R.E.P.

Perfumeに特化した音楽ブログ/音楽に特化したPerfumeブログ

第58回 Ultra Japan、何かヘンだぞ?

※今回は少し趣を変えています(Perfumeネタは少なめです)が、お目通しいただけましたら幸いです。

※まずないと思いますが、万一関係者の方がご覧になる場合「あー、Ultra行かないからってひがんでるんだなー」と思って下さい。

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Ultra Japan 2015、全券種ソールドアウト! 関係各位、おめでとうございます!

ついに日本でもEDMが大ブレイクですね!

ヨーロッパでのEDM人気から7~8年、アメリカからも4~5年は遅れてしまっ……うんそんなの関係ないですよね!!! しかもBeatportのチャートとか見てると、いま日本で持て囃されてるような王道のビッグルーム・ハウスは曲がり角に入ってる気もしますけど、関係ないですよね!

 

 

あれ……?

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Ultra Japanの3日券って39,000円もするんだ……? 僕が2014年に行ったアトランタのTomorrowWorldは、円換算して3日券で37,000円くらいでした(まあ手数料が恐ろしく高いですが)。

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  ↑TomorrowWorldのチケット購入明細

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 うーーーん、TomorrowWorldはステージが8つあって出演者もわんさかいたけど、Ultra Japanはステージたった3つでこの値段はおかし……いやいやいや! 日本は極東アジア圏なのだから、はるばる欧米からたくさんのDJが来日するんだし、ステージセットとかの輸送費も高くつくだろうし……

 

あれ、極東アジアといえば2013年にUltra Koreaも行ったな……

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   ↑Ultra Koreaのチケット購入明細

当時はいまより円高ウォン安のため、2日券で11,000円(1日あたり5,500円)ってところでしょうか。なお早割ならもっと安く、翌年のUltra Korea 2014は、2日券の早割で6,500円(1日あたり3,250円!でした

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2013年のUltra KoreaはAvicii、Armin Van Buuren、Afrojack、Kaskade……結構豪華です! Ultra Japanと見劣りしません。この年は日本よりPerfumeも参加しており、まあなかなか悔しい結果に終わったのですが、何もかもが懐かしいですね…

◇Ultra Japanのチケットは割高?

さておき、これらの海外EDMフェスと比べて、このUltra Japanのチケット価格設定はどういうことだろう?と思うと、2つの要因が考えられます。
 
<1:DJのギャラ高騰>
日本になかなかEDMブームが来ないうちに、海外のEDMマーケットが異様に巨大化。中規模のものから数十万人規模までEDMフェスも多発&大盛況し、人気DJの取り合いで出演料が高騰。DJ1本のギャラで何百万円、何千万円と、完全にバブル化しています。さらに日本の為替はアベノミクスによる金融緩和を行ったことで一気に円安に振れましたので、海外のDJを招聘する場合はダブルパンチです。
 
とはいえ、Ultra Korea 2015でも1日あたり6,000~8,000円とかなので、Ultra Japanの1日で13,000円は韓国のほぼ2倍……。

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<2:Ultra側が決めている>
開催国の物価や、ポピュラーなフェスティバル~イベントのチケット料金を元に、本国のUltra側が料金を設定している可能性もあります。だからフジロックサマーソニックよりちょっと安い、と。その2つと比べて出演者かなり少ないのに。
 
もっとも最初から高い価格にすることで、〈いまいちばんイケてる、価値の高いフェス〉として、参加することがステータス!な位置づけにするブランディング(むしろマーケティング効果もあるかもしれませんね。
そのうえほとんどの日本人はEDMフェスの経験が乏しいため、これくらいのメンツなら大体いくらくらいだろ、という相場がわからないやいやいや邪推ですね!
 僕はこの出演者数で、1日8500円程度なら行きたいです。

◇個人的にもっとも奇妙な点

Ultra Japanホームページの「ABOUT」をご覧下さい。

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〈主催・企画・制作〉ULTRA JAPAN 2015 実行委員会となっています。これが海外の場合、EDMフェスを主催するプロモーターは、わが社がこれをやっております!と社名をアピールしてきます。Ultra Music FestivalUltra Enterprises(アメリカ)が主催し、Electric Daisy CarnivalInsomniac(アメリカ)、TomorrowlandElectric ZooID&T(オランダ)とか……EDMのビッグフェスを制作していることが、いまどきは何よりのPRになるわけですね。

http://www.id-t.com/

 
はて、それではULTRA JAPAN 2015 実行委員会って誰なの? このラインナップは誰がどう決めているの?という話になってきます。開催の主体や規模がさっぱり見えません。これは何か表沙汰にできない理由でもあるのか?と勘ぐってしまいます。というか実はどういう会社が積極的に関わっているか耳にしていますが、それは書けません。
ですので、〈ULTRA JAPAN 2015の推定経済効果は約95億円みたいなニュースが、2015年の6月(まだ開催してない)時点で発表されていて、なんか妙だな?と思ったのですが、そこも「ああ、あの業種だから……」と合点がいきました。
 

◇まとめ的なもの

以上、いろいろ文句気になる点を書き連ねてきましたが、いいんですよ! チケットがいくらだろうと、開催の主体が謎だろうと。Ultra Japan実現に向けて、日々大変な業務をなさっているスタッフの方々のご苦労は重々お察ししております。海外の超人気フェスのフランチャイズなので、どうしても向こうの意向が強い部分、なかなか日本サイドの思うようにいかない部分も多いと思います。
 
それでもこのイベントが無事に開催されて、お客さんやスタッフの方々に怪我も事故もなく大成功してくれれば、それがいちばんです。
 
そしてその先に、EDM……だけじゃなくてダンス・ミュージックそのもののファン、DJやクリエイター、スタッフ、そして評論(重要)が増えて、クラブ・カルチャーを含む日本の音楽マーケットの裾野が広がり、豊かな音楽文化に繋がってくれることを心から願っています。

EDMブームを仕掛けて〈売れるうちに売っちまえ!〉的な、一部の人たちだけが潤って、あとはEDMが単なる流行モノとしてまあ残念ながら流行モノなんですが……)短時間で安直に消費し尽くされることのないようにとも、心から願っています。

 
まあ9月21日のUltra Japan最終日、僕はPerfumeのO-WEST公演に行ってますけどね!!!

