第21回 Ultra Korea 2013
2013年6月14日。Perfumeは世界有数のダンス・ミュージック・フェスティバル、UMFの韓国版であるUltra Koreaに初出演しました。Ultra Koreaについては以前も書きましたが、2012年に開催された第1回は、動員が6万人とも8万人とも言われています(かなり幅あるな)。今年のタイムテーブルはこちら。
さて、今回Perfumeは2番目に大きいLIVE STAGE(それでもサッカーのグラウンド以上の広さはある)で20:15より出演する予定でしたが、大幅に進行が遅れて、結局Perfumeがステージに登場したのは21:15頃でした。
◆Perfume @Ultra Korea LIVE STAGE 2013.06.14
1. Spending all my time
2. レーザービーム(Album-mix)
3. Magic of Love(Extended Version)
4. Hurly Burly
5. だいじょばない
P.T.Aのコーナー
6. FAKE IT
7. Spring of Life
8. チョコレイト・ディスコ
◆ダンス・フェス仕様のPerfumeとは
今回のセットリストの特徴は、1曲目「Spending all my time」から5曲目「だいじょばない」まで、比較的新しくてダンス・ミュージック志向の強い楽曲を、ほぼ間を空けずに繋いでみせたこと。これは雑誌「音楽と人」でも語られていた、前年のUltra Korea出演者・中田ヤスタカのアドバイス「なるべく音を止めない」を踏まえたと思われます。
2曲目の「レーザービーム(Album-mix)」では、ステージに備えられているレーザービームはほとんど使われず、なぜかファイアーボールが上がりまくる珍演出。そして曲が終わると、そのままBPMをキープして、初めて耳にするブレイクビーツが流れます。
これはもしや「音楽と人」にあった発言、「中田さんにも手伝ってもらうかも」の部分!?(マニピュレーターのケイスケさんが作った可能性もあるけど、リミックスというより楽曲の再構築っぽかったので、たぶんヤスタカ製)
そのブレイクビーツが流れる間、3人は大急ぎでステージ奥の給水ポイントに。なるほど、このパートは楽曲のミックスとインターバルを兼ねていたわけです。そのビートに徐々にコードが重なり、メロディーが浮かび上がってくる。これは……「Magic of Love」! そして曲が終わると、またも未知のブレイクビーツに繋がり(ここでも給水あり)、そのままあ~ちゃんがビートに乗せて「Hurly Burly!」と叫んでシームレスに「Hurly Burly」へ。これがこの曲のライヴ初披露でしたが、発表から時間が経っていたこともあり、初披露だとしばらく気付きませんでした。
「だいじょばない」を経て、「P.T.Aのコーナー」。今回はすべて日本語で通していました。そして「FAKE IT」で盛り上げ、「Spring of Life」の終わりでは火薬が「バーーン!!」と炸裂。「これが最後の曲です、みんな知ってる曲だと思います! いっしょに歌って下さい!」のあ~ちゃん煽りからの「チョコレイト・ディスコ」は終盤で銀テープ大放出。全体的にスモークも噴出しまくり。さすが韓国、日本みたいにコンサートでの消防法の規制が無いこともあって、何でもアリ!!
そして最後に3人の自己紹介。「のっちです!」「あ~ちゃんです!」「かしゆかです!」と珍しくかしゆかが最後に名乗り、そこで一瞬の間(Perfume語録で言うと「お気遣い裏目裏目」状態)もありつつ、「3人合わせて、Perfumeでしたー!」で締め。あ~ちゃんは去り際に「コリアー! テーバ! テーバ!(韓国最高!)」と笑顔でした。
◆Ultra Koreaのライヴは大成功?
私は割と後方で、お客さんの様子も見つつステージを眺めていました。
はっきり言って、Perfumeの前に出演したAnamanaguchiの方が人も多かったし、盛り上がっていました。Perfumeは、客席前方こそ物凄く盛り上がるものの、それもせいぜい最前から5mくらいのゾーンで、それを過ぎると普通に観ている人が多数。最前から15mも下がると、もう大して人もおらず。あとは閑散としただだっ広い会場で、座って観ている人がポツポツいるくらいでした。
そして日本と違うのは、Perfumeのパフォーマンス中にどんどん人が減っていくこと。ただし、これらはPerfumeがつまらなかったというより、ちょうどその時間にMAIN STAGE(オリンピック・スタジアム)でKaskadeがプレイしていたのも一因だと思います(Kaskade、僕も観たかった)。
Perfume3人にも、いつものような笑顔が少なかったように見えました。対バンツアーの真っ只中、7月からはヨーロッパ・ツアーという過密日程のせいかもしれないし、「Magic of Love」の拡張がヤスタカ仕事なら、それで「良いライヴにしなきゃ!」と気負ってしまったのかもしれない。もしくは〈初の海外フェス〉という環境に対応しきれなかったか(実験的な構成なのに、会場ではほとんどリハもないでしょうし)。想像の範疇を出ませんが、少なくとも絶好調ではなかったと感じました。
◆ミックスの効果はあった?
