R.E.P.

Perfumeに特化した音楽ブログ/音楽に特化したPerfumeブログ

第70回 How Perfume Works

◇〈Perfumeはなぜ続くのか?〉

f:id:t_kito:20160331211702j:plain

言われてみれば、いままであまり表立っては語られなかったテーマかもしれません。

Perfumeはなぜ続くのか。

 

 

それはもちろん、所属事務所に十分な利益をもたらしているから……という考えは(事実であっても)よろしくない見方ですので、当ブログとしてこの問いに(※問われていなくても)答えるとすれば一言、

 

 

Perfumeは独自の価値を創出し続けているから〉です。

この〈価値〉は、音楽的・文化的な価値に加えて、ビジネス面での成功も含みます。

 

f:id:t_kito:20160402115529j:plain

 

◇Hard Times

f:id:t_kito:20160402123039j:plain

日本レコード協会ホームページより。2014年までのデータで、「有料音楽配信」の売上は入っていません

週刊文春の平成28年3月31日号、近田春夫さんのJ-Pop時評連載「考えるヒット」では、音楽業界にとっての2016年という時代を、以下のように表現されています。

 

〈音楽商売が、あらゆる意味でかつてほどにはもう“美味しくない”ものだ、ぐらいのことを、子供たちがとっくに見透かすようになってしまった時代〉

この書き方に異論もあるでしょうけど、完全に否定はできません……

そんな時代に、Perfumeが収めている成功とその実績は群を抜いています。

 

f:id:t_kito:20160117142302j:plain

ではその成功の秘訣は何か?

 

 

 

それは、ずっとこのブログで書き続けている(つもりの)、Perfume〈新しくて面白いことに挑戦し続ける姿勢〉が、独自の価値に繋がっていると見ています。

 

 

……と言っても、「別に新しいことなんかやらなくてもいいよ。Perfumeがあの3人であるだけで最高じゃん!」って方もいらっしゃるでしょう。

f:id:t_kito:20160401192532j:plain

 

それではここで、アルファベット社(※Google持ち株会社。現時点での時価総額は世界一)の会長であるエリック・シュミット氏と、同社のラリー・ペイジCEO(※Google共同創業者)のアドヴァイザーであるジョナサン・ローゼンバーグ氏が上梓した「How Google Works」から引用してみましょう。

f:id:t_kito:20160331232712j:plain

◇How Google Works

エリックとジョナサンは、「情報」「インターネットへの接続」「コンピューティング能力」の3つが安価になり、誰でも簡単に手に入れられるようになった結果、あらゆる産業を巡る環境が激変したことを踏まえて、〈いまや企業の成功に最も重要な要素は、プロダクトの優位性になった〉と書いています。プロダクトは競合他社と大差ないものにして、プロモーションや売り方で勝負するやり方はもう正しくないのだ、ってことですね。

消費者にとって、かつてないほど情報が溢れ、魅力的な選択肢がたくさんある時代を迎えた以上、あらゆる企業はプロダクト開発プロセスのスピードと、プロダクトの質を高めることを最優先すべきである、と。

 

そして劇的に優れたプロダクト作りに必要なのは、優れてクリエイティヴなスタッフが自由に創意工夫と試行錯誤を重ねられる環境であり、プロダクトの優位性を左右するのは、技術的アイデア(革新的な技術の活用方法やデザイン)である、と定義しています。これらによって生まれるのが、いわゆるイノヴェーションですね。

 

◇How Perfume Works

上記の図式をPerfumeに当てはめてみます。

クリエイター陣の創意工夫と試行錯誤に裏打ちされたプロダクト(=作品とライヴ・パフォーマンス)の優位性があり、技術的アイデアを活かした、フレッシュなライヴ演出やプロモーション手法があります。

それらの要素は激変する音楽業界においても、Perfume独自の新しさや面白さとして、広く支持されていると思います。

f:id:t_kito:20131114230727j:plain

その意味で、Perfume音楽産業においてイノヴェーションを起こす(そして維持する)ことに成功した、日本では数少ないグループかもしれません。だからこそ、国境を越えて支持されているわけで……。

 

 

作品とライヴの新しさ・おもしろさ以外では、3人の可愛らしさや衣装・髪型といったヴィジュアルの見せ方、そしてメンバーのキャラクターも、プロダクトの優位性のひとつですね。

 f:id:t_kito:20160401193028j:plain

 

 

 

……ん? そういえば冒頭の画像……

f:id:t_kito:20160331214254j:plain

夢を未来に変え続ける3人に迫る超大特集……

 

 

◇I Dreamed A ...

音楽メディアがPerfumeを採り上げる際に、すぐメンバーの人柄や関係性、物語性を〈信頼〉〈絆〉〈希望〉〈未来〉〈夢〉といった美辞麗句で褒めちぎる傾向は、「GAME」~「⊿」期にはそこまで目立たなかったように思うのですが、昨今では

Perfumeメンバーの謙虚な人柄

・3人のお互いへの思いやり、支え合い

・夢を諦めず、一生懸命努力する真摯な姿勢

・メンバー同士の仲の良さと、3人であることの強み

・広島での下積み時代から、世界へと羽ばたいていく物語性

あたりがやたらとフォーカスされるようになっています。

 

でもこの論調には、大きな不備が2つあるように思います。って変な日本語ですね。

 

 

【1】Perfumeメンバーの〈関係性〉〈物語性〉に特化した紹介では、映画で例えるならば俳優そのものと、映画のストーリーばかり話していて、肝心の映画の出来栄えに何も言及していないのと等しいです。

 

映画には、俳優(のパフォーマンス)を魅力的に見せるための演出やカメラワーク、脚色、編集、セット、照明、美術、衣装、メイク、特殊効果など、ありとあらゆる要素があります。そして何より、その映画が〈いまこの時代に作られて、観られる意味〉が、作品のテーマやメッセージに込められています(※込められていないものもあります)

それらにほとんど触れず、俳優の人柄やその関係性、映画のストーリー進行を追うだけのテキストが、芯を食ったものと言えるでしょうか。

 

映画と同様にポップ・ミュージック、とりわけヒット・ソングは、時代を映す鏡です。大衆の欲望を具現化し、満たすものです。Perfume(その関係性、物語性込みで)押しも押されもしない位置にいますが、中田ヤスタカはその評価に甘んじることなく、Perfumeの作品リリースでは一貫して〈じゃあ、こういう音楽はどうかな?〉という提案型のアプローチを試みてきました。そこから生じる意外性や新しさが、Perfumeプロダクトとしての優位性でもあったはずです。

 

ヤスタカのそういう姿勢にも関わらず、〈いま、この音楽の何がおもしろいのか?〉をとことん考え抜いて読者に伝えることはせず、関係性やら夢やら未来しか語らないのは、音楽ジャーナリズムとは言えません(偉そう)。

 

 

【2】音楽メディアがPerfumeを評するにあたり、〈夢を未来に変え続ける3人〉のようなポエミーな文章に留まってしまうのは、はっきり言って2007~2008年当時のPerfumeの取り上げ方から、ちっとも前に進んでいないと思います。Perfume自体はずっと前進しているのにも関わらず。

 

 

Perfumeは音楽産業にイノヴェーションを起こすことに成功しました。でもそれは、優れた音楽が軸にあり、そしてメンバー3人だけじゃないチーム編成だからこそ可能だったわけで、それを安易に〈3人の関係性と物語性〉で括ってしまうような論調には違和感を禁じ得ません。

 

◇STORY

それでも、〈夢を未来に変え続ける3人〉というポエ……もといリードが〈ファンが読みたいPerfumeの物語〉であることも、紛れのない事実でしょう。いまの時代には、Perfume〈関係性〉から紡がれる〈物語性〉こそが渇望され、価値のあるものと見なされていると思います。

 

 

 

だからこういうブログも始めたんですけどね。

 

第69回 Perfume 1st US Tourの会場あれこれ

 ついに詳細が発表されました、Perfume初のアメリカツアー!といっても初めて名前を聞く会場ばかりですが、はたしてどういうところなのでしょうか?

Venue 1 : The Wiltern(Los Angeles, CA)

f:id:t_kito:20140218115159j:plain

http://www.wiltern.com/

初のアメリカツアー、8月26日(金)のオープニングを飾るはLA。Perfumeアメリカ進出のきっかけがこの街(映画「カーズ2」のワールドプレミア)だったことを考えれば、Perfumeの物語性〉が好きな方々にも納得のセレクトでしょう。

コリアンタウンに位置するこの会場、1931年に開業し、85年に改修再オープンを果たしました。キャパシティは公演によって(スタンディングか座席指定かで)変動するようですが、3000~3500というところみたいで、いまなお〈LAで最大のシアター〉だそうです。過去の出演者も枚挙に暇がなく、Rolling StonesやDavid BowieElton Johnといった大物からAdele、Kendrick Lamar、Sigur Ros、そして我らがOK Goも出てます。

f:id:t_kito:20160305215237j:plain

現在(2016年3月5日)決まっているラインナップですと、日本人だとガゼットV系)やBABYMETALもワンマンライヴを実施。他にもGalantis(EDM)、Umphrey's McGee(ジャム・バンド)、FloetryR&B)、Third Eye Blind(ロック)、Kirk Franklin(ゴスペル)、Dream Theaterプログレ)など。ジャンルは多岐に渡っていますが、実力派といえるアクト揃いですね。

 

Venue 2 : The Warfield(San Francisco, CA)

f:id:t_kito:20160305222451j:plain

http://www.thewarfieldtheatre.com/

2本目の8月28日(日)も続けてカリフォルニア州と来ました。1922年に設立され、2008年に改修再オープンした2250人収容の会場。当初はヴォードヴィル(歌や踊り、劇や曲芸など)や映画向けの劇場だったようで、そんななかLouis Armstrongチャップリンなんかもステージに立っていたらしいですが(さらっと書いてみたけど震える)、79年に伝説的プロモーターのBill GrahamBob Dylanを、しかも2週間ブッキングしたことを機にコンサートホールに転じたようです。由緒も伝説も保つ、アメリカらしいホールですね。

出演者はそのディランに始まり、地元が誇るGrateful Dead、Prince、最近だとThe Killers(ロック)やAdele、Skrillex(EDM)なんかも挙げられています。

f:id:t_kito:20160305221548j:plain

現時点でのラインナップはSlayer、Tinashe(R&B)、At The Drive-In(ロック)のほか、B.A.P.やAOMG(これはレーベルのショーケース)といったK-Pop勢の名前も。と思ったら初音ミク&Anamanaguchi(Ultra KoreaでPerfumeと同じステージに立ち、その場でファンを公言したNYのオタクバンド)なんてのもありますね。カオス。そしてそれがおもしろい。

 

Venue 3 : The Vic Theatre(Chicago, IL)

f:id:t_kito:20160305222057j:plain

http://jamusa.com/the-vic/

8月31日(水)、3本目はイリノイ州のシカゴです。1912年にヴィクトリア・シアターとしてオープン。ここまで実に長い歴史のある会場ばかりです。日本にはそんな会場ほとんどないというのに……メインフロアはスタンディングのみで1400人収容、さらに椅子席が1000ある模様

f:id:t_kito:20130506200353j:plain

↑すみません、以前の画像は違う会場のものだったようで、こちらは正しいです。

過去の出演者は、こちらもDavid BowiePaul SimonPearl Jam(ロック)、King Crimsonプログレ)、Trent Reznor(ロック)、Phishジャム・バンド)、Emeli Sande(ポップス)などなど。

他のラインナップは、こちらもK-Pop勢のDynamic Duoがいますね。Adam Lambert(ポップス)、Pusha T(ヒップホップ)、St Germain(ハウス~テクノ)などなど、おもしろそうなアクトが目白押しです。Wilco(ロック)のJeff Tweedyも出ているな?と思ったら、彼らはシカゴのバンドでしたね。

 

Venue 4&5 : HAMMERSTEIN BALLROOM(New York, NY)

f:id:t_kito:20160305223335j:plain

http://www.mcstudios.com/

Perfume World Tour 3rdでもライヴを行った会場に凱旋。しかも今回は9月3日(土)、4日(日)の2DAYSです。1906年にオープンし、当初はオペラ劇場だったとか。マンハッタンを代表する多目的ホールのひとつで、収容人数は3500です。

過去にはGuns n' Roses、Beck、Swedish House Mafia(EDM)やJustin Timberlake(ポップス~R&B)、Ed SheeranにBABYMETALなどなど。直近だとFutureとTy Dolla $ignという注目ラッパーのツーマンがソールドアウトさせたみたいです。

f:id:t_kito:20131114230727j:plain

3月時点での他のラインナップはMetric(ロック)、St. Germain、Santigold(R&B~ベース)、Macklemore & Ryan Lewis(ヒップホップ)、Walk The Moon(ロック)、そしてここにも初音ミク!!

