第44回 Perfume FES!! 2014 Perfume/ライムスター 最終回
前回の続き(第1回はこちらです)。宇多丸さんの職権乱用こと、Perfumeの〈宇多丸さんを称えるフリースタイル〉が無事に(?)終わりました。
◆そしてまた歌い出す
宇多丸さん「……これで締めるのかよ?って思ってる人もいるだろうけど……実はもうひとつ、プレゼントがあります。すごく一方的なプレゼントなんだけど」
お客さん、大歓声!!!
宇「ていうか今回のPerfume FES!!、みんな凄いコラボやってるじゃん! スカパラがPerfumeカヴァーしたりとか、そんなの良いに決まってるよ!! あとRIP SLYMEもなんかマッシュアップやったんでしょ?」(注:SUさん製の「GALAXY」と「Baby cruising Love」のマッシュアップ)
あ~ちゃん「なんでそんな詳しいんですか!?」
宇「(無言でキーボードを叩くアクション)」
Dさん「検索検索!!」
宇「(無言でキーボードを叩き続ける)」
Perfume3人「やだ~~!」
宇「俺たちはもっと楽に行けると思ったのに、みんながそこまで力入れてくると、ハードル上がるね。でも……これだけは言える、俺たちは、他の誰にもマネできないことをやります! 俺たちにしかできないこと、それは、俺たちがリリックを……オリジナルのリリックを16小節書いて、それをPerfumeのある曲に乗せます」
この展開を(うっすら期待はしていたけど)待ってました!!!!!
宇「この準備のために、俺たちスタジオ入ってレコーディングしたから」
D「ライムスターの新曲は全然できてないのに。俺たちのファンは〈おかしいな?〉と思い始めてる頃」
宇「Perfumeが知らないうちに、この曲の〈RHYMESTER REMIX〉がもう出来てるんだよ!」
D「宇多さんさぁ、なんか今までの空白を一気に取り戻そうとしてない?」
宇「えっ俺がっつきすぎてる?」
宇「ちょっと説明しておこうか。Dの書いたリリックは……これ言うと何の曲かわかっちゃうんだけど、〈メールが来る男〉だね。モテてモテて仕方ないっていう。これDの実話だよね」
D「うん。いまね、俺のiPhoneに来てるメールでまだ読んでないの、4500件くらいある。1日100件とか200件くる。しかも女の子からばっかり。俺にメールが来るはずのない、知らない女の子から」
宇「俺の書いた16小節は、これね、凄いよ! もう絶対俺にしか書けないリリックだからね……いやーでも心配だなぁ、おじさんたちちゃんと覚えてるかなぁ」
D「(宇多さんが喋ってる間、ずっと練習中)」
宇「いま練習するなよ!! じゃあ、聴いてもらいましょう! DeeJaay、JIIIIIIIIIIIIIINNNN!!!」
フェードインするシンセのイントロ。「ナチュラルに恋して」!
◆ナチュラルに恋して Remix Feat. RHYMESTER
前奏・間奏で宇多丸さんDさんの煽りが入ります。うろ覚えですが〈誰もが待ちわびた3 on 3/これぞ極上のブレンド/P・e・r・f・u・m・e & R・H・Y・M・E・S・T・E・R〉みたいなフレーズを繰り返していました。
歌い出しのサビ、そして間奏からのAメロはPerfumeが歌います(フォーメーションは確か、中央にPerfume3人、上手に宇多丸さん、下手にDさん)。
Perfumeがサビを歌い終わると、いよいよDさんのヴァースが始まります!
「ナチュラルに恋して Remix Feat. RHYMESTER」Dさんのリリック
M. O. T. E. M. O. T. E./俺がその人気者です
キミをL. O. V. E. L. O. V. E./にさせるくらいお手のもんDeath
実際鳴り止まない女子からのメール/1日に100件いや200件? しかも
ここじゃ言えないくらい内容はNasty(注:スラング。下品、淫らなど、性的なニュアンス)/ああ……オレを困らす気?
ヒトミ、カナ、リナ、アイカにユウカ/初めましてWussup!ってゆうか
オレのメアドをどうやって知った?/どうもオカシイがまぁどうだって…いっか♥
こんなオレだけどキミこそ全て/ヒトに言わせりゃ他のは全て
機械仕掛けのラブゲーム/全部Spaaaam!!!迷惑メールだそうDeath
無事に16小節を歌い切ったDさん、喜びのダンスを繰り広げる!!
またPerfumeの歌に入り、サビが終わり……そして来ました、
宇多丸さんの16小節!!!
「ナチュラルに恋して Remix Feat. RHYMESTER」宇多丸さんのリリック
出会いは2003年のお台場/並み居る綺羅星のごときライバル
さえもかすむ域にすでに到達/していたその香りは「スウィートドーナッツ」
まるで「引力」強烈なショック/「おいしいレシピ」途切れないストック
これはきっといつか世間に届く/(アイドル)冬の時代に「ビタミンドロップ」
とうに「パーフェクト」だった「スタイル」/だがしばらくは辛い時期も耐える
そして4年後風向き変えた/BIG UP!! 掟さんと木村カエラ
決して譲れない孤高のイズムも/いまじゃ誰もが踊る「ポリリズム」
キリもないしここでまとめれば
Perfume Love Forever!!
