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Perfumeに特化した音楽ブログ/音楽に特化したPerfumeブログ

第64回 NHKのPerfumeドキュメンタリーが描いてきたもの その1

2015年10月31日、Perfume初のドキュメンタリー映画「WE ARE Perfume –WORLD TOUR 3rd DOCUMENT」がいよいよ公開されました!

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この作品を監督(撮影と編集も!)なさったのが、NHKで数々のPerfumeドキュメンタリー作品を手掛けた佐渡岳利さんということで、今回はNHKドキュメンタリーは、Perfumeの何を描いてきたのか?〉を振り返ってみましょう。その連続性から、見えてくるものがあるはずです。

 

Perfume 20歳の挑戦 ―Dream Fighter―(放送:2009年1月17日)

2007年12月31日のZepp Tokyoカウントダウンライヴに始まり、初の紅白歌合戦で披露した「ポリリズム」まで、2008年のPerfumeをカメラで追い続けた、Perfume初のNHKドキュメンタリー(もっとも、これ以前にトークショーの傑作「トップランナー」なんかもあったりします)

最初に結論を書くと、Perfumeの人柄とストーリー性にフォーカスした内容です。これは、まだPerfumeをよく知らない人が圧倒的に多い時期に、もっとも有効な演出とは何だろう?という判断に基づいているのでしょう。

 

いきなり序盤に、(時系列を飛ばして)紅白歌合戦のステージを終えた3人のコメントが入ります。NHKならではの映像素材でカマしてきますね

そしてこの番組では、広島でのロケ撮影が大きなキーポイントです。広島のご当地イベント「SOUND MARINA 2008」初出演の模様や、Perfumeにとっての広島とは〉を語ったり、3人の思い出の場所(あ~ちゃん:安神社 かしゆか牛田小学校 のっち:スタジオ橘高なつ、3人:アクターズスクール広島)を訪ねたりします。

 

広島時代の3人がアクターズスクールに通っていたのは、毎日の放課後だけでなく、週末は朝9時30分から23時までと、誰よりも練習していたこと、その頃からなるべく人とは違うものをやろうとしていたことが語られます(その後の活動にも繋がっていく、重要な話です)。

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プライズで、現役のスクール生40人が集まって「ポリリズム」を踊ってくれるシーンもあり、まだ何もしてない段階からすでに泣いているあ~ちゃんも見どころです(後で「アクターズに顔向けできない時期もあったから」と語っていて、まあそういう負い目があったからなのでしょうね)。

 

広島のシーンが終わると、メンバー3人のインタビューと、武道館に向けて準備を進める3人やスタッフの皆さんの様子が映し出されます。この時点でMIKIKO先生もフィーチャー「視覚で歌詞や歌の世界観を広げていくのにこだわっている」と、振付の核心を語っておられます。

 

武道館の直前リハであ~ちゃんがダウンし、それを気遣うのっちとかしゆかや、練習のし過ぎであ~ちゃんの足裏の皮膚が剥がれていたりというショックシーン(?)もあります。

「じゃあパーフェクト(スター・パーフェクトスタイル)は〈9〉にしよう」と、曲ごとにステージ上のバミリ(目印)で立ち位置を調整する姿もあり、これは「LIVE 3:5:6:9」のすごろくコーナーでも見られたものですね。

 

番組の最後は、日本武道館でのアンコール曲Dream Fighter。この曲の前のMCで、あ~ちゃんは「スタッフの方に〈今年は武道館をめざそう!〉と言っていただいて、いままで人に希望を持たれたことがなかったので、凄く嬉しくて」と語っていますが、この言葉、映画「WE ARE Perfume」の終盤であ~ちゃんが語るあの言葉とはまったく……。

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ここでの「Dream Fighter」は、番組全体のエンディングテーマとして、そして〈2008年のPerfumeの活動〉を象徴する曲として流れます。それをバックに、3人がPerfumeのこれから〉を語り、番組は終わります。

 

かしゆか「ずっと3人で音楽をやっていきたいです」

あ~ちゃん「10年後、20年後……30歳でもダンスとかしてたら、カッコいいですね」

のっち「皆さんに飽きられないことをやっていって、ずっと3人で笑ってられればいいなと思います」

 

この言葉、2015年に改めて聞くと、また違った意味合いを持ってきますね。

 

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「20歳の挑戦」は、〈2008年のPerfumeの記録〉として申し分ありません。Perfumeの魅力がわかりやすく伝わる、3人の人柄とストーリー性を前面に出した点が特徴です。

まだPerfume現在のようには知られていなかった2009年らしい時代性の強いドキュメンタリーとも言えます。

蛇足ですが番組中〈「ポリリズム」で注目を集め、アイドルからアーティストに変貌を遂げた〉というナレーションがありましたが……いまもアイドルだと思いますよ、それも最高の!!