 

と、ここまで見てきました。どれも伝統あるホールばかりですね。それにしても新しい会場は取れなかっ……いやいや邪推は止めましょうか。

 

これまでのPerfumeの海外ツアーは〈お披露目公演〉的な位置づけ&セットリストでしたが、あくまでも今回は「COSMIC EXPLORER」リリース・ツアーの一環という位置づけです。Perfumeが、地域に根差した(=地元住民に長く親しまれている)これらの会場でどのようなライヴをやるのか、どう受け止められるのか。またもや新しい挑戦が始まります。

f:id:t_kito:20160204145810j:plain

なお個人的には「もし、せっかくアメリカまで行くのなら、Perfume以外のライヴも観たいな……」が本音ですので、そのテーマは引き続き調べて参ります。

第68回 「STAR TRAIN」は、新たなスタートラインか?

f:id:t_kito:20150920115659j:plain

Perfumeの2015年を、簡単ですが振り返ってみましょう。

3月 映像作品「Perfume WORLD TOUR 3rd」リリース、「SXSW」出演

4月 シングル「Relax In The City / Pick Me Up」リリース

5月~8月 各地のフェス/イベント出演

9月 「Perfume Anniversary 10days 2015 PPPPPPPPPP」開催

10月 シングル「STAR TRAIN」リリース、映画「WE ARE Perfume –WORLD TOUR 3rd DOCUMENT」公開

 

こうして見ると、結成15周年&メジャー・デビュー10周年に相応しく、周到に計画・準備のなされた、充実したアニバーサリー・イヤーでしたね。

 

その記念的な1年の締め括りにリリースされたシングルが「STAR TRAIN」です。映画「WE ARE Perfume –WORLD TOUR 3rd DOCUMENT」のために作られたこの曲。SNSでの評判を見ると「泣ける!」「この曲はPerfumeそのもの!」「ヤスタカから3人へのメッセージ!」などなど、極めて好評のようです。

 

でも、これは全部、歌詞への称賛であり、サウンド面などにはあまり言及されません。なぜでしょうか?

 

◇Thinkin bout...

f:id:t_kito:20160117142302j:plain

映画だけでなく、「LIVE 3:5:6:9」でもフィナーレを飾るという、象徴的な使われ方だった「STAR TRAIN」。近田春夫さんのJ-Pop時評連載「考えるヒット」924回(週刊文春2015年11月19日号)で、この曲が採り上げられていたので、主な内容を引用させていただきます。

 

PerfumeがTVに出演して「今回は泣ける曲です」と言っていたけど、大丈夫なのか? これまでに聴いてきたPerfumeの曲は、どれひとつとして〈泣ける曲〉〈泣かせる曲〉などなかった

・J-Popの世界は、作品の良し悪しではなく、演者への感情移入や応援が優先されるという意味での〈アーティスト至上主義の世界と言える

・そんななかでも、Perfumeはあくまでもサウンドのおもしろさや新しさでのアピールに徹してきたはずだ。言い換えれば、決して情に訴えるようなことはしなかったのに、今回は様子が違う……

 

悲しいことに予感が的中してしまった。まったくビートっ気のない曲調、ベタでひねりのない歌詞。どこにも刺激が感じられない

・あれほど近未来的なテクノ(筆者注:厳密にはテクノではないと思います……)をやっていた人たちとは思えぬほど、普通に普通のJ-Popの音

・キツい言い方になるが、これは退行ではないか?

・これを機に、Perfume無難な路線に進んでしまうのだろうか。聞けば聞くほど不安が募る

 

 

近田さんは、ずっとPerfumeを(それなりの距離を取りながら)応援して、その楽曲の魅力を高く評価してこられた方です。

それは近田さんがPerfumeのライヴでお馴染みの「ジェニーはご機嫌ななめ」の作曲者である、という背景とも違う、ミュージシャンとしてのフラットかつフェアな評価でした。直近では「Relax In The City」なんかも、近田さんは惜しみなく評価して下さっています。こちらはブログにも書いています。

f:id:t_kito:20150518190452j:plain

また先日出版された「Fan Service[TV Bros.]~」では、2007年の近田さんとPerfumeの対談も掲載されており、こちらも必読です!

f:id:t_kito:20151230162712j:plain

そんな近田さんが「STAR TRAIN」を、違和感や戸惑い、不満を隠すことなく、正面から批評(※単なる批判ではありません)しました。

この記事を読んだ私は〈そんなことない、「STAR TRAIN」は泣けるよ!〉〈近田さんはPerfumeの関係性をわかっていない!!〉といったことを……

 

 

まあ1ミリも思いませんでしたね。この記事には一理ありますし、むしろ私の感じたところを、踏み込んで表現して下さったようにも感じました。

◇Music is everything?

ここで私の「STAR TRAIN」の感想を、サウンド面から書かせていただくならば、これはPerfume流のスタジアム・ロック(アリーナ・ロックとも言う)だと思います。なおこの見方、ネット上では他にどなたも書いていません。一応英語も含めてググって確かめました。

 

では、そのスタジアム・ロックって何?ですが、大雑把ながら

1:大会場に似合う、壮大な曲調・サウンドで

2:群衆がシンガロングして盛り上がれる曲

でしょうか。それこそColdplayFoo Fighters、Imagine Dragons、U2なんかをイメージしていただければと思います。One DirectionやTaylor Swiftもある意味ではそうかもしれません。イメージ的に1曲挙げるとすれば、これですかね。

 

そして2010年代のスタジアム・ロック(的にウケているもの)といえば、間違いなくEDMです(とりわけビッグルーム・ハウス。サウンド面での差異はさておき)。これはアトランタのダンス・フェス、TomorrowWorldでも体感しました。ド派手なサウンドに合わせて、群衆がシンガロングしまくり。たとえその曲がインストであっても、観客は大声でウォウウォウと歌うことで、会場の一体感を高めていきます。

f:id:t_kito:20140926155647j:plain

「STAR TRAIN」の〈ウォーーオーー、ウォウォゥオオーーー〉(他に書き方ないのか)というシンガロング・パートは、まさにそれですし、途中でいかにもなビルドアップ(1分15秒あたりとかの、アゲていくブレイク)が入るのも、ビッグルーム・ハウス的です。

 

Perfume版のスタジアム・ロック(としてビッグルーム・ハウスを拝借する)というアイデア、いままでになかったしおもしろいですよね。しかも、これみよがしにドラマティックな展開にもできるところ、それは避けて、基本的に4つのコードが循環するだけの、抑制の利いた構造もユニークです。

f:id:t_kito:20151109020038j:plain

 

 

しかし、それで新鮮なおもしろい曲になるかは、また別のお話なわけで……。

 

 

ヤスタカは「STAR TRAIN」の構造をシンプルにする代わり、アレンジで抑揚を付けています。これを単調と取るかダイナミックと取るかは人それぞれですが、確かに近田さんの指摘する通り、ミディアムのビートは良くも悪くも平凡な印象です。それに乗るピアノもギターも普通のアコースティックな音色で、ちょっぴり保守的な印象は拭えません。

 

もちろん「STAR TRAIN」に新味がないわけではなくて、3分20秒からのアカペラで声を重ねてアゲていく感じは新鮮です。あとは、うーんと……まあいろいろありますよね……

 

◇ You ready for this?

f:id:t_kito:20150709221033j:plain

 「音楽と人」2015年12月号によると、今回は最初に「TOKIMEKI LIGHTS」ができていたものの、もう1曲(つまり「STAR TRAIN」)を作るためにヤスタカは相当な時間をかけて、レコーディングの予定も延期を重ねたそう。これは〈5分の曲なら5分で作れる〉とうそぶくヤスタカにしてはかなり珍しいことのようです。

 

そしてようやく曲が出来上がり、レコーディングに臨むメンバー3人が詞を読み、〈この曲、私たちのことを書いてくれている……!〉と泣いた。というのが、言ってしまえばこの曲の最大のポイントなわけで、そこに乗れるかどうかが、この曲の評価を大きく分ける気がします。

 

〈そこに乗れるかどうか〉、つまりPerfumeのストーリーや、3人の関係性にどれくらい感情移入できるか、心酔しているか、です。「STAR TRAIN」は、Perfumeの〈ストーリーと関係性〉を描くためにあるような曲です。〈肩を組んで笑ってきた/僕らはきっと負けない〉とか〈歯車のように噛み合う力は/一人じゃきっと伝わらない〉とかね。

 

Perfumeの楽曲には、ヤスタカがその時々のPerfumeを巡る状況や、3人へのメッセージを、詞に書き込んだと思しきものが散見されます。解釈は人それぞれですが、love the world「マカロニ」(たぶん)「JPNスペシャル」、言わずもがなの「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」……

 

 

そしてDream Fighter

f:id:t_kito:20151030024053j:plain

この曲、リリース当時は初の日本武道館公演に挑むPerfumeを象徴する楽曲という印象でしたが、いまやこの曲は普遍的な応援ソング(a.k.a 頑張れソング)として、多くのファン、そして何よりPerfumeメンバーから親しまれています。

 

今回の「STAR TRAIN」の受け入れられ方は、「Dream Fighter」と非常に近いものがあります。それ自体はまあそうだろうな、という感じですが……さあ、ここからが本題ですよ(※前置きが長い)。

 

f:id:t_kito:20160117145018j:plain

前回のエントリーで、Perfumeには〈多面的な魅力〉があり、ファンがそれぞれ自分の好きな要素を見い出すと書きました。いま、その需要がPerfumeのストーリー性〉と〈3人の関係性を含むキャラクター性〉に偏ってきているのではないでしょうか。あと、〈最新テクノロジーの活用〉もあるんですが、それはまた稿を改めて……

 

◇SERVICE

以前、ジャズ・ミュージシャンの菊地成孔さんは「昨今の日本人が、やたらと感動しよう、感動しよう、でなきゃツッコミを入れよう、入れよう、としている」と、ブログで書かれていました。その通りだと思います(もしあとひとつ付け加えるなら、褒められたがっている、特に海外から、とも感じます)。

その風潮の背景には様々な社会的要因がありそうですが、それはさておき、感動できて、泣けて、ツッコミを入れられる(そして海外でも認められる)ことにコンテンツの価値があるとするのなら、Perfumeってそういう意味では完璧かもしれません。

f:id:t_kito:20160117144853j:plain

 

 

でも、Perfumeの……というより音楽の魅力は、〈感動できること〉だけではないわけで。

 

 

 

f:id:t_kito:20160117143330j:plain

今回の「STAR TRAIN」、やたらと〈感動〉ばかりに焦点が当たっていますが、では実際にヤスタカはどういうつもりで書いたのか?

