me Up」
うーーーーむ……これ、そのまんまちょっと前の売れ線EDMでは? どうしたヤスタカ?
CAPSULE『WAVE RUNNER』もEDM路線でしたが、凝った構成やアンサンブルのおもしろさに〈オレならこうやるね!〉感がビンビンでした。しかしこの「Pick Me Up」では、とうとう例のド派手なブチ上げブレイクも、トランシーなシンセもガンガン使って、いかにもなビッグルーム・ハウスになっています。
注:ビッグルーム・ハウス=大会場を盛り上げる、エレクトロ~プログレッシブ・ハウスを大まかにまとめてこう呼んでいると思います(トランスの要素も濃い気がします)。Beatportでもちょっと前まで〈This Week's Best Of Big Room〉なんてコーナーがあったのですが、最近見たら消えてました
序盤のあ~ちゃんの歌い出しで、これ見よがしにアコースティック・ギターなんか入れていますが、EDMにアコギ入れるのなんて、David Guettaの「Lovers On The Sun」とか、それこそAviciiの「Wake Me Up」で…………あれ? なんかタイトルが……
エモーショナルな処分歌唱
売れ線EDMになっている(ように聴こえる)他に、「Pick Me Up」で従来と違う点があるとすれば、メンバーの歌唱ではないでしょうか。
これまで(松尾潔さんが指摘されていたように)、ノン・ビブラートで情感を抑えた歌い方がPerfumeのキャラクターでした。ここ数年はかつてのようなチューン・ヴォイス(ロボ声)ではなく、ナチュラルな揺らぎも含めた、歌声の肉体性を感じさせるように(つまり生の声に)なり、先の「Cling Cling」からは曲中のコーラスをメンバーの歌唱で録音した(それまではヤスタカが歌声を素材として編集して重ねていた)という変遷があります。
そして「Pick Me Up」では〈♪輝く星空のような〉の部分で、いままでになかったほどエモーショナルにメロディーを歌い上げています(あののっちが!)。〈Perfumeとしての新機軸〉と言えなくもないですが、EDMのヒット・チューンでは、多くの場合シンガーがこれ以上ないくらいエモーショナルに歌い上げまくりなので、これもPerfumeでやる意味はどこにあるんだろう?というのが正直な感想です。
ってどんだけ
長々と書いてるのかという話ですが、そもそも次回のリリースは「Pick Me Up」を含む3曲入りとのこと。パッケージにおけるサウンドのバランスや曲順の流れで、聞こえ方や評価も大きく違ってくると思います。
それこそがCDをリリースする意味やおもしろさだと思うし、そういう意味で「Pick Me Up」も〈おもしろい曲〉になることを期待しています!
疲れました! そしてここまで読んで下さった奇特なあなた、本当にありがとうございます!
第53回 Perfume at SXSW!!!
Perfume、毎年3月にアメリカ テキサス州オースティンでミュージック、フィルム、インタラクティブの三本柱で行われるイベント「SXSW 2015」出演決定!出演日等の詳細は決まり次第お知らせします!http://t.co/qt6PcIjKNV #prfm #perfume_um
— Perfume_Staff (@Perfume_Staff) 2015, 1月 24
「第50回 Perfume、SXSW 2015に出演決定!!」のエントリーの続報です。
その後、2月中旬にはPerfumeが出演する日時と会場が発表されました!
が……
SXSW2015 Perfume出演日時・会場
3月17日(火)25:00 Highland Lounge http://highlandlounge.com/
おお、なかなかキレイで新しそうな会場じゃないですか。
キャパシティ:650
えっ……650?
しかも、ゲイ・ナイトクラブ!!!