第57回 SONICMANIA2015

行ってきましたSONICMANIA、楽しかったSONICMANIA

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Perfume SET LIST

1. Pick Me Up

2. レーザービーム

3. GLITTER

4. Spring of Life

MC

5. NIGHT FLIGHT

P.T.Aのコーナー(mihimaru GT「気分上々」)

6. Party Maker

7. だいじょばない

8. チョコレイト・ディスコ

 

まあしれっと書いていますけど、私が入場したのは最初のMC時。

のっちProdigyは、あのBPMが腹筋する時にいい」

あ~ちゃん「暑いねー! もう帰ってもいい? いや、もう帰ってもいいくらい、みんな熱いし楽しかったから!」と、遅れてきた(しかも海浜幕張駅から会場まで全力で駆け抜けた)私には底のない脱力感を与えるものでした。「GLITTER」聴きたかったよ……

というわけで後半の4曲しか観られていないのですが、なかなか良かったのではないかと思います。3人のダンスのグルーヴも出ていたし、P.T.Aのコーナーであ~ちゃんが「(ピースサインを目元に当てながら)ヤバぁーい、チョー盛り上がってるぅー!……今日の裏テーマは〈ギャル〉です! ははは!でもいちばんギャルのマネがうまいのは、かしゆか!」

かしゆか「(生意気そうな口調で)パーリーナイ!チョーサイコー!☆

そういうギャルがいるかはさておき、のっち空気になってるじゃねえか!

 

はい、Perfumeの感想は以上です。いや今日書くことたくさんあるので!

 

Madeon

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個人的には、Perfume→Madeonの流れは願ってもないものです。Madeonくん(94年生まれ)はフレンチ・エレクトロシーンの若きエースにして、〈UMF〉などのEDM系フェスにも引っ張りだこのDJ/クリエイターですが、実は熱心な中田ヤスタカファンでもあります。『Japan Only EP』などで聞けるエレクトロ・チューンはまさに中期capsuleと相通じるものだし、DJするときはいつもヤスタカの曲をセットに入れているとか。

つまり、Perfume→Madeonと続けて観ることの、裏テーマは〈ギャル〉……じゃなかった〈中田ヤスタカ〉なわけです。

 

そんなMadeonくん、先日発表した初のフル・アルバム『Adventure』のリード曲である「Pay No Mind feat. Passion Pit」を、中田ヤスタカがリミックスすることになりました。http://www.sonymusic.co.jp/artist/madeon/info/456312

Madeonのコメント「僕は何年も前からCAPSULEと中田さんが手掛けられた作品のファンで、僕の音楽にも大きな影響を与えています。僕の曲「ペイ・ノー・マインド」のリミックスをお願いして、快諾してくれた時には嬉しくて興奮しました。完成したリミックスも素晴らしくて、いつもDJセットでプレイしています。」

このリミックス、Apple Musicなんかで聞けますので、聞ける方はぜひ。

つまり、Madeonは間違いなくPerfumeもチェックしているし、Perfumeが出演する日本のフェスで自分もパフォーマンスできることを、そしてPerfumeのライヴを楽しみにしていたはずです。そんなMadeonくんのタイムスケジュールがこちら。

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……もろに被ってるじゃないか……

ただ、ネット情報ではPerfumeライヴの序盤に、Madeonくんの姿がフロアで目撃されていたので、最初の5分くらいは観られたんじゃないかな、と思います。まあ、Perfume観たければ来日すればいいんですよ、かのSurgeon先生のように!!

 

そうそう、Madeonくんのパフォーマンスですが、機材の一部を観客に見えるように向けて、演奏している様をわかるようにしていました(オレはちゃんと演奏してるよ!的な)。エレクトロ~エレクトロ・ポップを中心に、メリハリのある構成。アゲ一辺倒ではなく、多様なリズムとキャッチーなリフで始終フロアを良い温度で盛り上げていて、うまいなー飽きさせないなーと思いながら観ていました。「Pixel Empire」は、もろに「Merry Christmas, Mr. Lawrence」だなーとか。

特に終盤、「Finale」からの「Pay No Mind(※ヤスタカリミックスではなかったはず)というコンボは超強力! そしてブースを離れ、ステージに置いてあったジャケットを羽織りり、手を合わせてぺこりとお辞儀。あ、終わりかな?と思ったら、もう1曲、キーボードを弾きながら美しいスロウを歌ってくれて(声は加工していた)、エレクトロニック・シンガーソングライターみたいな風情もありました。サウンドも魅力的ですが、全体的にミュージシャンシップの高さが滲み出ていて、そこがMadeonくんらしさなんだな、と気付きました。

さあ、次はPorter Robinsonです!

 

Porter Robinson

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個人的に、フジロックageHaでのDJも観ていて、これが3回目。以前はアゲアゲのエレクトロ・ハウスばかりかけていて、いかにもなEDMの新世代DJ!って感じでしたが、今回は〈Live Set〉とのことで、どうなるんでしょうか。

 

そこへTwitterのこんなリプライをいただきました。Madeonのスケジュール(Perfumeともろ被り)に関する私のツイートへの反応です。

 

そう、Porter RobinsonもMadeonと同類です!!!Perfumeと時間が被っているかどうかの大きな差はあるが)

そもそも、Porter Robinsonの初のフル・アルバム『Worlds』は、売れ線EDMから完全に一線を画したエレクトロ~ドリーム・ポップになっていて、これはPerfumeが「透明人間」で見せたアプローチと同じであり、Mat Zo『Damage Control』なんかもこの路線ですね。これはひとつの(EDMブームへのカウンターも含む)潮流でもあると言えますし、そして、Porter RobinsonとPerfume、Mat Zoは奇しくもAstralwerksでのレーベルメイトでもあっ……いえ、なんでもないです。

 