 

もちろん、Perfume3人のことを想って書いているとは思いますが、むしろヤスタカが時々やる、「お前らこういうの好きなんだろ?」的なサーヴィス精神の表れといいますか……

ここで、CMなどのタイアップが付いた、近年の楽曲の傾向を考えてみましょう。

 

Natural Beauty Basic」のCMソングナチュラルに恋して

「氷結」のCMソング「GLITTER」

氷結やさしい果実の3%」のCMソング「微かなカオリ」

「映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)」の主題歌未来のミュージアム

VIERA」(ディスプレイ)のCMソング「DISPLAY」

メルセデス・ベンツ Aクラス」のコンセプト〈Next Stage with YOU〉をそのまんま拝借した「Next Stage with YOU」

 

これらに見られる、これでもか!!というくらいクライアントやその商品に寄せていく意匠が、間違いなく今回の「STAR TRAIN」にも透けて見えると思います。

むしろその意味で、Perfumeらしい曲でもありつつ、ものすごーーくヤスタカらしい曲とも言えるのではないでしょうか。

 

なお「STAR TRAIN」はWiz KhalifaとCharlie Puthの異常ヒット曲「See You Again」に似ている……というかそっくり……いや激似という話はまあ置いておきましょう。

www.youtube.com

 

◇Next Stage with YOU

いろいろ書いてきましたが、Perfume常に過渡期にあり(ますよね?)、「STAR TRAIN」が〈感動〉面での支持を集めても、結局はPerfumeの過程の、ひとつに過ぎないはずです。

 

この先に控えているニュー・アルバムとツアーで、また新しくておもしろい何かを見せてくれることを、心から楽しみにしています。

あ、「NHK紅白歌合戦」のPerfume尋常じゃなくチャレンジングで素晴らしかったです!!!

f:id:t_kito:20160117133858j:plain

第67回 Perfumeにまったく興味ない人の映画「WE ARE Perfume」感想

皆さん、映画「WE ARE Perfume -WORLD TOUR 3rd DOCUMENTはご覧になりましたか?

f:id:t_kito:20151031140309j:plain

きっとこのブログを見て下さるような(奇特な)方は、すでに鑑賞済でしょう。ぴあの満足度調査でも高得点をマークして1位、SNSをちょっと見ても絶賛の嵐です。宇多丸さんにも(当然ながら)好評でした。私も、クレバーなドキュメンタリー作品であり、誠実なアイドル映画であり、素晴らしい音楽映画だと思っています。

cinema.pia.co.jp

 

でも……これって、すでにPerfumeファンだったり、少なくとも興味がある人が観に行っているからだろうなぁ……Perfumeに関心を持っていない人、肯定的に評価していないような人が、あの映画を観たらどう思うんだろう?

 

決して、Perfumeファンじゃないと楽しめない、内向きな作品ではないと思うから、興味がない人にもぜひ見てほしい…………

 

 

 

あ、私が興味ない人を劇場に連行すればいいのか!!

 

 

ということで、確実にPerfumeに興味なさそうな友人を誘いました。

性別:女性

年齢:Perfumeメンバーより下

職業:コンテンツ制作

 

この友人に白羽の矢が立ったのは、この映画は〈ものづくりに携わっている人〉なら楽しんでもらえるんじゃないかな、という見立てによります。

f:id:t_kito:20151115142525j:plain

 

さっそく連絡したところ、「Pefumeの映画ですか? 友達も観に行ってたし、見てみたいです!」とのことで、ここまでは良かったのですが、映画を観る当日に意外な情報が揃いました。

 

 

・音楽は好き、やっぱりジャニーズは外せない

 

映画館に行くのは数年に1回

 

ドキュメンタリーは好きじゃない

 

・好きなお店は渋谷109

f:id:t_kito:20151109195707j:plain

うん…………どの要素も、今回の映画やPerfumeから、それなりに距離ある!!

(念のため。私もジャニーズのライヴには行ったことがあり、群を抜いて凄いショーだと存じ上げています)

 

しかも、以下は映画鑑賞後に聞いた(鑑賞後だからこそ、打ち明けてくれたと思いますが)、かつてのPerfumeの印象。

 

「TVで観たことはあったけど、あ~ちゃんがあまり好きじゃなかった

 

曲もどれも同じような印象

 

事務所が大きいから、きっとプロデューサーとか誰かの言いなりでやってるんだろうと思ってた」

 

当然ですが、テレビでPerfumeを知って、こういう印象を持った人も、そりゃいますよね。というかそんな低評価に関わらず、よくもまあ映画館まで来たな!!

 

実は、以前も女性にPerfumeの印象を訊いて、ヒヤリとする場面が何度もありました(白人女性に「Plastic」と言われたことすらあります。今思い出しても悔しいよ……)。どのへんで良し悪しを判断しているかは皆目わかりませんが、まあ女性が同性を見る目は厳しいということですかね。

 

◇対決の日が来る

ひとまず喫茶店で女の子と楽しくお喋りしながら(その情報いる?)Perfumeの簡単な来歴と、MIKIKO先生など重要人物を簡単にレクチャーしました。「『ポリリズム』でデビューしたと思ってた!」そうで、実にフレッシュな反応です。

そのとき、女の子から「Perfume歌やダンスを間違えたりしないんですか?」と訊かれて、「まあ、それは映画を観てもらうとして……」とお茶を濁しました。

 

さあ、いよいよ映画の上映が始まります!

f:id:t_kito:20151109020038j:plain

 

 

 

……そして2時間後。場所を近場のレストランに移して、以降はそこでの会話を一問一答形式でお伝えします。

 

◇キミの好きそうな映画 ちょっと眠たい?

―(上映中は)起きてた?

起きてました

 

―映画、少しは楽しめた?

すっごく良かったです!! お話したいことたくさんあります。あ~ちゃん……ですか? もうホント凄い! テレビで見てて、前はあんまり好きじゃなかったけど、一気に好きになりました

 

―印象に残っているシーンは?

たくさんあります! あの曲(「STORY」のこと)、あれ凄いです!あのカメラのスイッチング、どうやってるのか全然わからなかったけど、凄すぎて、いま自分が見ているのがライヴなのかCGなのか、わからなくなるくらい

f:id:t_kito:20150321131125j:plain

あと、ニューヨークでライヴが始まる直前、あ~ちゃんがカメラに向かって(※以下ネタバレになるので省略)。ロンドンでLEDが点灯しなかったとき、ダメ出し会であ~ちゃんが(※以下ネタバレになるので省略)。ライヴが始まる瞬間の、お客さんがめっちゃ盛り上がってるシーンも最高です。お客さんの層もとっても幅広いですね。あ、ニューヨークの会場で、超胸元開いた黒人さんいましたよね? あの方はゲイですか?

 

―ダンス・ミュージックはゲイ・カルチャーと密接な関係がありますからね。さておき、あの地道な反省会のシーンはどう見た?

「事務所が大きいから、プロデューサーとかがいて、その言う通りにやっているんだろうって思ってたんですけど、あんなに細かいところまで、本人たちが決めているなんて思いませんでした。

マイクだって、ずっとヘッドセットでやれば楽なのに、ハンドマイクもちゃんと使って、しかもどこでどうマイクを受け渡すか、細かく調整していてびっくりしました。LAでしたっけ、あ~ちゃんが延々と修正箇所を言っていくところ、あれ凄いです。あ~ちゃんが本当に凄いです!

f:id:t_kito:20151024125442j:plain

―(やっぱりあ~ちゃん、すげえな……)

「あと、セットリストをあれだけ変えていくなんて! しかもそれがお客さんの声を活かしたり、お客さんの反応を見て入れ替えていく柔軟さがあって、あんなのPerfumeくらい人気がある人で、他にやっている人いないと思います。「(ネタバレ)」をどこに入れるか、ずっと話し合っているところもありましたけど、そういう変更でライヴが全然違うものになると思いますし」

 

―ああいうエレクトロニックなサウンド、普段は聞かないよね?

「全然聞きませんねー。でも、前は曲がどれも同じような印象でしたけど、こんなにいろんな曲があるとは思いませんでした。それはやっぱり振付があるからで、実際に目で見てみて、どの曲も全然違うと感じました。

Perfumeのライヴって、ダンスを見て、視覚で楽しむ感じだと思ってたけど、ああいう振付(たぶん「MY COLOR」とか)で、お客さんもいっしょに作っていくところもあるんですね」

 

のっちが派手にダンスを間違えるシーンはどう見ましたか?

「テレビで見ていると、のっちがいちばんクールでしっかりしてそうな感じだったんですけど……」

f:id:t_kito:20151109194748j:plain

―………。では、お客さんの姿がたくさん映っていたのはどう思った?

普通のドキュメンタリーなら、Perfumeの映像が中心になりますよね。ライヴはもっと日本人ばっかりだと思ってたんですが、現地の人多いですね! まあそういうショットを選んで使っているのかもしれないんですが、それでも現地の人が凄く多いのはわかりました。あと、ライヴを観ながら泣いているお客さんもいて、自分も昔、泣いたライヴのことを思い出しました」

 

Perfumeの魅力を大きく分けて、〈1:メンバー3人のキャラクター〉〈2:Perfumeの苦労人的ストーリー〉〈3:スタッフとのチームワーク〉〈4:新しくておもしろいことに挑戦し続ける姿勢〉があるとして、印象に残ったのは?

〈3:スタッフとのチームワーク〉ですねMIKIKO先生だけじゃなくて、スタッフの方々はずっと昔からいっしょなんですよね? そういう関係があって、そこで良いものを作ろうとしているのは、自分もものづくりに携わっている身として、凄くうらやましいです。

さっきも言いましたが、ロンドンでLEDが点灯しなかったとき、あ~ちゃ(以下ネタバレのため省略)あの思いやり! 自分も似たような経験があって、あのシーンはそれを思い出して泣きそうになりましたね。

f:id:t_kito:20151115143904j:plain

Perfumeが海外に来るのをずーっと待っていた人たちにとって、あのライヴの2時間って特別ですよね。そういう時間を作れることって凄い。その分、絶対に失敗できないですけど。昔、自分もライヴの仕事に憧れていたのを思い出しました。やっぱり音楽の仕事もいいなぁ……って

 

―映画の中で〈2:Perfumeの苦労人的ストーリー〉は感じた?

「売れていない頃からPerfumeを観ていたら、初めてのアメリカ・ツアーは超感動するんでしょうけど、それはわかりませんでした。でも、Perfumeにはストーリーがあるんだ、というのは映画で伝わりました

 

佐渡監督の編集はどう見た? 僕はライヴも反省会もお客さんもオフショットも、ちょうど良い配分で、考え抜かれたバランスだと思いました。

「そうですね。その映像がみんな、最後のニューヨークへと向かっていく感じがとても印象的でした」

f:id:t_kito:20151109194850j:plain

―女性ファンにはPerfumeみたいになりたい」「むしろPerfumeになりたい」という願望がある(人もいる)らしくて、男性の僕にはよくわからないけど、それはどう思う?

「うーん…………Perfumeには、女性として尊敬できる部分が凄く多かったです。憧れますよ。でも、例えばメンバーの足の細さも、単にガリガリな細さじゃなくて、しっかり筋肉が付いてました。物凄い努力をしていることは一目でわかります。だから、自分がそこまで大した努力もしていないから、安易に〈Perfumeみたいになりたい〉とは言えないですね」

f:id:t_kito:20151115143950j:plain

 

(想像だにしない回答を食らって絶句)えーっと……

ということらしいんですが、映画を観て、Perfumeの3人を少しは好きになった?

「あれ観たら、好きになりますよ!!ライブも行きたいです」

 

―では映画で、ここはあまり良くなかったな、というところは?

「手持ちカメラでメンバーに密着しているので、手ぶれが大きいところがあって、テレビならまだしも大画面で見ると、ちょっと気持ち悪くなります……」

 

―会長について一言。

「どの業界でも〈会長〉って呼ばれる人は、ああいう感じなんだなって思いました

 

―ちなみに今日は、なぜ映画を観に来てくれたのかな? あっ(髪をかき上げながら笑顔で)やっぱり誘ったのが僕だったから……

〈映画観たらご飯おごるよ〉って言われたからです」

 

―最後に何か一言。

映画、本当に楽しかったです! 今度、六本木のウルフギャング・ステーキに連れて行って下さい!

f:id:t_kito:20151109022913j:plain

↑ ウルフギャング(この店名どうなんだ)名物のプライムステーキ。1名分あたり8000円!!!