上述したように、Perfumeの持ち曲のうち、ダンス・ミュージック寄りの楽曲を5曲繋げて披露しましたが、正直、その時点での観客(最前列近辺を除く)の反応は、さほど芳しいものではありませんでした。
すでに観客は、スタジアムの大音量&ド派手な照明と映像で、ブロステップやダーティー・ダッチ、プログレッシヴ・ハウスなど(=いわゆるEDM)を聴いているわけです。今回のPerfumeのアプローチは、その層のリスナーにも届けようという工夫に基づいていますが、なまじEDMを意識し、そこに接近したことで、どうにも中途半端な印象になっていました(〈Ultra Koreaにおいては〉と補足します)。観客からすれば「そういうのだったら、もっと踊れる曲がたくさんあるし」と。
僕も今回、スタジアムで数々のDJのプレイを聴きました。彼らの流す曲は、とにかくド派手で下世話でアッパー。ビートを強調し、観客を盛り上げる機能性に特化したものです。単純なだけにプリミティヴで力強く、人間の快楽中枢へダイレクトに作用します。
Perfumeのダンス・ミュージック色の強化が、図らずもその辺と比較される余地を与えてしまったのかもしれません。本音を言うと、僕ですらEDMの即効性に馴染んでしまい、Perfumeのステージを見て「あれ、こんなに音の出力低かったっけ? ベースやビートも細かったっけ?」と錯覚してしまいました。
このミックスだけでPerfumeの持ち味がしっかり伝わったとは思えなくて、なのに次々とステージに背を向けて去っていく人たちを見て、ホントに悔しかった。一人残らず首根っこを捕まえて「いやいや、Perfumeはこういう路線だけじゃないから! うん、EDMじゃないよ。けど、凄くオリジナリティーのあるグループだし、日本の音楽界の誇りなんだよ!」とでも説き伏せてやろうかと思いましたよ(ややウソ)。
◆Dance For Joy!!!
それでも「FAKE IT」以降は、Perfumeと観客のギアが急に噛み合ったように、ぐっと客席の雰囲気が良くなったと思います。実はその前の「P.T.Aのコーナー」が完全な内輪ノリになっていて、「もはやこれまでか……」と観念したので、これは嬉しかった。
「FAKE IT」は鉄板で盛り上がるとして、その次の「Spring of Life」もリアクションが大きかったのは意外……でもありません。「SoL」は、あくまでも想像ですが、観客に「こんなの他じゃ観たことない!!」と思わせられたのでは?
具体的には、あの振付とダンス。特に終盤で3人が動きを止め、かしゆかが、のっちが再び動き出し、そして2人に支えられたあ~ちゃんが立ち上がるシーンは「世界よ、これがPerfumeだ」と思いました(ウソです、いま思いつきました)。
◆実は凄かったAnamanaguchi
AnamanaguchiとはPerfumeのひとつ前に同じステージで演奏した、NYの4人組バンドです。彼らのサウンドはエモとパワー・ポップにチップ・チューンとエレクトロ・ハウスを混ぜた感じで、ナードなルックスも含めて、もうUltra Koreaの中じゃ浮きまくりですが、彼らはしっかり会場を盛り上げました(裏ではAfrojackが回しているのに!)。演奏や曲が良かったのはもちろんのこと、どんな場であろうとも自分たちの持ち味(=独自性)を存分に出していました。彼らはああいうアウェイな場に慣れているようで、それはPerfumeとて同じこと。それでも、両者のステージには微妙な(だけど決して小さくない)差異を感じました。
ちなみに、AnamanaguchiのフロントマンはMCで「次はPerfumeだよね! Perfumeは最高だよ! capsuleもきゃりーぱみゅぱみゅも好きだけど、やっぱPerfumeだよ! ああ楽しみ! じゃあ最後の曲(「Prom Night」)やるね。これは〈ナチュラルに恋して〉を初めて聴いたときに作ったんだ。これはやらなきゃいけない」と、全力でファンぶりを露呈させていました。
◆点と点をつなげて
こうして、Perfume初の海外フェス挑戦は終わりました。チームPerfumeは〈KAIZENの鬼〉なので、Ultra Koreaの経験を踏まえて、次にまたおもしろいものを見せてくれるでしょう。そういう意味でも、Ultra Koreaを観たことで、次が凄く楽しみになりました。
そして、僕には〈チームPerfumeの次なる挑戦〉と同じくらい、楽しみなものがあります。
僕の〈I ♥ Perfume〉Tシャツ(ホントにアウェイのときにしか着ない)を見て、「イェアッ!! パッフュゥム!! イェアッ!!」と、超ハイテンションで話しかけてくれた、カナダの国旗を纏った白人男性。
キラキラした瞳で、本当に嬉しそうにステージ上の3人を見つめる、現地の可愛らしい娘さん(「チョコレイト・ディスコ」のラスト、「ディスコ!」のキメで、両手の掌を顔の横に広げて「わぁ!」みたいにしているのが可愛かった)。
ご機嫌で踊り狂う、「Ultra Korea STAFF」とデカくプリントされた青いTシャツを着た男女カップル(仕事はいいのか)。
そして僕の近くで大盛り上がりだった、現地の男の子2人組。「チョコレイト・ディスコ」ではそこら中を走り回りながら「ディスコ!」「ディスコ!」の振りをして、挙句の果てには会場の最後方まで踊りながら猛ダッシュ。すると先を走っていた一人がつまづいて転び、それを追いかけていたもう一人が転倒したそいつにつまづいて転倒するという、美しいコントを見せてくれた2人組。
僕はこういう人たちに会いたかった。こういう人たちがPerfumeを楽しんでくれるのを観たかったし、その人たちの前でやるPerfumeを観たかった。
ビジネスとして考えたら、海外フェスなんて大変なだけでまず割に合わないだろうし、日本じゃ押しも押されもしないスターであるPerfumeが、わざわざアウェイなフェスに出演する意味もないのかもしれない。
それでも、Perfumeだからできることはあると思った。
これからが楽しみですよ、ホントに!!
※写真は本文と関係ありません