その作品のなかに、EDMブームに対する批評性を内包し、〈EDM〉と一括りにして消費されることを良しとしない。そしてユーザーへの〈こういうサウンドもおもしろくない?〉という提案と、自分ならではの音楽を追求する姿勢がある。これはヤスタカ、Porter Robinson、そしてMadeonにも共通するマインドであり、そういう意味でもこの3者は非常に近い立ち位置にいるように思います。

 

しかしPorter Robinsonのライヴは、私の予想を遥かに超えるものでした。サウンドは『Worlds』のとおりの、かなりナード(オタク)に寄ったエレクトロ~ドリーム・ポップで、彼の優れたソングライター性がよく出ているのですが、スクリーンに映し出される映像は日本のアニメ、ゲーム、漫画にインスパイアされたものばかりで、アニメやドット絵で描かれた色とりどりのキャラクターや、バグったような日本語がスクリーンを乱舞し、あまつさえFlicker」では「魔法少女まどか☆マギカ」の主題歌(だと思う)を重ねて流すという大暴走!! っていうかこの人、単に日本のアニメ・ゲームのマニアじゃねえか!!

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日本のお客さんは結構ウケてましたし、「Hear The Bells」とか「Lionhearted」とか見事な曲も多いし、ライヴとしての完成度とユニークさはかなりものだと思いますが、このセットで海外のフェスでも戦ってるんだ……と思うと、Madeonのミュージシャンシップとはまた異なる、〈業の深さ〉を感じました。

 

Dillon Francis

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これまでのアクトとはまた異なる文脈で、とても楽しみにしていたのがDillon Francis。先日のTomorrowland2015でもメインステージに登場、超盛り上がったらしいし、特に昨今のEDMフェスでは王道の売れ線EDMではなく、彼のような〈トラップ〉(だけじゃないけど)の方が支持されているらしいし、これこそ2015年のいま、観ておくべきアクトです!!!

 

 

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うっわー客いねええ!!!!!!

 

 

まあ予想はしてましたけど、ただパフォーマンスはすごかった! トラップやエレクトロ、ジャングルにヒップホップ、ダンスホール・レゲエ(なのか?)などのベース・ミュージックを中心に、とにかく底抜けに踊らせる曲を連発。ブーティーでヒップで、はちゃめちゃでエネルギッシュで、もうホントにいまの時代のサウンド、って感じでした。

 

そしてDillon Francis、ステージの去り際に「ニホンダイスキー! カンチョー(ポーズしながら)!!」と。お前、さては適当だな? っていうか誰がこんなの教えたの?

 

 お前かーーー!!!!

第56回 Relax In The City/Pick Me Up/考えるヒット

Perfumeの両A面ニュー・シングル「Relax In The City/Pick Me Up」がリリースされました(結構前に)!

そして週刊文春(2015年5月21日発売号)の近田春夫さんのJ-Pop時評連載「考えるヒット」でも、「Relax In The City」が採り上げられています!!

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私の文章はともかく近田さんの原稿の書き出しを抜粋させていただきます。

ちなみに、いまさら書く必要もないと思いますが、近田さんは「ジェニーはご機嫌ななめ」の作者です。

 

新譜が出れば聞いてみたくなるのがPerfume

・アーティストとしてのポジションや本人たちのスキル、また三人編成というフォーメーションもあるだろう、色々な意味で自由度が高いというか様々な選択肢があるというか。次はどう出るのか? Perfumeには可能性の幅というものがたっぷり感じられる

メジャーデビューして10年経ってるのに、まだ〈可能性の幅がたっぷりある〉って珍しいですよね……そして近田さんは以下のように続けます。

 

ドメスティックな大衆性を保持しつつも、グローバルなリスナーに向けたチャレンジも決して怠ることがない。そうしたスタンスは最新シングルでも変わることがなかった

Perfumeの、〈グローバルなリスナー(というかトレンド?)を視野に入れた音楽的スタンス。そこにしっかり触れている、近田さんらしい評論です。

 

◆「Relax In The City」(のベース)

さてお待ちかね(※誰も待ってない)私の感想も。この曲、CDリリースで初めてちゃんと聴いたのですが、パッと聞きの印象は

「え? これ〈微かなカオリ〉?」

 

『JPN』の時期に顕著だった、柔らかいサウンド・デザインとポップなメロディー、優しい歌い口。「Relax In The City」ではさらにメンバーのヴォーカルの存在感が前に出た印象で、Perfumeコーラス・グループとしての魅力にフォーカスされています。

 

うん、良い曲ですね…でもちょっと保守的かな、と思う間もなく、何でしょうこのロウな鳴りのベースは。「Sweet Refrain」ではいわゆるウォブル・ベースを導入して、ゴリゴリにディストーションが掛かっていましたが、というかいま思うと「Sweet Refrain」ってとんでもない傑作だった(割に対して語られなかった)気がしますが、それはさておき。

 

近田さんは、このイントロからの流れをどう聴いたのでしょうか。

イントロが始まるとオルゴールの音が聞こえてきて、一瞬ビートのないただの可愛い系なのかとも思えてしまう。それがダンス・ミュージックへの導入だったことが少し経つうちに分かってくる。この展開、気の持たせ方こそがフロア的センスというものだ

・ホットでイケイケなだけのアイドルものとは一線を画す、体感温度めのトラックであり、ミックスバランスの中で殊に耳が行ったのがシンセベースだった

・比較的女性の側に立った質感の曲調には似つかわしくない、ある種豪快、いや荒々しきと言うべきか、とにかくこの楽曲にこのベース(音色、フレーズ)を持ってくるという、そんな事は他のJ-Popアイドルのシングルでは、まずあった試しがない

そうそうそうですよね近田さん!! オルゴールとは微妙に違う気もしますが!!