 

―申し訳ないけどそれは無理です。

 

 

はい、以上です。私が「○○のシーンはどう思う?」など、話を引き出した部分も少なくありませんし、順番も編集していますが、女の子の感想はほぼそのまま使わせてもらいました(※最後のオチだけは勝手に作りました)

 

P.T.A. MOVIE(〈Perfumeとあなた〉の映画)

映画の感想を聞くうちに、図らずもPerfume論的な話まで行きましたが、そこで思ったのは、劇中でかしゆかも語っているとおり、Perfumeは多面的な要素で構成されているため、観る人は、そこに自分が求めているものを見い出すのだろうな、ということです。

f:id:t_kito:20151109201100j:plain

私はPerfume最大の魅力は〈4:新しくておもしろいことに挑戦し続ける姿勢〉だと思っていますが(つまり宇多丸さんやピエール中野さんと同意見)、メンバー3人の関係性に心酔する人もいれば、苦労人的ストーリーに感情移入する人もいます。

映画に付き合ってくれた女の子みたいに、スタッフの皆さんとのチームワークに共感する人も多いでしょうし、とにかくPerfumeの曲が好きなんだ!という人、メンバーが可愛いから大好き!な人、ライヴが最高に良いから!という人もいるはず(そしてこれらの複合も)。

f:id:t_kito:20151115144040j:plain

Perfume観る人の心(や願望)を反映する、映し鏡のような存在になっているのかもしれません。Perfumeファンが100人いれば、100通りの見方があるのでしょう。

 

 

でも、考えてみれば、これって映画の見え方と完全に同じですよ。

 

観る人の年齢、性別、人生経験や性格によって、同じ映画を観ていても、感じる内容は結構違います。例えば映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を観て(このブログでよく名前出てくるな……)

f:id:t_kito:20151109192136j:plain

「なんか砂漠を車が走りまくっているだけの映画」「これこそ現代の神話なんだ!」

アクションこそ映画のすべてだと証明している」「大したストーリーもない、単調な映画だったよ」

「これは男のための映画!」「女性讃歌の映画だ!」

「主人公のマックスが最高!」「これフュリオサの映画でしょ?」

イモーータァァーーーン!!!!

※このブログは、〈すべての読者がマッドマックスを観ている〉という前提で制作されています。

 

みんなが同じものを観ているはずなのに、その見え方は全然違う。私は、それが映画の魅力と豊かさだと思ってきました。

 

ですから、ただでさえ多様な楽しみ方のできるPerfumeが、映画になる!というのは、物凄くジャストな題材と言えますし、それは輝くような体験〈brilliant experience〉……この引用元、わかる人いるかな?)となるのです!

 

 

映画「WE ARE Perfume」は、掛け値なしに素晴らしい〈映画〉です。ぜひ見てみてください。

f:id:t_kito:20151109194920j:plain

第66回 NHKのPerfumeドキュメンタリーが描いてきたもの その3

前回の続きです。

 

◇MJ presents Perfume × Technology(放送:2013年10月12日)

f:id:t_kito:20151112025615j:plain

2010年の「ドーム5万人ライブへの挑戦」は、MIKIKO先生や内山監督をはじめ、スタッフの皆さんのドキュメンタリーと言っていい作品でした。そして2013年の「MJ presents Perfume × Technology」はメディア・アーティストでプログラマーPerfumeのライヴ演出に携わる真鍋大度さんを大フィーチャー。言うまでもなく、制作統括は佐渡岳利さんです。

 

……もうNHKチームが、真正面からPerfumeメンバーを採り上げたドキュメンタリーを作ることはないんじゃないか?と当時はちょっと思ったりもしました。その予想は映画「WE ARE Perfume」で覆されるわけですが。

 

この番組では、Perfumeがパフォーマンスにどのようにテクノロジーを採り入れているか、それはなぜか(※ここ重要!)を掘り下げます。ちなみにこのPerfume × Technology」の最新形が、映画「WE ARE Perfume」での「STORY(SXSW-MIX)」ですね(映画での真鍋さんの登場は、まあ多くないですけど……)。

www.daito.ws

番組冒頭は、「Spring of Life」のMVや東京ドームでのPerfumeの掟」、ヒカリエでの「氷結SUMMER NIGHT」、WORLD TOUR 2ndなどの映像を、Perfumeのテクノロジー路線のダイジェストとして少しずつ見せます。2013年6月のカンヌ・ライオンズ(カンヌ国際クリエイティヴィティ・フェスティヴァル)でのステージは、ナレーションで〈最先端メディア・テクノロジーとリンクしたパフォーマンス〉と呼んでいます。

 

そしてここで真鍋さん登場。〈クリエイター集団・Rhizomatiksの一員で、いま世界から熱い注目を浴びる、アートとテクノロジーを結びつけるスペシャリスト〉と紹介されます。最初に、真鍋さんがPerfumeとの出会い〉を語ります。

f:id:t_kito:20151112025640j:plain

・PVをいくつか観て、興味を持ったのがきっかけ

音楽も振付もおもしろいな

・ライヴを観に行って、あまりエンタメのライヴは見たことなかったんですが、こんなに凄い演出をやっているんだ、って

・そこから凄くファンになった

 

真鍋さんが語ってる内容、〈Perfumeとの出会い〉じゃなくて、〈私はいかにしてPerfumeが大好きになったか〉じゃないか……ちょっと似てるけど、全然意味合いが違うよ!!

 

Perfumeメンバーが真鍋さんの人となりを語ります。真鍋さんのエピソードとして、〈沖縄でパソコンで釣り〉話を披露。しかも映像付きで。

f:id:t_kito:20151112025712j:plain

f:id:t_kito:20151112025734j:plain

f:id:t_kito:20151112025754j:plain

f:id:t_kito:20151112025934j:plain

あ~ちゃん「すっげぇ遠くで釣りしてるのを、こっちでこう見てる、パソコン打ちながら……海でもパソコン使うんかい!!」

 

そして(2013年当時の)注目の技術として、プロジェクション・マッピングを紹介。しかも今回、動いているPerfumeの身体へとマッピングする、その動機を真鍋さんが語っています。

「静止している建物とかじゃなく、(動いている)人にプロジェクション・マッピングすることで、より振付がおもしろく見えたり、ダンスがカッコよく見えたりということはあるだろうなと思っていて」

f:id:t_kito:20151112030237j:plain

さりげなく話していますが、これは本当に重要な部分です。「なんかプロジェクション・マッピングって流行ってるらしいからやってみようぜ!」的な、テクノロジーやトレンドが先に立つのではなく、振付やダンスをよりカッコよく見せるための〈アイデアとしてマッピングがある、と。

この時期、スクリーンに普通に映像を投影して、それに合わせて人間が動いたりすること=プロジェクション・マッピングだと言っている人が私の身近(つまり音楽業界)にすら続出してましたけど、それは〈スクリーンの映像に合わせて人が動いてる〉だけです。普通のスクリーンではない、立体物などに映像を投影する技術がプロジェクション・マッピングのはずです。

こういう何も把握していない(理解しようとしない)人に限って「なんか流行ってるらしいから!」とか言い出すし、それはたとえばダブステップ」「EDM」でも、実情を全然把握せずにその名称だけを使いたが……いやいや愚痴はやめましょうか!!!!

 

さておき、動いている対象にマッピングするために使用するのは赤外線カメラと距離計測カメラの2種類。「メンバーの動きをリアルタイムで解析して、映像をトレースさせている」とのこと。

f:id:t_kito:20151112030759j:plain

さらにこれでマッピングするPerfumeの衣装は、コンピューターのリモート制御で羽やスカート部分が稼働するようになっています。衣装担当の三田真一さん大変だったろうな!

かつてファッション誌で、よく三田さんが〈いまイケてるスタイリスト〉として誌面に出ていたので、まさかPerfume関連でお見かけするとは、夢にも思いませんでしたよ……

 

もちろんこのマッピングを行う曲は「Spending all my time」かしゆか曰く「最初の振付は、あまり動きがなくて、それだと身体の動きにセンサーが反応してマッピングしているのがわかりづらくてもったいないので、振付を変更しました」と。これもまた工夫と改善ですね。

この「Spending all my time」、ひとつの衣装に二種類の映像をマッピングしていて、これは当時として世界初の試みだったそうです。

 

ここで「LIVE at NHK(後述します)での「Spending all my time」の映像が入ります。まあ、いつ見ても……めちゃくちゃカッコいいですわ!!!

f:id:t_kito:20151112031353j:plain

ここでは1曲をフルコーラスでじっくり見せてくれるのですが、これだけ長く1曲を採り上げるのはNHKPerfumeドキュメンタリーでは初めてだったりします。これまで映すのは人間がメインで、曲の扱いは短かったですから……

Perfume  History

「Spending all my time」が終わると、Perfumeは2000年に広島で結成されました」と、唐突にPerfume Historyが始まります。まあ、あった方が親切ですよそれは! 彼女たちの活動を振り返るなかで、初めてテクノロジーを本格的に採り入れるきっかけになったのが、2010年の東京ドームであることが示されます。真鍋さんたちがPerfumeのライヴ演出に関わった最初の公演ですね。

 

あ~ちゃんが初の東京ドームについて語ります。

「あんなに大きな会場は初めてだったので、大きな演出が必要でした。サプライズ的な演出がしたい」

真鍋さん「たとえば〈レーザーで風船を割りたい〉と言われて、こういう仕組みにすればできるな、とすぐに思いつきますが、そこであまりテクノロジーの話はせずに、演出の話だけして。僕らは裏で、テクノロジーを使ってどう実現するかを話し合います」

f:id:t_kito:20151112032627j:plain

お二人の話に共通しているのが、〈大切なのは演出〉と捉えていることです。そしてテクノロジーを使えば、それがそのまま演出になるわけではない、と。

おーい! 「なんか流行ってるらしいから」な連中、聞いたかーーーー!?

 

実際、あ~ちゃんは「レーザーでめっちゃ遠くの風船が割れるんです! 仕組みはよくわかんないんですけど」と笑っています。

 

しかし、風船が割れるかどうかは、会場の温度や湿度、そして風船の個体差に左右される要素が大きく、複数の風船を割る場合の調整はとても難しいそうです。

真鍋さんも「風船、割れないなーって」と苦笑。「あれは結構難しいシーンでした。本番当日のリハーサルでもうまく行かなかった。その場の温度や湿度も絡んでくるので、毎回同じ条件とはいかなくて。本番では、びっくりするくらいビシッと決まったんですけど」。

本番は5万人の観客が発する熱と湿度で、リハーサルとはまったく異なる環境です。そこでバシッと成功させるとは……運がいいのか何なのかわかりませんが、普通にやっているだけでは成功しない類のものであることは確実です。

 

ナレーションではPerfumeが思い描く、理想のステージ。それを支えているのが、テクノロジーなのです」テクノロジーは何のためにあるのか?ということですね。

 

Rhizomatiks

シーンは2010年から2013年へ。初台のICCで開催された「Rhizomatiks inspired by Perfume展」です。

f:id:t_kito:20151112033230j:plain

ちなみにここで真鍋さん、MIKIKO先生、関さんおよびICCの畠中さんによるトークショーPerfume inspired by Rhizomatiksが行われ、それは当ブログの第26回よりレポートしています(読み返したらおもしろかったです)

番組ではメンバーがRhizomatiks展に来場し、LED制御の衣装、ホログラフィック映像、3Dスキャンシステムを紹介していきます。

 

ちなみに番組中、ちょいちょいアイキャッチとして、Rhizomatiks展での来場者の3Dスキャンデータを用いた映像が出ます。この番組自体も、Rhizomatiksのコラボ作品のひとつと言えますね。

f:id:t_kito:20151112025615j:plain

その3Dスキャン、何となくのイメージで把握していましたが、定義付けるなら「物体を3次元のデータとして取り込み、解析することでその物体を360°の立体としてヴィジュアル化する技術」だそうです。ただスキャンしてデータを取り込むだけかと思っていました……

 

LEDが仕込まれた「Spring of Life」の衣装が、時系列に沿って3種類展示されています。

f:id:t_kito:20151112033639j:plain

PVのもの(2012年4月)、MTVイベント出演時のもの(同6月)、紅白歌合戦でのもの(同12月)。比べて見ると、PVの時点では有線でのコントロールで、制御装置も大仰でした。

f:id:t_kito:20151113000353j:plain

それが紅白では無線でコントロール、制御装置も相当小型化されて、もはや気付かないレベルまで改善されています。

f:id:t_kito:20151113000653j:plain

この間の8か月、どれだけ工夫に工夫を重ねてきたのかが窺えます。

 

そして紅白歌合戦のシーン。当日はLED衣装を無線で制御することに加えて、ステージ上の映像と音楽をすべてシンクロさせていました。生放送でこれは、リスキーな挑戦です。

f:id:t_kito:20151112034044j:plain

真鍋さん「自分のやっていることを、最終的にはいちばん大きなところでやりたかったので、それは日本で言うと、やっぱり紅白でした。ただ、前のアーティストからの転換の短さが、尋常じゃないので……こんなに短い時間しかないの?ってくらい短くて、それは胃を痛めましたけど、いろんな人の力を借りて実現しました」