ホームページを観る限り、ゲイ専門ではなくLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)、つまり性的マイノリティーの方々が集まるハコのようです。
〈そうじゃない人〉問題
Perfumeのライヴに行かれたことのある方はご存知でしょう。「P.T.Aのコーナー」で、あ~ちゃんが客席に〈男子ーー! 女子ーーー!! そうじゃない人ーーーー!!!〉と呼びかけます。
ただ、〈そうじゃない人〉は〈男性でも女性でもない〉というよりは、そのどちらとも決め切れない(身体と心の性が異なる)、つまりトランスジェンダーの方々ですね。なのでLGBT全般を考えると、一律に〈そうじゃない人〉と括ってしまうのはちょっと乱暴な気もしますが……
世間は圧倒的にストレート(多数派である異性愛者、ヘテロセクシュアル)が多いですし、日本ではカミングアウトしているミュージシャンが極めて少ないですが、20人に1人はLGBTだという説もあります。
Perfumeがいまやっているエレクトロやハウスの音楽的なルーツを辿っていくと、その過程にゲイ・ディスコやゲイ・クラブが歴然と存在していますので、PerfumeがLGBTのクラブでライヴをやること自体は、そんなに違和感ありません。
まあ、SXSWのページでこれだけ大きく扱ってたのに、キャパ650なのか!とは思いましたけどね。
Live Streaming
そのSXSWには行く気満々だったのですが、結局仕事で泣く泣く不参加の私に、朗報が!
Perfumeの「SXSW 2015」ライブ生中継が急遽決定!SXSW Asia Repが、SXSWでのPerfumeのパフォーマンスの一部を、YouTubeチャンネルにてライブストリーミング!日本時間3月18日(水)15時頃〜、ライブ生中継にご期待ください! #prfm
— Perfume_Staff (@Perfume_Staff) 2015, 3月 16
おおお! さすがはITの祭典、SXSW!!!
Perfumeは現在「SXSW 2015」に出演するため、アメリカはオースティンにおります!!#prfm
— Perfume_Staff (@Perfume_Staff) 2015, 3月 18
この後15:00頃~Perfume「SXSW 2015」のライブを生配信!SXSWでのパフォーマンスから、「STORY(SXSW-MIX)」をSXSW Asia Repが配信いたします!1曲のみとなりますがチームPerfumeの挑戦にご期待ください!#prfm
— Perfume_Staff (@Perfume_Staff) 2015, 3月 18
って1曲ですかい!!!!
皆様中継お見逃しなく🙏ぼちぼちイベントスタートです。 @ 6th Street, Austin, TX https://t.co/j0eSGqAnKn
— daitomanabe (@daitomanabe) 2015, 3月 18
STORY(SXSW-MIX)
ストリーミングの時間に重要な会議があったため、リアルタイムでは観られませんでしたが、追ってネット上にいくつか残っていた録画映像を観ました。
(追記:Perfumeの公式YouTubeチャンネルで再アップされました!期間限定です)
チームPerfume無事に日本に帰って参りました!そんな中、「SXSW 2015」から生中継されたPerfumeの未発表楽曲「STORY」を、好評につき1ヶ月限定でPerfumeオフィシャルチャンネルにて公開中!必見です!https://t.co/iAwMSfg5x7 #prfm
— Perfume_Staff (@Perfume_Staff) 2015, 3月 20
えー正直言いまして、
何が起きているのかよくわからなかったのですが、とにかくいままでに観たことのない映像、初めて観る演出。
いつも新しくておもしろいことを実現させようとするRhizomatiksとPerfumeのチーム力が、真価を発揮したことは間違いないでしょう。
なぜ私はこの場所にいなかったのか……!!!!(※仕事)
カメラアングルのシームレスな変化や、CGと実写のミックスなど、どうやっているのか皆目見当もつきませんが、〈テクノロジーの祭典〉としてのSXSWに、これ以上ふさわしいパフォーマンスもそうそうないはず。
(追記:カメラアングルの繋ぎについて、この映像がプロトタイプなのでは、という指摘を見かけました。確かにこれっぽい!)