 

MJ presents 密着!Perfume ドーム5万人ライブへの挑戦(放送日:2010年12月31日)

これも結論から書きますが、MIKIKO先生とPerfumeの関係性を軸に、Perfumeチームとしての5万人ライブへの挑戦を記録したドキュメンタリー作品です。そして、ここから佐渡さんが〈制作統括〉として携わっています。

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番組開始1分、東京ドームで3人のステージを感慨深そうに見ているMIKIKO先生が超アップで登場! それからシーンは一気に時間を遡り、小規模なスタジオでのリハーサル風景に。そこで以下のナレーションが入ります。

 

Perfumeの夢のライヴは、MIKIKO先生と共に作られたこと

Perfumeが小学生のときに先生と出会い、先生がずっと振付と演出を担当している

・あ~ちゃんは東京ドームに向けて、不安のあった足の親指の爪を手術したばかり(!)で踊れなかったが、その間の練習では先生があ~ちゃんの代役として(!)、かしゆか、のっちと踊っていた

・「Perfumeの掟」のナレーションで使われる、3人が考えてきた課題〈それぞれにとってのPerfumeとは?〉を聞いた先生、嬉しそうに「いい子に育った!」、かしゆか「お母さんみたい!」

 

ちなみにこの課題への回答は、

あ~ちゃん:黒髪 美白 前向き 夢追い人 アイドル

のっち:信じること 信じ合うこと 信じた道を進むこと

かしゆか:どんな状況もプラスに変える 楽しむ気持ち 妥協しない心

でした。映画「WE ARE Perfume」でも、〈それぞれにとってPerfumeとは何か?〉が語られますが、上記の回答とはかなり異なっていますし、2010年にはまだ〈3人のこと〉だったPerfumeが、「WE ARE Perfume」ではかなり変化しているようにも捉えられます。でも、それこそが時間(の経過)というものかもしれませんね。

 

それはそうと、この番組の序盤はPerfumeの、というよりMIKIKO先生のドキュメンタリーと言ってもいい編集がなされています。歌って踊るPerfumeを期待した人は面食らったことでしょう。MIKIKO先生が練習スタジオで細かい調整やナレーション収録をして、関さんと映像の打ち合わせをして、幕張メッセでのリハーサルで細かい調整をして、ドームのリハーサルでも細かい調整をして……カメラは延々と調整を重ねるMIKIKO先生を映します。

 

絵面としては、同じNHKでも「プロフェッショナル 仕事の流儀」みたいになってますが(もっともあの番組には真鍋さんも出演されたし、MIKIKO先生もいつ出られてもおかしくない)、はたして長い下積みを経て、苦労を重ねて、いよいよ夢の舞台である東京ドームに立つ!みたいなPerfume苦労人的ストーリーを押し出した作品にもできたはずだし、ドームに向けて努力を重ねる3人の人柄にフォーカスした、いわゆる〈感動的な〉作品にもできたはずです。

 

 

でも、そうはしなかった。

 

タイトル「Perfume ドーム5万人ライブへの挑戦」の〈挑戦〉とは何か。MIKIKO先生がスタジオで語っています。

「大変ですね……今までのものを変えずにやりたい、というのが凄くあります。ドームだからって手を替え品を替えではなく、ドームになっても、今までのスタイルでできるんだよ、と見せられるかどうか」

 (恥ずかしながら、当時この東京ドームのライヴを見て「いつもどおりのライヴで、確かに集大成っぽさはあったけど、別に新しい挑戦はなかったな~」とかほざいていた私ですが、いつもどおりであることが最大の挑戦だったと、この番組で気付かされました)

 

幕張メッセでの事前リハーサル以降は、舞台監督の内山さんが大活躍!! 番組内では何一つ紹介されない内山監督ですが、常にメンバーのいちばん近くで寄り添い、MIKIKO先生からの指摘やメンバーの要望にビシビシ応えていく姿に、この人は只者じゃない感がありありです。番組には内山監督のコメントも入れてほしかった……

 

リハーサル中、曲間のマイク受け渡しについて、メンバーと内山監督が非常に細かい確認をしています。これも「LIVE 3:5:6:9」のすごろくコーナーで見られたものですね。

 

そして本番の前日である11月2日、東京ドームでのリハーサルが始まります。あまりにも巨大な空間に「自分がライヴするところだとは思えん」「信じられない、どうしよう」「夢を見ているみたい」と、メンバーは浮足立っています(それでもあ~ちゃんだけは「身が引き締まる思い」と地に足が着いており、さすがです)。

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Perfumeの掟」では短時間にメンバーの位置が大きく入れ替わるため、3人は巨大な花道の内部を、猛烈な勢いの台車に乗って移動します。新しい演出や、衣装の早替えもあったりします。テレビ的には美味しい絵だと思うのですが、それでもカメラは、舞台裏のスタッフワークのプロフェッショナルさを中心に見せていきます。ここでのメンバー3人は主役というより、あくまでも〈チームのうち、ステージ上に立つという役割〉に徹しているかのようです。いや、本当は実態としてもそうなのかもしれません……。

 

なんでもきっとできるはず

ついに迎えた2010年11月3日。初の東京ドームライヴ当日です。ここでカメラは、場内のお客さんに〈Perfumeの魅力は?〉と尋ねていきます。その答えは、

・ダンスが揃っている、曲が可愛い、トークがおもしろい

・人柄の良さ

・10年間続けて同じメンバーでやっていること、つらかった時代を乗り越えて今を勝ち取ったところ(※つまりストーリー性)