 

普通は〈転換が短いし難しいよ→失敗したら誰が責任取るの?→じゃ、やめようかとなりますし、失敗が許されない紅白歌合戦の生放送ということで、確実に誰かが止める(もしくは止まる)と思うのですが、全員でそこに突っ込める勇気が凄いです。

 

そして紅白歌合戦でのRhizomatiks演出は、2013年はダンスするPerfumeにプロジェクション・マッピングした「Magic of Love」、2014年にはドローンとダンスをシンクロさせた「Cling Cling」という、他に誰もやっていない(そしてどれもビシッと成功させた!)挑戦へと継続されていくのですが、それはまた別のお話……

 

 

かしゆかが紅白当日を振り返っていますが、普段のライヴでは舞台袖にいてくれるライゾマチームも(転換の都合で)近くにはおられず、リハ以外ではステージ上でのチェックもできず、誰も成功を保証できない状況。

 

それでも本番では見事に成功!! スタッフ陣の緊張と想いを一身に背負った3人を筆頭に、ここ一番で最高のパフォーマンスを発揮できるのは、ただシンプルに、普段の積み重ねの賜物でしょう。才能とかいう曖昧な概念ではありません。

 

 

続けて、2012年7月の〈氷結SUMMER NIGHT〉。参加人数の少なさ(400名)、他では見られない内容ともに、Perfumeのブレイク以降でもっともプレミアムなイベントだったといえます。私は当然参加できておりません。

f:id:t_kito:20151113002620j:plain

ホログラフィック映像とシンクロさせたPerfumeのパフォーマンスは、番組内で〈リアルとヴァーチャルの融合〉と呼ばれています。

しかしメンバーが口を揃えて言うのは「ステージ上では(ホログラフィック映像は)何も見えないので、完全に感覚で(映像の出現パターンを)覚えてやるしかない」こと。これ、どう考えても難易度が高すぎますが、Perfume以外にできる人いるんでしょうか……?

 

そしてこのホログラフィック映像とのシンクロは、「Spending all my time」のマッピングとは完全に逆の手法です。

ホログラフィック映像とのシンクロは、Perfume(何も見えないけど、そこに映っているはずの)映像に合わせてダンスする。

マッピングは、コンピューターがPerfumeのダンスに合わせて映像を投影する。

人がコンピューターに合わせるのか、コンピューターが人に合わせるのか、まったくもって対照的なアプローチですが、どちらにも共通するのが、真鍋さんの言っていた「より振付がおもしろく見えたり、ダンスがカッコよく見えたりすること」です。とはいえ、この対照的なアプローチに対応するのって、まったく違うトライなので、メンバーもスタッフも骨が折れると思うのですが……

 

のっち「私たちは、何かにはめていく作業も好きです。3人だけでやるのも好きなんですけど、自分の感覚だけじゃない、テクノロジーに寄っていく、はめていくのも楽しいですね」。

のっちにとってテクノロジーとは、Perfumeに変化をもたらすもの、挑戦しがいのあるもののようです。

あ~ちゃん「ホログラフィック映像、テレビで見ると結構透けていて、いかにも映像って感じなんですが、生で観ると本当にいるようなんですよ。本当に、生で観てほしいです

 

……見たくても、見られなかった人もいるんですよ…………

 

 

さて、番組ではPerfume×テクノロジーの最新事例として、「1mm」のビデオが紹介されます。

f:id:t_kito:20151113074146j:plain

特殊加工したアクリル板に、一定の方向からLEDライトを当てることで、発光したり色が付いて見えたりするシステムを開発したそうです。へー、どうやってるんだろう、詳しく知りたいな!

しかし流れる映像は「LIVE at NHK」の「1mm」……急にテクノロジー関係なくなってる!と思いましたけど、まあせっかく素材もあるし使いたかったんだろうな、と斟酌いたしました。

f:id:t_kito:20151113080644j:plain

 

続いて、ワールドツアーに合わせた「Perfume Global Site Project」を紹介。念のためご説明しますと、Web上でPerfume楽曲データ、ダンスのモーションキャプチャー(動作)データ、3Dスキャンデータをフリー配布し、クリエイターが自由に映像を作り、投稿するプロジェクトです。いわゆるCGM(Consumer Generated Media)ですね。消費者が生成するメディア。真鍋さんの説明では「Webを使って、Perfumeとファンとクリエイター、みんなでひとつのムーヴメントというか、コンテンツを作ること」です。

f:id:t_kito:20151113081225j:plain

そして世界中のファンがこのデータを用いて、自由に映像作品を作り、参加意識を高めただけでなく、その映像がライヴで使われました。これもリアルとヴァーチャルの融合のひとつであり、最終的にはリアルそのものであるライヴの場に落とし込まれるところに、このプロジェクトの意図がありそうです。

 

この「Global Site Project」は、2012年の文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門で大賞を受賞しています。私も観に行きましたが、おもしろかった……というかPerfumeのテクノロジー演出が好きな方には、メディア芸術祭は超お勧めです!

 

Perfume × Technology

最後に改めて、Perfumeとテクノロジーを組み合わせる意味はどこにあるのでしょうか。

 

真鍋さん「いままではWebサイトはWebサイト、iPhoneアプリiPhoneアプリでバラバラだったのが、みんなで参加して、それがひとつのステージ上でのパフォーマンスになったり……〈ヴァーチャルとリアルの融合〉というか、ステージ上のパフォーマーとファンがどんどんひとつになっていくような。そこで、Perfumeだからこそできることが凄くたくさんある気がしますね」

あ~ちゃん「私たちがやってきたダンスと、凄い技術がコラボレーションしたときに、初めて興味を持ってくれる人がいたり、こういうことやってみたいな!って、夢を与えられたらいいなって思います」

f:id:t_kito:20151113092748j:plain

ナレーション「あ~ちゃん、かしゆか、のっち。この3人の想いが、テクノロジーで世界に繋がっていく。それが、Perfumeです」。

 

 

そして舞台は「LIVE at NHK」が収録されたNHKの101スタジオへ。

f:id:t_kito:20151113092825j:plain

あ~ちゃんの「せぇーのっ!」で始まる「MY COLOR」……ってこれも「1mm」に続いてテクノロジー関係ない!!!と思ったけど、歌詞がちょっと〈新しいテクノロジーで人と人が繋がっていく〉みたいな感じだから、いいのかな……まあ…………うん…………

 

もちろん、テクノロジーにまつわる話が中心の番組の最後に、ライヴでの生な姿を見せることの意味もあると思います。これもまたPerfumeなんですよその魅力を伝えるためにテクノロジーがあるんですよ、と。

 

Perfumeが最新テクノロジーを採り入れていることを紹介するテレビ番組はたくさんありましたが、その理由や背景、目的までしっかり伝えようとした唯一の番組が、この「Perfume × Technology」ではないでしょうか。

 

ちなみに、WORLD TOUR 3rdでコンサートを締め括る曲もまた「MY COLOR」ですね。

 

 ◇Perfume LIVE at NHK(放送:2013年10月27日)

これまでのようなドキュメンタリー手法ではありませんが、その流れに位置付けずにはいられない番組であり、いよいよ、これがシリーズの(現時点での)最後です。

 

 

メンバーの人柄とストーリーを広く伝えた「20歳の挑戦」

MIKIKO先生とメンバー、スタッフのクリエイティヴィティを称賛した「ドーム5万人ライブへの挑戦」

ファンの姿を通して〈世界的なPerfume現象〉を視覚化した「今、世界へ」

Perfumeとテクノロジーの関係性を掘り下げたPerfume × Technology」

 

 

それぞれの番組で、まったく異なる切り口からPerfumeの魅力を採り上げてきたNHKが、いよいよその総決算的なライヴ収録に踏み切ったのがこの「Perfume LIVE at NHK」です。

もちろん佐渡さんが制作統括ですので、決して普通にライヴを行うだけの番組にはなりません。

 

 

冒頭はNHKの通路を歩いて会場に向かい、気合入れをするメンバーと、その登場を待ちわびる観客が映ります。そしていよいよ内山監督がステージへと続く扉を開き、3人が歩みを進め……

f:id:t_kito:20151113220425j:plain

と思いきや、ここから「Perfume × Technology」の冒頭とほぼ同じ展開(カンヌ・ライオンズの模様とか)が繰り返されます。ダンスするPerfumeへのプロジェクション・マッピングや、「Perfume Global Site」の説明が入りますが、これはライヴの1曲目「Spending all my time」への前振りなので、しょうがないです。

 

ここでセットリストを書いておきましょうか。

 

Perfume LIVE at NHK SET LIST

1. Spending all my time

2. Spring of Life

3. Magic of Love(Extended Version)

4. Hurly Burly

MC

5. 1mm

MC

6. 未来のミュージアム

7. Handy Man(※メンバーは衣装替えで不在)

8. だいじょばない

9. ポリリズム

P.T.A.のコーナー

10. チョコレイト・ディスコ

11. MY COLOR

 

 

この並び、何かお気付きになりませんか……?

 

 

f:id:t_kito:20151113223458j:plain

ライヴのスタートから8曲目の「だいじょばない」まで、完全に〈その時点での新曲しかやっていません。「LEVEL3」が2013年10月2日リリースと、放映日に近いこともあるのでしょうけど、このセットリストは明らかに、何らかの意図を感じさせます。

 

その意図とは、〈最新のPerfume像を提示する〉ことではないでしょうか。最新のPerfumeが最高のPerfume、なんて言われてもいますが、まさにそれをテレビ放送で証明しよう!という意気込みを感じます。このセットリストはNHKサイドから言い出したのか、Perfume側が提案したのか……

 

 

「エレクトロ・ワールド」も「ワンルーム・ディスコ」も、「Dream Fighter」もいりません……もとい、ありません。そういう意味では、〈ちょっと興味あるけど観てみよう〉とか〈昔の方が好きだったなー〉って人には途中で「何これ、知らない曲ばっかり……」とチャンネルを変えられかねません(特に昨今では、グレーゾーンのユーザーの消費行動が全般的に弱くなっているとも聞きますし)。

 

それでもこんなに思い切った構成に挑戦できるのは、視聴率を(民放ほどは)気にしなくていい公共放送ならでは、ということもあるんでしょうが、それ以上に作り手側の「どう? 新しいPerfume、最高にカッコいいでしょ!!!」という信念が滲んでいる気がします。

 

実際、私も放映以来2年ぶりに見返してみましたが、この時期の3人のパフォーマンスは、超絶カッコいいです。もちろんいま(2015年)も最高にカッコいいんですが、何と言いますか、BLANKEY JET CITYなら「SKUNK」の時期と言いますか(この例え誰かわかるのか)、ある程度のキャリアを重ね、何度かピークを体験してきたものの、ますます心・技・体が充実しまくり、やることなすこと無敵にカッコいい時期のように感じました。

 

あっ、「MANIFESTO」で復活してからのライムスター、で例えても良かったな……。

f:id:t_kito:20151113224357j:plain

こういう長いキャリアを経て、そこからさらに加速していくようなグループは少ないです。ちなみにブランキーもライムスターもPerfumeも3人組ですね。

 

 

話を戻すと、最新のPerfumeを提示してみせるこのセット。上述のとおり「Spending all my time」は、この時点でのPerfume × Rhizomatiksの最高傑作というべき完成度ですし、「Magic of Love」では、キックの4つ打ちからイントロを長く取り、アウトロからはシームレスに「Hurly Burly」に繋げるという、2013年当時「Ultra Korea」や「SONICMANIA」で試みていたダンス・ミュージック路線のアプローチです。

f:id:t_kito:20151113225118j:plain

また、メンバー不在の「Handy Man」インストは民放なら100%カットされるでしょうけど、これもRhizomatiks製の映像とのコラボレーションで作られた、立派なパフォーマンスです。こういうところもきっちり押さえてくれるのがNHKチーム、という感じですね。

 

 

Perfumeのライヴ映像はたくさんリリースされていますが、この「LIVE at NHK」も非常に完成度の高い作品です。最高にカッコいいです。NHKゆえ、P.T.A.のコーナー」「はみがきじょうずかな?」ここぞとばかりに収録されています!!

f:id:t_kito:20151113231138j:plain

 

◇映画のような完璧なストーリー

この「LIVE at NHK」、そしてNHKPerfumeドキュメンタリーの特徴を改めてまとめると、やはりこのふたつがポイントです。

 

Perfumeの魅力とは何か?〉さまざまな切り口から掘り下げている

・それゆえの批評性がある

 

多面的な要素で構成されているPerfumeの魅力を伝えるには、複数回に渡る、角度を変えてのアプローチこそが有効だったはずです。そして、そのすべてが映画「WE ARE Perfume」ともリンクしているから、映画を観た後なら、NHKドキュメンタリーの見え方も変わります。これは断言できます。

 

いまとなっては、合法的に観られる手段が相当限られてしまい残念ですが、資料としても貴重な、ここでしか観られない映像ばかりです。許諾の取得や契約(や事務所との交渉)は大変でしょうけど、いつかボックスセット、もしくは「NHKオンデマンド」で発表していただけないでしょうか……佐渡監督はじめNHKの皆さま! きちんと受信料を納めている、いちユーザーからの懇願です!!!