近田さんの評論は〈温度感〉〈(予定調和ではない)楽曲の展開〉〈ビートの重たさ〉という概念が結構出てきますが、まさにこの曲こそ、そういう切り口がぴったりな気がします。というか、そういうテーマをもって作られる曲が少なすぎ、ということでしょうか……

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◆「Relax In The City」の持つ力

「Relax In The City」のサウンド・プロダクションの特徴は、重みのあるベースを、そうと聞かせず…というか、軽やかで穏やかなウワモノとの、絶妙なアンサンブルになっているところだと思います。この実験精神というかバランス感が、やっぱりヤスタカ素直じゃないなという結論に至る所以でしょう。

そして、そのチャレンジが自己満足ではなく、最終的には3人のヴォーカルを引き立てるためになされている、これはいかにもPerfumeらしいプロデュースワークと言えそうです。

で、私がつべこべ書いているところ、近田さんはサラッとこんな風にこの曲を評価されています。

・例えばこの曲が、全然日本語の通じないどこか外国のクラブでかかったとする。それでもその時きっと客たちは、このシンセベースのカッコよさだけで――曲が何を歌っていようが構わず――盛り上がってしまうと思うのだ

 

言葉や国境や人種や時代を越えて、盛り上がることができるのが音楽の力だとすれば、この近田さんの文章が示すものこそ、まさにそれだと思います。

もっとも、歌詞はそんなに特筆することがない気もしま……

 

◆音楽業界を考えるヒット

「Relax In The City」は世界のどこでも盛り上がるだろう、と綴る近田さんの文章は、Perfumeを離れて音楽業界へと向きます。

・メジャーどころで、近頃彼女たち以外に一切そういった(筆者注:世界でも通用する)印象の音がないことは、未来に向けて、いくらなんでもまずいのでは?

・そのあたり、商業音楽制作のトップに君臨されている皆さん的にはどうなんですかね? もう国内向けだけじゃ、音楽って産業として成り立たなくなっちゃう事はないんでしょうか

いやー、私も一応音楽業界にいる身として、さすがにここまでは書けませんが、

……近田さんの引用なら書ける!!!!

 

今回は近田さんと私の合評(※私からの一方的な)になりましたが、実はテキストそのものは「考えるヒット」の前に書いていたので、こういう形式にさせていただきました。もう近田さんに連載の感想(akaファンレター)送ろうかと思っています。

次回は「Pick Me Up」、そして「透明人間」について書きたいところです。それにしても、気のせいかなー、なんか「Relax In The City」を聴いてると、麦芽アロマホップでできた炭酸飲料を飲みたくなってくるなー

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第55回 PAとは

いつもはPerfumeの楽曲やライヴについて、あーでもないこーでもないと言ってるブログですが、今回はPerfumeのライヴにおいて欠かせない要素のひとつ、PAについて書きましょうか。

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PA=?

いきなりですが、PAの正式名称をご存じでしょうか?

 

 

 

〈拡声装置〉を意味する、Public Adress Systemです。

ライヴ会場に設置された、スピーカーなどの音響機材がPAシステム。

その機材を駆使し、会場で鳴らされる音を作り上げるのがPAエンジニアです。

音楽業界ではこれらをいっしょくたにしてPAと呼ばれますね。

 

ではどこまでがPAシステムか。厳密に言えば、ステージ上で出ている音を増幅するための機材……マイク、アンプ、モニター(ステージに立つ人が自分の出して いる音を聴くための)スピーカー、客席用スピーカー、そしてそれらの音を調整するミキサーが含まれるはずです。

が、ここでは〈ステージで鳴っている音を観客に伝えるシステム〉。という大まかな認識で書いて行きます。恥ずかしながら私はこのへんド素人なので、詳しい方のつっこみを切望しております。

 

ちなみにPAトリビア(懐かしい…)として、以下の2点をお伝えしましょう。

1:日本のコンサートでPAが使用されるきっかけは、The Beatles

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1966630日~7月2日のビートルズ日本武道館公演では、なんと日本にまだPAシステムが存在しません。ヴォーカル・マイクと、アンプ/ドラムスに立てたマイクだけで大観衆と向き合っています(なお、この時のビートルズの機材はUKから持ち込まれたVoxで、当時の日本製スピーカーとは桁違いの出力だったそう)。

モニタースピーカーもないため、そのころのビートルズ「アメリカでは観客の絶叫で自分たちの演奏が聞こえなかった」そう。それと比べると日本の観客は静かだったとか。

さておき、日本で初めての1万人超の大規模公演ビートルズ日本武道館であり、それ以降は大型体育館や球場などでのコンサートが一般化。音響や照明の機材、舞台美術、演出等が進化していき、現在に至るのです。ビートルズが日本の興行史を変えたわけですね。

 

2:日本で初めてPAシステムの会社を作ったのは加藤和彦さん

69~70年ごろ、サディスティック・ミカ・バンドUKレコーディング(すげえな)でロンドンを訪れたトノヴァンさん(加藤さんの愛称)が、「その頃日本には機材とか今でいうローディーとかPAがなかったため、PA機材を大量に購入、日本に持ち込みライヴで使えるPAシステムを構築。しかも初めてモニター系統を(場内に流す音と)別に作ったのもトノヴァンさんたちだそう!

そしてトノヴァンさんが日本で最初のPA会社・ギンガムを設立されました。その当時、まだ22~23歳だったそうで、空恐ろしい話です。

こちらはMusicman-NETの加藤和彦さんインタヴュー(超おもしろい)から引用させていただきました。

 

PA エンジニアの役割

PAシステムの話はこれくらいで(逃げて)、ここからが本題。

PAエンジニアとは、音響機材のセッティングによるPAシステムの構築、そしてステージ上で鳴らされたサウンド(そして歌や演奏の信号)が送られてくるPAミキサーを操作し、音を増幅して、スピーカーから出力する仕事です。

 

え? ステージ上の音をただデカくするだけでしょって? いえいえ、それだったら無能で知られる私にもできてしまいます。

 

 

PAエンジニアの役割は、ステージ上で鳴らされた音を、その会場の隅々まで、バランスの取れた良い音で届けること。そのためのシステム構築とミックスだと思います。

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その音はあくまでナチュラルかつクリアで、しかもミュージシャンの持ち味を最大限に引き出し、最高の状態でお客さんに届けられます。

 

書くのは簡単ですが、これは高い技術と豊かな経験、優れた音楽的センスに裏打ちされた職人技です。音響工学の知識、楽器の特性や、そのミュージシャンの音楽性についても熟知していなければなりません。