650というキャパがもったいない限りですが、これは〈小さな会場ならではの見せ方を考えた〉という、World Tour 2ndでのリアルタイム・トラッキング&プロジェクション・マッピングの方向性を、さらにアップデートしたものと捉えてもいいはず。この演出、5000人規模の会場じゃ伝わり切らなかったかもしれません。
Perfumeがせっかく〈ITの祭典〉でもあるSXSWに出るのだから、ただライヴをやるだけじゃないだろう、
真鍋さんも気合入りまくりだろう!と思ってはいましたが、まさかこれほどのものを見せてもらえるとは! いやー素晴らしいです。
Perfumeの3人 そして天才な上に最後まで諦めずに粘り強くステージを作り上げて下さったスタッフの皆さんに心から拍手を‼︎ #prfm #sxsw https://t.co/SAEB1kl88F
— MIKIKO先生 (@mikiko_san) 2015, 3月 18
SET LIST
1. STORY(SXSW-MIX)
2. Spending all my time
3. ポリリズム
4. スパイス
5. Magic of Love
P.T.Aのコーナー
6. FAKE IT
7. エレクトロ・ワールド
8. チョコレイト・ディスコ
9. Spring of Life
STORY Goes On
「STORY」のサウンドについても触れておきます。
音色自体は〈EDM以降〉の、いわゆるビッグルーム・ハウス的なシンセがメインですが、無機質かつ抽象的なイントロからカウントダウン(もちろん日本語の!)を経て、大サビで3人の歌が入ってきます。そして短いブレイクで終わる。つまり起承転結が明確です。
この構造は「Enter the Sphere」とよく似ていますが、エレクトロ色が強かった「Enter~」と比べ、「STORY」ではEDM以降、つまり世界的なトレンドをより意識した(そしてその中での独自性を追求しようとした)作りになっていて、ヤスタカまだまだ頼もしいな!という感じです。
Perfume represents...
http://sxsw.com/sxsw-2015-full-artist-list
これは今回のSXSW出演者の全リストです。膨大な名前が載っているなか、我らがPerfumeの名前も当然あります。
Perfume(Hiroshima JAPAN)。
〈Tokyo〉ではなく、あくまでも〈Hiroshima〉のグループだ、と。
いまアメリカで〈ヒロシマ〉という言葉がどう響くかはわかりませんが、さておきPerfumeが広島を代表して、世界的な音楽と映画とITの祭典であるSXSWで、
ずば抜けて新しくおもしろいことをやってのけたなら、
そしてここからまた何かが始まるなら、こんなに痛快なことってないと思います。
いやーPerfumeファン続けてて、よかったよ!!
追記:今回のエントリに貼ったPerfumeのライヴ写真は、The Huffington PostのPerfumeSXSW出演記事内のフォト・ギャラリーからお借りしました。フォト・ギャラリーには素晴らしいカットがたくさんあるなか、何でこれを選んだ?というものも入っているのが、日本でのライヴ写真と違ってて楽しいですね。
第52回 松尾潔さんの「マカロニ」評が素晴らしい!その2
◆サビ~大サビの分析
◆C.R.I.T.I.C.
2:「マカロニ」は(よく言われる)Daft Punkだけでなく、TotoやBoz Scaggs、ユーミンとも繋がること
〈1〉は松尾さん流のポップ・ミュージック論のひとつ。〈2〉はサウンドの共通項を軸にした音楽論であると同時に、
というか松尾さんのこんな文章を無料で読めてしまうって、とんでもないことになってますね。
↑2014年に上梓された松尾さん初の著書。超面白いですよ!
◆批評の対極にあるもの
〈Perfume、たった3人でドームの5万人に完全勝利!〉
◆K.I.Z.U.N.A
それらはPerfumeのキャラクターを愛で、
◆中田ヤスタカのPerfumeな日々
追記
ネットパトロールに怠惰なもので今ごろ知りました。Perfume「マカロニ」の拙評論の評論というメタな構造になっています。ぼくなんかより余程クレバーなレビューですよね。もうPerfume愛の温度が違いますから。素直に感服しました‼︎
http://t.co/wqsL0VOeyd
— 松尾潔 (@kiyoshimatsuo) 2015, 3月 3
え……ちょ、松尾さん……?
— t_kito (@t_kito) 2015, 3月 3