 

f:id:t_kito:20151114102731j:plain

佐渡岳利監督が携わった、Perfumeドキュメンタリー番組の集大成が映画「WE ARE Perfumeであり、これは長きに渡ってPerfumeを撮り続けて、その魅力を批評性をもって発信し続けてきた、佐渡監督にしか撮れなかった作品です。音楽ドキュメンタリーとしても、アイドル映画としても、とてもクレバーで誠実な作品です。

 

Perfumeの(最初で最後かもしれない)映画が、あのような素晴らしい作品になったことは、映画が好きで、ドキュメンタリーも好きで、Perfumeファンである私にとって、心から嬉しいことです。

 

 

さて、次回はその映画「WE ARE Perfume」の感想を書きましょうか……

 

私ではなく、まったくPerfumeに興味ない人の、ですけどね!!!

第65回 NHKのPerfumeドキュメンタリーが描いてきたもの その2

前回の続きです。

MJ presents Perfumeドキュメント 今世界へ(放送:2012年12月31日)

Perfume初の東京ドームライヴを「ドーム5万人ライブへの挑戦」として、そのクリエイティヴィティに迫るドキュメンタリー作品に仕上げたNHKチーム。彼らが次に追いかけたのは、〈WORLD TOUR 1st〉でまさに世界へ飛び立とうとするPerfume……なのですが、ここでもかなり思い切った工夫がなされています。

 

結論から書きますと、この「MJ presents Perfumeドキュメント 今世界へ」映画「WE ARE Perfume」のプロトタイプと言えますが、特徴として、ほとんど海外のPerfumeファン(とその想い)しか追っていません。ファンが主役で、メンバーはあんまり出ません。民放ではまず不可能そうな構成ですが、そんな無茶な番組の制作統括は我らが監督・佐渡岳利さんです!!!

 

番組は2010年の東京ドーム公演の映像(つまり「ドーム5万人ライブへの挑戦」の続きですよ、という演出)で始まり、LAでの「カーズ2」プレミア上映でのブラックカーペット、海外でのCDリリース、ソウルでの「ABUソングフェスティバル」など、2010年~2012年までの【海外展開】をざっと採り上げます。

f:id:t_kito:20151105001825j:plain

なお、ABUソングフェスティバルが終わり、会場の建物を出た3人がたちまち韓国のPerfumeファンに囲まれる→握手→ファンの「ギャアアァァア!!!(嬉しい悲鳴)」という歓待を受けるシーン(※まだ番組開始2分)が、早くも今回の切り口を物語っています。

 

韓国より戻ったPerfume。2012年10月22日には横浜BLITZで、初のアジア・ツアーにむけてリハーサルに臨みました横浜BLITZは「GAME TOUR」フィナーレの地であり、そしていまは無き会場です)。3人がそれぞれ、初の海外ワンマンについて語っています。

 

あ~ちゃん「ライヴハウスでできることなので、ドーン!と来る迫力はあると思う」

のっち「いつもどおりにライヴできたらいいんですけど……3人でステージに立てば、どんなところでも3人のライヴにはなるので」

かしゆか「どれくらいみんなが日本語を知っているのかもわからないから、どうなるんだろう……という感じですね」

三者三様の心持。初の東京ドームでもそうでしたが、あ~ちゃんはいつも前向きです(不安がないわけはないと思うんですが)。のっちのコメントは、踏んできた場数を感じさせますね。

◇NIGHT FLIGHT

10月25日の夜、台北松山空港。ロビーには、Perfumeの到着を今や遅しと待ち受ける200人以上の現地ファン。これ、どうも〈いつ、どの飛行機でPerfumeが到着するか〉がメディアで大々的に発表されていたと聞くのですが、大らかですねー。

f:id:t_kito:20151105022234j:plain

空港ロビーに姿を現した3人。あ~ちゃんが代表して挨拶した後、空港を出ようとしますが、プレゼントを渡そうと多数のファンが押し寄せ、大混乱! 3人は手に持てるだけのプレゼントや花束を抱えて、車に乗り込みます。車中でも「凄く嬉しいね!」「みんな日本語わかるんだね」「本当にファンの人なんだって感じ」と、想像以上の歓迎に興奮気味。あ~ちゃんは現地ファンと無事にコミュニケーションを取れたことが嬉しそうです。

f:id:t_kito:20151105022321j:plain

そして実はこの空港のシーンだけで、のべ6組ものファンがインタヴューに答えて、Perfumeが台湾に来てくれた喜びを語っています。

 

翌日。カメラは現地の進学塾へ……って?と思ったのですが、講師の若い女性がPerfumeファンだそうで、生徒にPerfumeへの想いを熱く語り、パソコンでlove the worldのライヴ映像を見せたりしています。微笑ましいですね。

 

続いて、白バイに乗った若い男性警察官が颯爽と登場。彼のバイクのキーホルダーは、なんとのっちの写真です。「毎日、大好きなのっちを見ていると元気がもらえます」。ほほう、濃さそうなのが来た!!

f:id:t_kito:20151105002653j:plain

そしてポリリズムからPerfumeを応援しているという彼の自宅を、カメラが尋ねるのですが……

壁一面Perfumeのポスター

・CDや写真集、掲載された雑誌などの膨大なコレクション

・グッズもTシャツ(PTA限定も)、パンフレット、カレンダーなど多数所持

・2012年の時点で9度来日し、Perfumeのライヴは13回観た

・大好きだという「コンピューターシティ」カメラの前で歌唱

・その歌詞を中国語に訳したうえ、「この歌詞は意味深ですね、Perfumeがブレイクする前の彼女たちの心境に近いと思います」と分析

 

負けたよ、その熱心さには……

 

なおこの時点で番組開始から10分が経過していますが、ファンの映像だけで半分を割いています。ここまで一般人がガンガン出てくるとは……「ドキュメント72時間」か!!(のっちもあの番組は大好きらしいです)

 

警察官が強烈でしたが、続いては17歳の可愛らしい女の子が登場。この動画にも登場している方です。

台北の町中でPerfumeの振りコピをする現地ファンの皆さん。たとえ日本語はわからなくても、ダンスならまったく同じものを共有できます。これがPerfumeノン・ヴァーバル(非言語的)な強みです。

 

その女の子は定時制高校の2年生。定時制高校を選んだのは、昼間は働いて、自分でお金を稼いでPerfumeを追いかけたいから……

って、意外とさっきの警察官ばりに振り切れてるよ!!! この女の子が、お母さんにもPerfumeを知ってもらおうと、いっしょにCDショップを訪れます。店内モニターに映るポリリズムのMVを見て「あっポリリズム!お気に入りの曲なの」と言うと、お母さんが苦笑しながら「(Perfumeの曲は)何でも好きなのねぇ」と返すシーンが、僕はとても好きです。

 

CDショップを出ると、女の子が所属するダンス・サークルの練習を、お母さんも見学に行きます。娘さんのダンス(曲は「Hurly Burly」)を微笑みながら見守るお母さん。しかし、お母さんは最初Perfumeが理解できなかったこと、女の子がどうしてもPerfumeのライヴを見に日本へ行きたがり、当然お母さんに反対されたため2~3日家に帰ってこなかったこと、初めて知る娘さんの熱心な一面に触れて、ついに根負けしたことが、お母さんの口から語られます。こらこら、あんまりお母さんを困らせちゃいけないよ!(※自戒を込めて)

 

また、先ほどの警察官が、ファン仲間たち(なんと30人くらいいる!)とのPerfumeライヴDVD上映会で、「GLITTER」を聴きながら狂喜乱舞しているシーンもありますが、彼に関しては、この先どんなシーンがあっても驚きません。そしてこの上映会(というか台湾公演記念パーティー)でも、ファンへのインタヴューが続きます。みんな思い思いに、Perfumeへの愛を語っています。

◇初の海外ワンマン

ライヴ当日の10月26日。警察官、高校生、塾の先生と、これまで登場した人が次々と会場であるNeo Studioに現れます。なんだか群像劇みたい! そして本当に久々に、Perfumeの3人も画面に登場、会場入りします。あ~ちゃんがミキサー卓を見て「ちょっと近代的ヴァージョン」と評しますが、意味はよくわかりません。

 

リハーサルが始まります。会場の広さに反してステージそのものは小さく、見え方を知ろうとあ~ちゃんがステージを降り、客席からかしゆかとのっちのパフォーマンスをチェック。次々と修正を入れていきます。(この辺から、画像はDVD「WORLD TOUR 1st」のものを拝借しています)

f:id:t_kito:20151108014843j:plain

あ~ちゃんが問題点に気づけば、舞台上の2人はすぐに「じゃあこうしようか」と案を出す。このやり取りにはMIKIKO先生も内山監督も基本ノータッチ。ナレーションが入ります。

 

〈3人は、衣装を替えたりマイクを置いたりといった、ステージでの動きやタイミングを自分たちで話し合い、決めるようになりました。デビューから12年、観客の目線に立って自ら演出するまでに成長しています〉。

 

もちろん、「Perfume WORLD TOUR 1st」のDVDでは先生や内山監督ともいろいろ話し合っているシーンがありますが、「ドーム5万人ライブへの挑戦」からの進化も感じさせるくだりです。

 

 

18時、会場がオープンすると高校生と塾の先生は最前列をキープ。警察官はちょっと引いた場所にいますが「ホントに夢みたい!」と嬉しそうです。その頃楽屋では、3人が中国語での挨拶を懸命に覚えています。一通り練習して、のっちが「あ~、言えそう!!」と喜んでいるのが何かウケます(しょっちゅう言い間違えるから)。

 

f:id:t_kito:20151108015637j:plain

開演直前の楽屋で、初の海外ワンマンに臨む3人が気合入れを行います。あ~ちゃんが「お客さんも、超楽しみにして来てくれています。海外の人ですが、思いはきっと伝わる!」と言うのは、前日の空港で現地ファンの皆さんと会って、しっかりコミュニケーションが取れたからでしょうか。緊張も感じさせながら、舞台袖に向かう3人。出る直前まで、1曲目「Enter the Sphereのフリを確認しています。

 

 

場内が暗転、大歓声の中でステージに3人が現れた瞬間、客席の歓声がピークを更新します。これは映画「WE ARE Perfume」でも、多くの会場で幕が振り落とされるあの瞬間を使っていたのと同じですね。

f:id:t_kito:20151108015808j:plain

「コンピューターシティ」のイントロでは、これ以上なくエキサイトする警察官の姿が映し出されます。わざわざカメラの前で歌ってくれた、彼にとっていちばん大切な曲。このシーンの連続性をきっちり押さえる演出と制作力、おそるべし!

 

中国語でMCする3人、もちろんカンペはガン見ですが、ファンは大喜び!(かしゆかだけは短い挨拶だからか、暗記しています)

 

f:id:t_kito:20151108015853j:plain

塾の先生は、初めてPerfumeを好きになった曲というlove the world(※生徒にも見せていましたね)のコスプレをしていて(というかその衣装を手作りして、寝たのが当日の午前4時)、その曲が始まったときの彼女の喜びようもきっちりカメラは捉えています。さすがです……!