PAエンジニアはそれらのスキルを元に音を作り出す、クリエイティヴな仕事と認識しています。

 

バンドなら一人くらいいなくてもライヴはできますが(ホントかよ)PAがいなければ音を増幅できず、規模の大きなライヴは不可能です。

 

Sound Of Music

ステージ上で、ミュージシャンの出す音は毎日違います。

そもそも会場ごとで、空間の広さや構造、残響などの環境がまったく異なります。

しかも、人間は音を吸収するので、無人の会場での音と、大観衆が詰めかけた会場での音はまったく変わってきます

 

これらの状況を踏まえつつ、その日のミュージシャンと観客にとって、どんなサウンドがベストか。どういう音を作れば、演者は最高の気分でパフォーマンスし、お客さんは心から音楽を楽しんでくれるか。

 

それを追求するために、理想的なPAシステムを構築し、ライヴ中にはステージ上で鳴っているありとあらゆる音を、その音量・音質・音域を整え、バランス良くミックスする。状況が変われば即座に対応、常に良い音をキープし、すべての人に届ける。それがPAエンジニアの仕事です。

 

ちなみにPerfumeのライヴでは、進行に伴って音量が段階的に上がっていきます。それによって観客のテンションをコントロールするわけですが、これもPAならではの演出です。

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このように、ライヴに絶対欠かせないPAエンジニアですが、大抵のお客さんは「会場の全員」が「良い音」で聴けるのがあたりまえと思っているはず。

できてあたりまえなこと、しかしその裏でPAエンジニアはこんなお仕事をされている……そう考えると、ライヴでの楽しみ方もちょっぴり変わってくるのではないでしょうか。

 

ただ「透明人間」……じゃないや、Too Many Gain〉な、爆音なら良いってもんじゃありません。

そして最高のサウンドを鳴らそうとして下さる方々の志があるからこそ、ライヴはおもしろいし、かけがえのない体験になるのだと思います。

 

 

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第54回 伊勢丹とPick Me Up!

isetanparknet.com

Perfume伊勢丹のコラボレーションにはびっくりしました! 店内スタンプラリー、「Pick Me Up」MVのセットやPerfume衣装の展示、伊勢丹内のメンバーお薦め売り場を紹介したマップ、さらにはメンバーによる館内放送&「Pick Me Up」オンエアと盛りだくさん!

Perfumeは現代のファッション・アイコンである〉という百貨店業界(のトップ!)のお墨付きともいえ、レポートし甲斐のある企画ですが、実は当の伊勢丹のブログがいちばん的確なので、そちらにおまかせします。

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そして、このコラボ企画の核と言えるのが新曲の「Pick Me Up」です。

 

メンバーインタヴューによると、この「Pick Me Up」は伊勢丹から(というよりは広告代理店でしょうけどコラボの企画を持ちかけられ、それを受けてヤスタカが作った曲とのこと。

しかしこの曲、ヤスタカには珍しい、というか

これまでなら絶対にやらなかった類のアプローチにも思えます。

 

「Pick Me Up」発表時、〈この曲はEDMだ!〉という感想が多く聞かれました。そこで今一度、これまでのPerfumeとEDM〉の距離感を考えてみて下されば、というエントリーです。

なお、ブログ運営を経ての大きな学びとして「よくわからないことは絶対に書かない」が信条ですが、そうも言ってられない状況っぽいのでがんばります。

まとめ(いきなり)

いまからあれこれ書きますが、長いです。〈現代人は長文が読めなくなった〉菊地成孔さんもお書きでしたので(わざわざこのブログを見に来て下さる方はそんなことないと思いますが!)、まず要旨を書いておきます。

 

・最近は何でもかんでも雑に〈EDM〉って括られるし、猫も杓子も〈EDM!〉と言ってる

・〈なんか流行ってるらしいんでやってみました!〉みたいな安直EDMもあるけど、我らがPerfumeは、毎回ヤスタカがひねりを利かせてるからな!

・「Pick Me Up」……あ、あれ、なんか安直EDMになってる……?

ヤスタカどうした

まぁパッケージ通して聴かないとわかりませんね!

以上です。

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EDM=Electronic Dance Music

EDMを知るためには、何度も紹介していますが2012年のbounce誌掲載、「Di(s)ctionary〈EDM〉」が断トツで丁寧かつわかりやすいです。そして以下は、私なりの解釈も含めた、その概略です。

広義のEDMは〈電子音によるダンス・ミュージック〉なので、テクノもハウスもエレクトロも、トランスもユーロ・ダンスも、そしてテクノ・ポップも、EDMといえばEDMなのでしょう。

しかし2000年代の後半以降になると、〈EDM〉という単語の使われ方が変化。エレクトロ~プログレッシヴ~ユーロ・ハウス、ダッチ・トランス~ダーティー・ダッチ、あとブロステップやトラップあたりのド派手で享楽的でひたすらアッパーなダンス・ミュージックが、〈EDM〉というレッテルでひと括りにされている印象です。

ある意味ブランディングというか、マーケティング的な側面もあったと思います。

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ヨーロッパから届いたこのサウンドが、2010年頃からアメリカを席巻し(つまり日本でのブームはかなりの出遅れ)、〈EDM〉というワードが完全に定着。いまや世界中で巨大なマーケットを創出したわけです。

それ自体は素晴らしいことですが、いまやそのワードだけが独り歩きしている状況も見受けられます。

日本におけるEDM認知度(一例)

ライター業をやっていると、レコード会社の宣伝ご担当者が作成する、新譜の紙資料を拝見する機会が多々あります。マスコミやネットでの宣伝などでも絶対欠かせない、重要なプロモーション・キットですね。私は主に邦楽の資料を拝見しますが、そこに最近では、昔からあるようなエレクトロ・ポップでも〈今回はEDM!〉と書かれているものも……

 

まあ、それは良いとしましょう。皆さんご多忙です。しかし、ただシンセや電子音を入れただけなのに〈今回はEDMを採り入れた!!〉と書かれたものもあります……

 

 

ま、まあ、上述の〈広義のEDM〉解釈なら決して間違っていないし(絶対そういう意図じゃないだろうけど……)と思っていると、どう聞いてもロック・バンドなのに〈俺たちの音楽はEDMだと思う〉というメンバーコメントが載った資料までも……

 

 

さすがにこれらは少数(?)の例としても、EDMの音楽的な多様性や、曲自体の出来の善し悪し度外視(≒記号化)し、十把一絡げに供給している(どこで?)のはさすがに無神経だと思います。

PerfumeはEDM?