このうち〈人柄とストーリー性〉は、この「ドーム5万人ライブへの挑戦」ではほとんど言及されていません(なぜなら2009年にもうやってるから)。そこを観客のコメントでフォローしているのですね。

まあ、2015年になってもPerfumeの人柄とストーリー性〉だけを絶賛する、言ってしまえば安直なメディアがすごく多いのですが、さすがにNHKチームは一線を画しています。この批評性や工夫があったからこそ、映画「WE ARE Perfume」にまで繋がったのでしょう。

 

そして開演の直前、舞台裏でスタンバイしている3人の耳に、5万人の大観衆が打ち鳴らす手拍子が怒涛のように響きます。このときのあ~ちゃんの、ぼう然としたような表情(の美しさ)ときたら! これは演出や計算では絶対に撮ることができない、ドキュメンタリーならではの絵です。誰も予期せぬもの、偶然生まれたものが観られてしまう、ドキュメンタリーの醍醐味です。

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万感の想いをこめたあ~ちゃんの話から、「がんばるぞ!おー!」の気合入れをして、ステージに向かう3人。いよいよ東京ドームライヴがスタートします! なお、40分ちょっとの番組ですが、この時点で早くも30分が経過しています。

 

オープニングの荘厳な「GISHIKI」から、センターステージの三角錐の幕が吹っ飛んで「シークレットシークレット」が始まる、いきなりのクライマックス!!

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ですが、カメラはその吹っ飛んだ後、機構に回収されていく幕だけを追っています。これは幕張メッセのリハで幕の回収がうまく行かず、幕が破れてしまったというシーンと対になっていますが、この間メンバーは一切映っていません!!! この瞬間に会場にいた5万人以上の中で、幕の行方を最後まで見ていたのは、スタッフの皆さんと、このカメラだけでしょう。その意味では、非常に貴重なショットとも言えます。

 

その後も「GAME」での花道CAR(メンバーが乗って花道を移動する台みたいなの)やPerfumeの掟」など、メンバーとMIKIKO先生と内山監督たちが、リハで改善に改善を重ねていた楽曲が次々と披露されます。それはライヴを見ているだけでは決してわからない、舞台裏での工夫やアイデア、試行錯誤の積み重ねが、〈ライヴという作品〉として結実していく様子そのもの。このドキュメンタリーで描かれているのは、一言で言ってしまえば〈ものづくりの難しさと、それに挑戦することの素晴らしさ〉なのです。

そしてこのテーマは、映画「WE ARE Perfume」にも通底しています。

 

ライヴが終わり、MIKIKO先生がPerfumeの楽屋に向かいます。そのエレベーターの中で、MIKIKO先生が「(いまごろ3人は)笑ってるかな? 今日は笑ってる気がする」。同乗していたマネージャーの山本さんも「うん、(ライヴの)最後笑顔でしたね」。先生「とてもいい笑顔だった」。

 

 

しかし楽屋に入った先生の顔を見た3人、いきなり泣き出します! 笑ってはいなかった!!

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3人は涙をこぼしながら、「先生のおかげじゃ、ほんまにありがとう」と感謝を述べ、MIKIKO先生は「3人だけで見せ切ったね、頼もしい。こんなの見たことないね」と3人をねぎらいます。最後はあ~ちゃんがとびっきりの笑顔で、拍手しながら「素晴らしい!! 素晴らしい!! ねー!!」と、かしゆかとのっちと顔を見合わせながら、先生を褒めたたえるシーンで番組は終わります。

 

ここにはMIKIKO先生とPerfume師弟愛があり、絶対的な信頼と(※「Puppy love」からいただきました)家族のような愛情があり、何より、揺るぎない敬意と、長きに渡って力を合わせて、ここまで来られたことへの感謝があります。このシーン、実に尊くて美しいです。

 

 

ちなみに番組の終盤では、こうもナレーションされています。

MIKIKO先生と共に、10年の歳月をかけて作り上げてきた究極のライヴ・パフォーマンス。3人だけで見せたい、そしてお客さんのより近くへ。Perfumeの3人がめざした夢のステージは、表からは姿の見えない多くのステージスタッフ、そして彼女たちを愛してやまない5万人の観客と共に成し遂げられたのです〉

 

この番組で、〈表からは姿の見えない多くのステージスタッフ〉の姿をしっかり捉えてみせたNHKチーム。となると、次にNHKチームが描くのは……?

 

MJ presents Perfumeドキュメント 今世界へ(放送:2012年12月31日)

次にNHKチームが追いかけたのは、〈WORLD TOUR 1st〉でまさに世界へ飛び立とうとするPerfume……なのですが、ここでもかなり思い切った工夫がなされています。

 

冒頭は2010年の東京ドーム、LAでの「カーズ2」プレミア上映でのブラックカーペット、ソウルでの「ABUソングフェスティバル」な(次回につづきます)