 

ライブは中盤に入り「P.T.Aのコーナー」へ。あ~ちゃんが「やってまいりました、P.T.Aのコーナー! リズムに合わせて声を出したり、身体を動かしたりするコーナーです」と紹介しながら泣いているという、非常におもしろ……もとい珍しい画です。

「みんなといっしょに、楽しい時間を作りたい! みんないっしょにやってくれますか?」への大歓声に「ありがとう」と涙声で答えるあ~ちゃん。「小籠包! 小籠包!」ご当地ネタで煽りながら泣くという、なかなか不思議なシーンですが、これも誰も予想しなかった、ドキュメンタリーならではの画です。

f:id:t_kito:20151108011055j:plain

ライヴ本編のラストは、高校生がお母さんに「これお気に入りなの!」と語ったポリリズム。最前列でこの曲を懸命に歌う、彼女の姿が映し出されます。「コンピューターシティ」「love the world」そして「ポリリズム。番組にフィーチャーされた3人の大切な曲が、それぞれに届けられる様が記録されています。

 

自分の好きな人が、目の前で自分の好きな曲を演奏してくれることがライヴの醍醐味です。台湾のファンの姿は、日本のあなたでもあり、私でもあります。国境も言語も飛び越えて、人が何かを共感できる。それが文化芸術の魅力であって、映画「WE ARE Perfume」からも感じられる普遍的なテーマですね。

 

アンコールを終え、楽屋に戻るPerfumeの3人。ほっとしたのもつかの間、かしゆかが「えっ!?」と短く叫びます。場内に残ったお客さんがDream Fighterを合唱しているのです。「え!?」と驚くあ~ちゃん。のっちは忍者のように出入り口に張り付き、会場の声に耳を澄ませています(画的にはなかなかおもしろい)

f:id:t_kito:20151109212227j:plain

 

実は、視聴者だけはこの展開を知っています。前日のファン同士のパーティーで、みんな「Dream Fighter」を練習していました。この展開と、驚く3人の姿をどちらも観られるのは視聴者だけです。

 

映画「WE ARE Perfume」でも終演後に観客が合唱するシーンはありますが、3人にとって海外でのこんな反応はこの日が初めて。かしゆかは「Dream Fighter』歌ってる!! どうしたらいい?どうしたらいい!?」と、比較的クールな彼女には珍しい切迫したトーンに(つまり感情の吐露に)グッときます。これもまた、ドキュメンタリーならではの画です(しかし、「WORLD TOUR 1st」のDVDでは、このかしゆかの狼狽ぶりは映っていません……)。

 

異国のファンが、どれだけ自分たちが来るのを楽しみにしていてくれたか、改めて感じた3人。かしゆかとあ~ちゃんは涙をこらえきれず、のっちは何とも言えない良い顔をしています。客席の合唱が終わり、歓声が続く中で舞台袖に準備されたマイクに向かって、

あ~ちゃん「みんなー!」

3人「ありがとーー!!」

このときの3人の表情が、本当に美しいです。これもドキュメンタ(以下略)

f:id:t_kito:20151109212307j:plain

 

終演後、塾の先生、高校生、警察官がそれぞれライヴの感想を語っています。

塾の先生は「3人のとりこになりました」

高校生は「人生最大の想い出になりました。将来は日本語をがんばって、日本の大学で勉強したいです」と言っています。当時高校2年生、2015年のいまは、どこで何をされているのでしょうか(映画「WE ARE Perfume」の台北会場でも彼女はしっかり映っていましたが)。

警察官はPerfumeはすでに、アイドルの域を越えています」「彼女たちがいるから、すべての仲間の心が繋がっています。このひとときを共有できて、本当に感謝しています」水を差すようですが、そういう魅力がある人こそ、アイドルなんだと僕は思いますよ!

 

その後の香港、韓国はバッサリと省略され、ツアーの最終公演地である11月23日のシンガポール。映画「WE ARE Perfume」でもシンガポールはフィーチャーされましたし、3棟のビルが巨大な船を支えているアレもまた出てます。

 

シンガポールでは、ファンとのミート&グリートの模様が映ります。かしゆかと話す14歳のメガネ男子、Perfumeのことは「YouTubeで知った」とか。その後のワールドツアーすべてに言えることですが、やはりPerfumeのブレイクとYouTubeの世界的メジャー化の時期が重なったのは本当にラッキーだったと思います。なおこの少年、緊張して目の前のかしゆかと目を合わせられず、かしゆかが彼の肩をがっちり掴んで「目を合わせてー!」と言うので、彼の中で何か外れたと思われます。

 

ミート&グリートに来ているのは現地の男性が多いのですが、なぜかみんなこぞって朴訥とした風貌で、ガチガチに緊張 or 照れまくりです。映像を見るだけで手に汗握ります。参加者には相当いかつい野郎もいますが、あ~ちゃんを前にして驚異的に照れまくり、完全に手玉に取られています。絶対にいい奴だな、彼は……!

◇WORLD TOUR 1st 最終日

11月25日、シンガポール公演の当日。会場前には、東南アジアオセアニア諸国から来たファンが集結。

インドネシアのファン「僕らがPerfumeを好きなのは、情熱的で忍耐もあって、みんな魅力的だからです」

フィリピンのファン「Perfumeのファンクラブがフィリピンにもあります。いつかフィリピンにも来て下さい」

マレーシアのファン「ずっと輝き続けて下さい!(Please shine on, Perfume!)」

またオーストラリアのファンも来ています(映画「WE ARE Perfume」にも!)。

 

そのころ、3人はリハーサルの真っ最中。しかしまだ、ラストの曲を決め切れていません。アジアツアーを締め括るのにふさわしいのは「Puppy love」か「MY COLOR」か……

 

あ~ちゃんは、曲の意味合いも含めて「MY COLOR」をラストにしたいようです(実際、スマートフォンYouTubeを見たりして、Perfumeを知った人も多いはず)。しかしサビの振りがちょっと多いことを心配していて、それは上述のミート&グリートで、ほとんど日本語が通じなかったことが原因です。

 

「今回のツアーでいちばん日本語が通じんくて、厳しい。どうじゃろう………………いや、でもね、信じていいと思う。ファンの人を信じていこう

 

 

f:id:t_kito:20151108020922j:plain

そして迎えた開演時刻。ステージ衣装に着替えた3人が「がんばるぞ、オー!」の気合入れを行います。ちなみに気合入れからの長い沈黙は、映画でおそらく初めて見せていますね(テレビやDVDでは途中カットされています)

 

シンガポール公演はウメさん(映画でも……?)の見事な通訳も挟みつつ、順調に進みます。ライヴのダイジェストを経てアンコールへ。あ~ちゃんのMCが入ります。

「海外進出に踏み切るには勇気が必要だったけど、Perfumeはいま行くしかないよ!と背中を押してくれる人が、深く愛してくれる人が、近くにいてくれました

これはきっと、いや間違いなく、徳間ジャパンのスタッフのことを指しているのでしょう(この件は以前ライヴのMCでも言及していました)。

 

「本当に、ここに立つまでにいろいろあったから……凄く、凄く嬉しいです」

 

海外に行くという夢を叶えるために、Perfumeは長く所属した徳間ジャパンと、そのスタッフの元を離れました。〈新しい場所で、うまくやっていけるかな〉という不安も(※ユニバーサルと海外進出という二つの意味で)あったはずですし、だからこそ、初の海外ツアーに手ごたえを感じられたことが、何よりも彼女たちにとって嬉しかったはずです。

 

そしてその勇気と決断が、3度のワールドツアーと映画「WE ARE Perfumeにまで繋がっているのです。

 

そして、迷いに迷ったアンコール曲「MY COLOR」へ。まあ普通に超盛り上がってましたけどね!!!

f:id:t_kito:20151108024041j:plain

f:id:t_kito:20151108024107j:plain

※「WORLD TOUR 1st」のDVDを見ていたら、かしゆかに「目を見て!」と言われた14歳のメガネ男子もしっかり映っていました

 

番組の最後を飾るナレーションは以下の通り。

「広島で誕生したPerfume。より大きな舞台で活躍することをめざした3人の想いが、いつの間にか世界へと広がっていました。彼女たちはその陰に、3人の成功を願う、応援してくれる多くの人々の存在があることを、胸に刻んでいます。

そんな想いを胸にスタートした、今回のアジアツアー。Perfumeの3人はそこで、彼女たちを愛し、国や言葉の違いを越えて繋がり合う多くのファンと出会いました。Perfumeにとって、世界という夢の舞台は、想像を越えて、さらに大きく広がり続けています」。

 

この番組はPerfume海外進出の最初期の記録であり、構造やテーマにおいて、映画「WE ARE Perfume」のプロトタイプ、前日譚としても位置付けられます。海外進出を、ファンの目線を通して描くことで、Perfumeをひとつの〈現象〉として捉えている語り口も映画と重なります。

 

「ドーム5万人ライブへの挑戦」とはまったく異なる切り口で、Perfumeの凄さを描いてみせた、これまた工夫と発想の詰まった名作ドキュメンタリーであり、映画公開を機に、改めて広く見られてほしい作品です。

 

残るはPerfume×Technology」、そしてPerfume LIVE at NHKです。映画の公開中に終わるのか……?

第64回 NHKのPerfumeドキュメンタリーが描いてきたもの その1

2015年10月31日、Perfume初のドキュメンタリー映画「WE ARE Perfume –WORLD TOUR 3rd DOCUMENT」がいよいよ公開されました!

f:id:t_kito:20151030013514j:plain

この作品を監督(撮影と編集も!)なさったのが、NHKで数々のPerfumeドキュメンタリー作品を手掛けた佐渡岳利さんということで、今回はNHKドキュメンタリーは、Perfumeの何を描いてきたのか?〉を振り返ってみましょう。その連続性から、見えてくるものがあるはずです。

 

Perfume 20歳の挑戦 ―Dream Fighter―(放送:2009年1月17日)

2007年12月31日のZepp Tokyoカウントダウンライヴに始まり、初の紅白歌合戦で披露した「ポリリズム」まで、2008年のPerfumeをカメラで追い続けた、Perfume初のNHKドキュメンタリー(もっとも、これ以前にトークショーの傑作「トップランナー」なんかもあったりします)

最初に結論を書くと、Perfumeの人柄とストーリー性にフォーカスした内容です。これは、まだPerfumeをよく知らない人が圧倒的に多い時期に、もっとも有効な演出とは何だろう?という判断に基づいているのでしょう。

 

いきなり序盤に、(時系列を飛ばして)紅白歌合戦のステージを終えた3人のコメントが入ります。NHKならではの映像素材でカマしてきますね

そしてこの番組では、広島でのロケ撮影が大きなキーポイントです。広島のご当地イベント「SOUND MARINA 2008」初出演の模様や、Perfumeにとっての広島とは〉を語ったり、3人の思い出の場所(あ~ちゃん:安神社 かしゆか牛田小学校 のっち:スタジオ橘高なつ、3人:アクターズスクール広島)を訪ねたりします。

 

広島時代の3人がアクターズスクールに通っていたのは、毎日の放課後だけでなく、週末は朝9時30分から23時までと、誰よりも練習していたこと、その頃からなるべく人とは違うものをやろうとしていたことが語られます(その後の活動にも繋がっていく、重要な話です)。

f:id:t_kito:20151031082329j:plain

プライズで、現役のスクール生40人が集まって「ポリリズム」を踊ってくれるシーンもあり、まだ何もしてない段階からすでに泣いているあ~ちゃんも見どころです(後で「アクターズに顔向けできない時期もあったから」と語っていて、まあそういう負い目があったからなのでしょうね)。

 

広島のシーンが終わると、メンバー3人のインタビューと、武道館に向けて準備を進める3人やスタッフの皆さんの様子が映し出されます。この時点でMIKIKO先生もフィーチャー「視覚で歌詞や歌の世界観を広げていくのにこだわっている」と、振付の核心を語っておられます。

 

武道館の直前リハであ~ちゃんがダウンし、それを気遣うのっちとかしゆかや、練習のし過ぎであ~ちゃんの足裏の皮膚が剥がれていたりというショックシーン(?)もあります。

「じゃあパーフェクト(スター・パーフェクトスタイル)は〈9〉にしよう」と、曲ごとにステージ上のバミリ(目印)で立ち位置を調整する姿もあり、これは「LIVE 3:5:6:9」のすごろくコーナーでも見られたものですね。

 

番組の最後は、日本武道館でのアンコール曲Dream Fighter。この曲の前のMCで、あ~ちゃんは「スタッフの方に〈今年は武道館をめざそう!〉と言っていただいて、いままで人に希望を持たれたことがなかったので、凄く嬉しくて」と語っていますが、この言葉、映画「WE ARE Perfume」の終盤であ~ちゃんが語るあの言葉とはまったく……。

f:id:t_kito:20151030024053j:plain

ここでの「Dream Fighter」は、番組全体のエンディングテーマとして、そして〈2008年のPerfumeの活動〉を象徴する曲として流れます。それをバックに、3人がPerfumeのこれから〉を語り、番組は終わります。

 

かしゆか「ずっと3人で音楽をやっていきたいです」

あ~ちゃん「10年後、20年後……30歳でもダンスとかしてたら、カッコいいですね」

のっち「皆さんに飽きられないことをやっていって、ずっと3人で笑ってられればいいなと思います」

 

この言葉、2015年に改めて聞くと、また違った意味合いを持ってきますね。

 

f:id:t_kito:20151103134600j:plain

「20歳の挑戦」は、〈2008年のPerfumeの記録〉として申し分ありません。Perfumeの魅力がわかりやすく伝わる、3人の人柄とストーリー性を前面に出した点が特徴です。

まだPerfume現在のようには知られていなかった2009年らしい時代性の強いドキュメンタリーとも言えます。

蛇足ですが番組中〈「ポリリズム」で注目を集め、アイドルからアーティストに変貌を遂げた〉というナレーションがありましたが……いまもアイドルだと思いますよ、それも最高の!!