Perfumeが2012年に「Spending all my time」を発表した当時や、「Party Maker」の頃もPerfumeがEDMやってる!〉と散々言われていました。しかしこの2曲、シンセの音色こそEDMっぽいですが、楽曲の構造や展開は、あくまでも従来のエレクトロ~テック・ハウス路線に則っています。

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↑「LEVEL3」すらも一部で〈EDM路線に振り切ったアルバム〉とか言われていたな……

 

いままでのPerfume曲に、新たなテイストを採り入れて独自路線を更新しようとする、つまり〈EDM、オレならこうやるね!〉というヤスタカ節(=提案)がありました。〈なんか流行ってるらしいんでEDMやってみました!〉みたいな安直EDMとは一線を画そうという意図が、はっきりあったと思います。

 

また「Sweet Refrain」の甘いメロディーとは対照的な、いかにもブロステップな攻撃的ベース(通称:ウォブルベース)だって非常にEDM的でした(あれを聴いて〈EDMだー!〉と言ってた人はあまりいなかったような……)

 

かように、ヤスタカは海外のダンス・ミュージックのトレンドを踏まえつつ、常に自分ならではの創意工夫を図ってきました。それがヤスタカの作家性の大きなポイントのひとつ、という認識でしたが……

 

「Pick Me Up」

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うーーーーむ……これ、そのまんまちょっと前の売れ線EDMでは? どうしたヤスタカ?

 

CAPSULE『WAVE RUNNER』もEDM路線でしたが、凝った構成やアンサンブルのおもしろさに〈オレならこうやるね!〉感がビンビンでした。しかしこの「Pick Me Up」では、とうとう例のド派手なブチ上げブレイクも、トランシーなシンセもガンガン使って、いかにもなビッグルーム・ハウスになっています。

注:ビッグルーム・ハウス=大会場を盛り上げる、エレクトロ~プログレッシブ・ハウスを大まかにまとめてこう呼んでいると思います(トランスの要素も濃い気がします)。Beatportでもちょっと前まで〈This Week's Best Of Big Room〉なんてコーナーがあったのですが、最近見たら消えてました

 

序盤のあ~ちゃんの歌い出しで、これ見よがしにアコースティック・ギターなんか入れていますが、EDMにアコギ入れるのなんて、David Guettaの「Lovers On The Sun」とか、それこそAviciiの「Wake Me Up」で…………あれ? なんかタイトルが……

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エモーショナルな処分歌唱

売れ線EDMになっている(ように聴こえる)他に、「Pick Me Up」で従来と違う点があるとすれば、メンバーの歌唱ではないでしょうか。

これまで(松尾潔さんが指摘されていたように)、ノン・ビブラートで情感を抑えた歌い方Perfumeのキャラクターでした。ここ数年はかつてのようなチューン・ヴォイス(ロボ声)ではなく、ナチュラルな揺らぎも含めた、歌声の肉体性を感じさせるように(つまり生の声に)なり、先の「Cling Cling」からは曲中のコーラスをメンバーの歌唱で録音した(それまではヤスタカが歌声を素材として編集して重ねていた)という変遷があります。

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そして「Pick Me Up」では〈♪輝く星空のような〉の部分で、いままでになかったほどエモーショナルにメロディーを歌い上げています(あののっちが!)。〈Perfumeとしての新機軸〉と言えなくもないですが、EDMのヒット・チューンでは、多くの場合シンガーがこれ以上ないくらいエモーショナルに歌い上げまくりなので、これもPerfumeでやる意味はどこにあるんだろう?というのが正直な感想です。

 

ってどんだけ

長々と書いてるのかという話ですが、そもそも次回のリリースは「Pick Me Up」を含む3曲入りとのこと。パッケージにおけるサウンドのバランスや曲順の流れで、聞こえ方や評価も大きく違ってくると思います。

それこそがCDをリリースする意味やおもしろさだと思うし、そういう意味で「Pick Me Up」も〈おもしろい曲〉になることを期待しています!

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疲れました! そしてここまで読んで下さった奇特なあなた、本当にありがとうございます!

第53回 Perfume at SXSW!!!

 「第50回 Perfume、SXSW 2015に出演決定!!」のエントリーの続報です。

その後、2月中旬にはPerfumeが出演する日時と会場が発表されました!

が……

 

SXSW2015 Perfume出演日時・会場

3月17日(火)25:00 Highland Lounge

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おお、なかなかキレイで新しそうな会場じゃないですか。

 

キャパシティ:650

 

 

えっ……650?

 

 

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しかも、ゲイ・ナイトクラブ!!!

ホームページを観る限り、ゲイ専門ではなくLGBTレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルトランスジェンダー)、つまり性的マイノリティーの方々が集まるハコのようです。

〈そうじゃない人〉問題

Perfumeのライヴに行かれたことのある方はご存知でしょう。「P.T.Aのコーナー」で、あ~ちゃんが客席に〈男子ーー! 女子ーーー!! そうじゃない人ーーーー!!!と呼びかけます。

ただ、〈そうじゃない人〉は〈男性でも女性でもない〉というよりは、そのどちらとも決め切れない(身体と心の性が異なる)、つまりトランスジェンダーの方々ですね。なのでLGBT全般を考えると、一律に〈そうじゃない人〉と括ってしまうのはちょっと乱暴な気もしますが……

 

世間は圧倒的にストレート(多数派である異性愛者、ヘテロセクシュアル)が多いですし、日本ではカミングアウトしているミュージシャンが極めて少ないですが、20人に1人はLGBTだという説もあります。

Perfumeがいまやっているエレクトロやハウスの音楽的なルーツを辿っていくと、その過程にゲイ・ディスコやゲイ・クラブが歴然と存在していますので、PerfumeLGBTのクラブでライヴをやること自体は、そんなに違和感ありません。

まあ、SXSWのページでこれだけ大きく扱ってたのに、キャパ650なのか!とは思いましたけどね。

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Live Streaming

そのSXSWには行く気満々だったのですが、結局仕事で泣く泣く不参加の私に、朗報が!