 

MJ presents 密着!Perfume ドーム5万人ライブへの挑戦(放送日:2010年12月31日)

これも結論から書きますが、MIKIKO先生とPerfumeの関係性を軸に、Perfumeチームとしての5万人ライブへの挑戦を記録したドキュメンタリー作品です。そして、ここから佐渡さんが〈制作統括〉として携わっています。

f:id:t_kito:20151101105755j:plain

番組開始1分、東京ドームで3人のステージを感慨深そうに見ているMIKIKO先生が超アップで登場! それからシーンは一気に時間を遡り、小規模なスタジオでのリハーサル風景に。そこで以下のナレーションが入ります。

 

Perfumeの夢のライヴは、MIKIKO先生と共に作られたこと

Perfumeが小学生のときに先生と出会い、先生がずっと振付と演出を担当している

・あ~ちゃんは東京ドームに向けて、不安のあった足の親指の爪を手術したばかり(!)で踊れなかったが、その間の練習では先生があ~ちゃんの代役として(!)、かしゆか、のっちと踊っていた

・「Perfumeの掟」のナレーションで使われる、3人が考えてきた課題〈それぞれにとってのPerfumeとは?〉を聞いた先生、嬉しそうに「いい子に育った!」、かしゆか「お母さんみたい!」

 

ちなみにこの課題への回答は、

あ~ちゃん:黒髪 美白 前向き 夢追い人 アイドル

のっち:信じること 信じ合うこと 信じた道を進むこと

かしゆか:どんな状況もプラスに変える 楽しむ気持ち 妥協しない心

でした。映画「WE ARE Perfume」でも、〈それぞれにとってPerfumeとは何か?〉が語られますが、上記の回答とはかなり異なっていますし、2010年にはまだ〈3人のこと〉だったPerfumeが、「WE ARE Perfume」ではかなり変化しているようにも捉えられます。でも、それこそが時間(の経過)というものかもしれませんね。

 

それはそうと、この番組の序盤はPerfumeの、というよりMIKIKO先生のドキュメンタリーと言ってもいい編集がなされています。歌って踊るPerfumeを期待した人は面食らったことでしょう。MIKIKO先生が練習スタジオで細かい調整やナレーション収録をして、関さんと映像の打ち合わせをして、幕張メッセでのリハーサルで細かい調整をして、ドームのリハーサルでも細かい調整をして……カメラは延々と調整を重ねるMIKIKO先生を映します。

 

絵面としては、同じNHKでも「プロフェッショナル 仕事の流儀」みたいになってますが(もっともあの番組には真鍋さんも出演されたし、MIKIKO先生もいつ出られてもおかしくない)、はたして長い下積みを経て、苦労を重ねて、いよいよ夢の舞台である東京ドームに立つ!みたいなPerfume苦労人的ストーリーを押し出した作品にもできたはずだし、ドームに向けて努力を重ねる3人の人柄にフォーカスした、いわゆる〈感動的な〉作品にもできたはずです。

 

 

でも、そうはしなかった。

 

タイトル「Perfume ドーム5万人ライブへの挑戦」の〈挑戦〉とは何か。MIKIKO先生がスタジオで語っています。

「大変ですね……今までのものを変えずにやりたい、というのが凄くあります。ドームだからって手を替え品を替えではなく、ドームになっても、今までのスタイルでできるんだよ、と見せられるかどうか」

 (恥ずかしながら、当時この東京ドームのライヴを見て「いつもどおりのライヴで、確かに集大成っぽさはあったけど、別に新しい挑戦はなかったな~」とかほざいていた私ですが、いつもどおりであることが最大の挑戦だったと、この番組で気付かされました)

 

幕張メッセでの事前リハーサル以降は、舞台監督の内山さんが大活躍!! 番組内では何一つ紹介されない内山監督ですが、常にメンバーのいちばん近くで寄り添い、MIKIKO先生からの指摘やメンバーの要望にビシビシ応えていく姿に、この人は只者じゃない感がありありです。番組には内山監督のコメントも入れてほしかった……

 

リハーサル中、曲間のマイク受け渡しについて、メンバーと内山監督が非常に細かい確認をしています。これも「LIVE 3:5:6:9」のすごろくコーナーで見られたものですね。

 

そして本番の前日である11月2日、東京ドームでのリハーサルが始まります。あまりにも巨大な空間に「自分がライヴするところだとは思えん」「信じられない、どうしよう」「夢を見ているみたい」と、メンバーは浮足立っています(それでもあ~ちゃんだけは「身が引き締まる思い」と地に足が着いており、さすがです)。

f:id:t_kito:20151101110701j:plain

Perfumeの掟」では短時間にメンバーの位置が大きく入れ替わるため、3人は巨大な花道の内部を、猛烈な勢いの台車に乗って移動します。新しい演出や、衣装の早替えもあったりします。テレビ的には美味しい絵だと思うのですが、それでもカメラは、舞台裏のスタッフワークのプロフェッショナルさを中心に見せていきます。ここでのメンバー3人は主役というより、あくまでも〈チームのうち、ステージ上に立つという役割〉に徹しているかのようです。いや、本当は実態としてもそうなのかもしれません……。

 

なんでもきっとできるはず

ついに迎えた2010年11月3日。初の東京ドームライヴ当日です。ここでカメラは、場内のお客さんに〈Perfumeの魅力は?〉と尋ねていきます。その答えは、

・ダンスが揃っている、曲が可愛い、トークがおもしろい

・人柄の良さ

・10年間続けて同じメンバーでやっていること、つらかった時代を乗り越えて今を勝ち取ったところ(※つまりストーリー性)

このうち〈人柄とストーリー性〉は、この「ドーム5万人ライブへの挑戦」ではほとんど言及されていません(なぜなら2009年にもうやってるから)。そこを観客のコメントでフォローしているのですね。

まあ、2015年になってもPerfumeの人柄とストーリー性〉だけを絶賛する、言ってしまえば安直なメディアがすごく多いのですが、さすがにNHKチームは一線を画しています。この批評性や工夫があったからこそ、映画「WE ARE Perfume」にまで繋がったのでしょう。

 

そして開演の直前、舞台裏でスタンバイしている3人の耳に、5万人の大観衆が打ち鳴らす手拍子が怒涛のように響きます。このときのあ~ちゃんの、ぼう然としたような表情(の美しさ)ときたら! これは演出や計算では絶対に撮ることができない、ドキュメンタリーならではの絵です。誰も予期せぬもの、偶然生まれたものが観られてしまう、ドキュメンタリーの醍醐味です。

f:id:t_kito:20151030234831j:plain

万感の想いをこめたあ~ちゃんの話から、「がんばるぞ!おー!」の気合入れをして、ステージに向かう3人。いよいよ東京ドームライヴがスタートします! なお、40分ちょっとの番組ですが、この時点で早くも30分が経過しています。

 

オープニングの荘厳な「GISHIKI」から、センターステージの三角錐の幕が吹っ飛んで「シークレットシークレット」が始まる、いきなりのクライマックス!!

f:id:t_kito:20151101113340j:plain

ですが、カメラはその吹っ飛んだ後、機構に回収されていく幕だけを追っています。これは幕張メッセのリハで幕の回収がうまく行かず、幕が破れてしまったというシーンと対になっていますが、この間メンバーは一切映っていません!!! この瞬間に会場にいた5万人以上の中で、幕の行方を最後まで見ていたのは、スタッフの皆さんと、このカメラだけでしょう。その意味では、非常に貴重なショットとも言えます。

 

その後も「GAME」での花道CAR(メンバーが乗って花道を移動する台みたいなの)やPerfumeの掟」など、メンバーとMIKIKO先生と内山監督たちが、リハで改善に改善を重ねていた楽曲が次々と披露されます。それはライヴを見ているだけでは決してわからない、舞台裏での工夫やアイデア、試行錯誤の積み重ねが、〈ライヴという作品〉として結実していく様子そのもの。このドキュメンタリーで描かれているのは、一言で言ってしまえば〈ものづくりの難しさと、それに挑戦することの素晴らしさ〉なのです。

そしてこのテーマは、映画「WE ARE Perfume」にも通底しています。

 

ライヴが終わり、MIKIKO先生がPerfumeの楽屋に向かいます。そのエレベーターの中で、MIKIKO先生が「(いまごろ3人は)笑ってるかな? 今日は笑ってる気がする」。同乗していたマネージャーの山本さんも「うん、(ライヴの)最後笑顔でしたね」。先生「とてもいい笑顔だった」。

 

 

しかし楽屋に入った先生の顔を見た3人、いきなり泣き出します! 笑ってはいなかった!!

f:id:t_kito:20101231100947j:plain

3人は涙をこぼしながら、「先生のおかげじゃ、ほんまにありがとう」と感謝を述べ、MIKIKO先生は「3人だけで見せ切ったね、頼もしい。こんなの見たことないね」と3人をねぎらいます。最後はあ~ちゃんがとびっきりの笑顔で、拍手しながら「素晴らしい!! 素晴らしい!! ねー!!」と、かしゆかとのっちと顔を見合わせながら、先生を褒めたたえるシーンで番組は終わります。

 

ここにはMIKIKO先生とPerfume師弟愛があり、絶対的な信頼と(※「Puppy love」からいただきました)家族のような愛情があり、何より、揺るぎない敬意と、長きに渡って力を合わせて、ここまで来られたことへの感謝があります。このシーン、実に尊くて美しいです。

 

 

ちなみに番組の終盤では、こうもナレーションされています。

MIKIKO先生と共に、10年の歳月をかけて作り上げてきた究極のライヴ・パフォーマンス。3人だけで見せたい、そしてお客さんのより近くへ。Perfumeの3人がめざした夢のステージは、表からは姿の見えない多くのステージスタッフ、そして彼女たちを愛してやまない5万人の観客と共に成し遂げられたのです〉

 

この番組で、〈表からは姿の見えない多くのステージスタッフ〉の姿をしっかり捉えてみせたNHKチーム。となると、次にNHKチームが描くのは……?

 

MJ presents Perfumeドキュメント 今世界へ(放送:2012年12月31日)

次にNHKチームが追いかけたのは、〈WORLD TOUR 1st〉でまさに世界へ飛び立とうとするPerfume……なのですが、ここでもかなり思い切った工夫がなされています。

 

冒頭は2010年の東京ドーム、LAでの「カーズ2」プレミア上映でのブラックカーペット、ソウルでの「ABUソングフェスティバル」な(次回につづきます)