おおお! さすがはITの祭典、SXSW!!!

 って1曲ですかい!!!!

 

 

STORY(SXSW-MIX)

ストリーミングの時間に重要な会議があったため、リアルタイムでは観られませんでしたが、追ってネット上にいくつか残っていた録画映像を観ました。

 (追記:Perfume公式YouTubeチャンネルで再アップされました!期間限定です)

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えー正直言いまして、

何が起きているのかよくわからなかったのですが、とにかくいままでに観たことのない映像、初めて観る演出。

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いつも新しくておもしろいことを実現させようとするRhizomatiksPerfumeチーム力が、真価を発揮したことは間違いないでしょう。

なぜ私はこの場所にいなかったのか……!!!!(※仕事)

 

カメラアングルのシームレスな変化や、CGと実写のミックスなど、どうやっているのか皆目見当もつきませんが、〈テクノロジーの祭典〉としてのSXSWに、これ以上ふさわしいパフォーマンスもそうそうないはず。

(追記:カメラアングルの繋ぎについて、この映像がプロトタイプなのでは、という指摘を見かけました。確かにこれっぽい!)

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650というキャパがもったいない限りですが、これは〈小さな会場ならではの見せ方を考えた〉という、World Tour 2ndでのリアルタイム・トラッキング&プロジェクション・マッピングの方向性を、さらにアップデートしたものと捉えてもいいはず。この演出、5000人規模の会場じゃ伝わり切らなかったかもしれません。

 

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Perfumeがせっかく〈ITの祭典〉でもあるSXSWに出るのだから、ただライヴをやるだけじゃないだろう、

真鍋さんも気合入りまくりだろう!と思ってはいましたが、まさかこれほどのものを見せてもらえるとは! いやー素晴らしいです。

SET LIST

1. STORY(SXSW-MIX)

2. Spending all my time

3. ポリリズム

4. スパイス

5. Magic of Love

P.T.Aのコーナー

6. FAKE IT

7. エレクトロ・ワールド

8. チョコレイト・ディスコ

9. Spring of Life

STORY Goes On

「STORY」のサウンドについても触れておきます。

音色自体は〈EDM以降〉の、いわゆるビッグルーム・ハウス的なシンセがメインですが、無機質かつ抽象的なイントロからカウントダウン(もちろん日本語の!)を経て、大サビで3人の歌が入ってきます。そして短いブレイクで終わる。つまり起承転結が明確です。

この構造は「Enter the Sphere」とよく似ていますが、エレクトロ色が強かった「Enter~」と比べ、「STORY」ではEDM以降、つまり世界的なトレンドをより意識した(そしてその中での独自性を追求しようとした)作りになっていて、ヤスタカまだまだ頼もしいな!という感じです。

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Perfume represents...

http://sxsw.com/sxsw-2015-full-artist-list

これは今回のSXSW出演者の全リストです。膨大な名前が載っているなか、我らがPerfumeの名前も当然あります。

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Perfume(Hiroshima JAPAN)

 

〈Tokyo〉ではなく、あくまでも〈Hiroshima〉のグループだ、と。

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いまアメリカでヒロシマ〉という言葉がどう響くかはわかりませんが、さておきPerfumeが広島を代表して、世界的な音楽と映画とITの祭典であるSXSWで、

ずば抜けて新しくおもしろいことをやってのけたなら、

そしてここからまた何かが始まるなら、こんなに痛快なことってないと思います。

 

いやーPerfumeファン続けてて、よかったよ!!

 

追記:今回のエントリに貼ったPerfumeのライヴ写真は、The Huffington PostのPerfumeSXSW出演記事内のフォト・ギャラリーからお借りしました。フォト・ギャラリーには素晴らしいカットがたくさんあるなか、何でこれを選んだ?というものも入っているのが、日本でのライヴ写真と違ってて楽しいですね。

第52回 松尾潔さんの「マカロニ」評が素晴らしい!その2


[1/27]【連載】松尾潔のメロウな歌謡POP 第4曲目 - mora トピックス

 
前回の続きです。
松尾潔さんの「マカロニ」評について書きましたが、そもそも松尾さんのテキストは、誰もがすんなりと理解できるように書かれているのでなおこういう文章にするためには、熟練した技術と知恵が必要)僕があれこれ言うのも無粋の極みですが、さすがのご指摘や、凄みを感じた記述を抜粋引用させていただきます。
 
・Fm7→Gm7→Cm7という、〈AORではわりとポピュラーなコード進行〉が循環している
 
・トラックは装飾的ではなく、引き算で表情を演出
 
ノンビブラート唱法でフレーズの終わりを短く手堅くまとめている
 
テクニカルで的確な分析です。Perfumeの記事で、ここまで掘り下げて音楽的分析をしているものは少ないはず。
なお、これらの要素を受けて〈禁欲的な雰囲気も生まれ、主人公カップルは性行為におよんでいないのではないかという妄想をかきたてます。〉という、若干物議を醸しそうな表現もありますが、いやこれだって大事なことですよ!! 松尾さんが専門とするソウルやR&Bヒップホップは性愛についての詞も多いはずですし。

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◆サビ~大サビの分析

サビの「これくらいのかんじで いつまでもいたいよね」というフレーズについて、
まずメロディとしてのすばらしさ。「これくらい」の「く」から「ら」にかけての跳躍度の高いメロディには、何度聴いても心を揺さぶられます
 
この部分で、そういえばヤスタカって良いメロディー書くな!と改めて気付いた次第です。そして松尾さんはヤスタカの詞にも注目。
 
・サビ始めの「これくらい」は曲の進行に応じて「どれくらい」と変わり、いったん「これくらい」に戻り、一転「わからない」と着地する。ほら、こうやって4つを並べるだけで恋愛の諸相を語りつくすことができるでしょう?
 
・この一見平易な4つの言葉を等間隔に配することで生まれる深みこそが歌謡POPのケミストリー

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ヤスタカがそこまで考えているのか、ちょっと疑問はありますが、ここまでで、ほぼパーフェクトな評論ではないかと思ってしまいます。しかし松尾さんは、〈最も高い体温を感じさせる箇所〉であるという大サビ〈最後のときがいつか来るならば それまでずっとキミを守りたい」〉に託された心情までを読み解きます。圧巻です。
 

◆C.R.I.T.I.C.

いかがでしょうか。松尾さんの評論を読んでからもういちど「マカロニ」を聴くと、それまでとまったく違った聞こえ方がするはず。そしてその評論は、以下の2点で鮮やかに締め括られます。

1:中田ヤスタカ〈ポップ・ミュージック的知性〉と、それが〈ストリートワイズ〉であること
ストリートワイズは、教条主義的な知識ではなく、場数を踏むことで体得した知恵、って感じでしょうか。

2:「マカロニ」は(よく言われる)Daft Punkだけでなく、TotoBoz Scaggsユーミンとも繋がること

〈1〉は松尾さん流のポップ・ミュージック論のひとつ。〈2〉はサウンドの共通項を軸にした音楽論であると同時に、こんな曲も聴いてみてはどうかな?というレコメンデーションでもあります。
 
Perfumeと「マカロニ」の〈どこに惹かれたか、なぜおもしろいと思ったか〉の分析を経て、音楽そのものや、その楽しみ方について、読者の価値観や感性を広げる。こういう評論や批評の機能が、現在の音楽文化の発展に大きく寄与してきたはず。
というか松尾さんのこんな文章を無料で読めてしまうって、とんでもないことになってますね。

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↑2014年に上梓された松尾さん初の著書。超面白いですよ!

◆批評の対極にあるもの

以上、松尾さんの「マカロニ」評論で綺麗に終わる……ところですが、ここから先も書きます。このブログを始めるとき、いつかは書きたいと思っていたことです。
 
現在、Perfumeについて書かれているテキスト(で、いわゆる商業的なもの)はWebでも雑誌でも、以下のような論調が目立ちます。

Perfume、たった3人でドームの5万人に完全勝利!〉

確かにステージに立っているのは3人だけど、Perfumeは3人だからじゃなくて、ヤスタカやMIKIKO先生たちもいるからこそ凄いはずなのに……
 
Perfumeは、お互いの思いやりで生きてきたグループ〉
〈お互いがその感情を共有しようとする、その気持ちがPerfumeの核〉
3人の関係性の話、好きな人も多いですよね。でも3人の関係性は3人にしかわからないはずという大前提が、なぜか存在しなくて、自分の見たいもの(だけ)をPerfumeに見い出すことは、はたして健全でしょうか……
 

◆K.I.Z.U.N.A

基本的にPerfumeファンの方々は、曲が好きだし、メンバー3人のキャラクターが好ましいから、応援しているのだと思います。でもそれがいざメディアに載ると、やれストーリー使命だ、謙虚美脚お辞儀が長いファン想い向上心アイドルなのにロックとか。

それらはPerfumeのキャラクターを愛で、〈消費〉しているだけとも言えます。またそれらの要素は自己実現の表れ〉でもあるので、一部のファンは自己実現願望をPerfumeに投影しているのではないでしょうかだから応援していて非常に心地良いし、Perfumeがやることは全部最高!となる。
 
その一方、各メディアでPerfumeの音楽性をしっかり評価し、それを更新していこうという取り組みは多くありません。まあ、この期に及んで音楽性を評価したところでお金を生むわけでもないし、それよりもキャラクターを押して行こう!となるのも道理ではありますが……
 
そもそもいまだにPerfume=テクノ or テクノ・ポップという紹介も多いですが、少なくともいま〈テクノ〉と呼ばれているサウンドとはまるで違う(テクノの要素もなくはないけど、もっとエレクトロ・ハウス~エレクトロ・ポップ寄りです)し、いわゆる〈テクノ・ポップ〉だったのは初期だけです。〈ピコピコしてる音楽なら全部テクノ〉という大雑把すぎる認識は、40年近く前からあると思われます。
 
この片手落ちにはいろいろな要因が考えられますが、メンバーが音楽については深く語れない(からどうしてもPerfumeそのものや個人、関係性についての話になる)し、ヤスタカが2008年の日本武道館公演くらいから、Perfumeの音楽についてほとんど語らなくなったのも大きな要因でしょう。

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日本武道館直前のNHK特番では、ヤスタカもPerfumeについて語っていたのですが……

中田ヤスタカPerfumeな日々

ヤスタカがPerfumeを通して取り組んできたことは、やっぱりおもしろいです。Perfumeの楽曲は、ヤスタカのメイン・フィールドであるダンス・ミュージックの美味しい部分を都度いただきつつ、独自のアウトプットを模索することで、ポップ・ミュージックとして常に更新されてきたと思います。
 
特に2010年以降はEDMブームという大波が欧米に押し寄せており、それとの距離感の取り方も語り甲斐があったはず。
またサウンドや歌詞の変化からは、そのときどきのヤスタカのモードが窺えるはずだし、ダンスと楽曲の関係性がどう変わってきているか?だって大きなテーマになりえます(なおこれは振付師の竹中夏海さんが著書「IDOL DANCE!!!」で触れて下さって、すごく嬉しかったです)。
 
 
まだまだPerfumeの音楽だって語り尽くされてはいないのに、
 
Perfumeは夢と光の戦士!〉
〈「Dream Fighter」はPerfumeそのもの!!〉
 
みたいにはしゃいでいるだけのメディアを見ると、落胆を禁じ得ませんし、音楽ジャーナリズムとは対極の方向にファンを誘導しているようで気になってしまいます。
 
松尾さんの素晴らしい評論をきっかけに、もっとたくさんの方(やメディア)が、それぞれの観点でPerfumeの音楽について発言してくれることを願っています。
こんなグループ、もうたぶん出てこないでしょうから……
 

追記