Perfumeの曲名をふんだんに採り入れて、Perfumeの軌跡を、16小節で見事に描いています! そして、宇多丸さんの10年分(と、これから先ずっと)の想いを凝縮しつつ、当然しっかり韻も踏んでいて、もう宇多さんどんだけ気合入れてるんだよ!!!! これぞ入魂というか、渾身というか。
(追記:「ウィークエンド・シャッフル」で宇多丸さん曰く〈あれは人生最高の場外満塁ホームラン〉)
そして宇多丸さんも16小節を完走! このときの歓声、忘れられません。
宇多丸さん「どうだーーーーーっ!! これは、これだけは絶対に他の誰にもマネできないだろ!!!!」
ラスト、〈無敵の三本マイク(by Dさん)〉ことPerfume、そして宇多さんDさんの5人で〈ヒップホップ的な腕組みポーズ〉でキメました!
◆ラストヴァース
この「ナチュラルに恋して Remix」をもって、すべての曲が終わりました。
Dさんが唐突に「あー泣いちゃったー」というので、おっ、いよいよ宇多丸さんも感極まって……と思ったら、まぁあ~ちゃんでしたね。
あ「この音源をいただいてから、聴くたびに泣いてしまう。どれだけの時間と想いを込めて、これを作って下さったんだろうって……」
宇「そう、これレコーディングした音源をPerfumeにも送ってたんです。これもね、また何かの機会に発表できれば……(お客さん「おおおおお!!」)だって記録してるから!」
レコーディング音源、「ウィークエンド・シャッフル」で流してほしいです! 写真は、2008年の「ウィークエンド・シャッフル」出演時のPerfume
D「……俺も、ずっとPerfumeを見守ってたよ。だからもう、何も言うな」
宇「『LEVEL3』からじゃねえか!!」
宇多丸さん「まだ喋っていい? あのね、最後にこれを言っておきたいんです。Perfumeが売れることが、俺にとっても救いだった」
しかしここでなぜか(本当に不思議ですが)客席から笑いが起きます。
宇「いやちゃんと聴いて!良い話するから」この宇多丸さん、この日いちばんマジな口調でした。
宇「Perfumeが売れることが、俺にとって救いだったんです。新しくていいことをやっているPerfumeが売れたら、業界捨てたもんじゃないと思える。ライムスターも、新しくておもしろいことをやろうと思ってずっと活動してるから、Perfumeが売れたことで希望が持てた。だから……」
宇多丸さんはPerfumeに深くお辞儀をして、「ありがとう」。
◆R.E.S.P.E.C.T
私が書くまでもないことですが、宇多丸さんはライムスターとして1989年から活動を続け、日本語によるラップ表現を進化・発展させるため、日本にヒップホップを根付かせるために、戦い続けたお方です。〈日本の音楽の歴史に名前が残らなきゃウソ〉というお方です。
その宇多丸さんが、20歳ほども年下のアイドルの女の子たちに、自分たちのファンもいる前で、頭を下げて感謝したんです。このお辞儀に、どれほどの想いが込められているか……!
いつもPerfumeを前にすると、過剰にへりくだったり卑屈になったりしてた宇多丸さん。
Perfumeのリリースがあるたびに、必ずBUBKAの「マブ論」で、その良さを一生懸命に語る宇多丸さん。
でも宇多丸さんがPerfumeに言いたかったこと(そしてようやく、本人たちに直接伝えられたこと)は、すごくシンプルなひと言でした。
あ~ちゃんは涙涙、のっちも手の甲で涙を拭い、泣き顔を見せまいと客席に背を向けます。なお、かしゆかの様子はあまり記憶にありません(ここでもかよ!)
◆「音楽は素晴らしい」
今回のライムスターとPerfumeの共演、ネットでも熱い感想が飛び交っていましたが、そこで目についたのが〈物語〉という単語。
この〈物語〉、いまや音楽ビジネスの記事(※特にマネージメント寄りのもの)を読むと、かなりの割合で書かれています。〈いまは物語がないとユーザーが食いつかない〉〈アーティストの物語にユーザーを参加させ云々〉という論旨で、この理論が間違っているとは思いません。
確かにこの日の公演で、Perfumeと宇多丸さんの〈物語〉はひとつ完結しました。
でも当日会場にいた人たち(Perfumeメンバー含む)の心を打ったのは、決して〈物語〉の一語で片づけられるものではないはず。
Perfumeが「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」を歌ったのも、宇多丸さんが「ナチュラルに恋して Remix」で渾身の16小節を綴ったのも、確かに〈物語〉に沿ってはいます。
でもそこには、それ以上に音楽として、表現として、群を抜いた魅力がありました。〈揺るぎない美学〉を持ち、〈ナニモノにも媚びず己を磨いて〉きた(ベタだなー!)人たちゆえの、音楽的な強度や、卓越したスキル、圧倒的な説得力がありました。
クリエイティヴィティーのあやふやな〈物語〉なんて、ただのマーケティングに過ぎません(注:個人の感想です)。
ライムスターとPerfume、それぞれが築き上げてきたものが、この日、確かに交差しました。
音楽は素晴らしい!
◆追記
Perfumeのラジオ番組「Perfume LOCKS!」での後日談をまとめました。
あ~ちゃん「〈ナチュラルに恋して〉の間奏部分を16小節ずつ、Mummy-Dさんと宇多丸さんが作って下さって。しかもレコーディングまでして下さって、めっちゃ良い音で。歌に沿った内容で、オチがあるのがMummy-Dさん。良いのをカマして下さって、2番が宇多丸さん。私たちとの出会いから始まって、ずっと昔から応援していたよ、僕は見ていたよ、と語っていく歌なんですけど、宇多丸さんの目線からの言葉で、凄く感動したよね」
かしゆか「その時代を知っている人だからこそ出てくる言葉だったね」
あ~ちゃん「ライヴ始まった瞬間、宇多丸さん〈今日の意味をわかってるのかーー!!!〉って。でもわかってるお客さんばっかりで」
あ「しかも中田(ヤスタカ)さんのご実家が石川ということで、ご両親も来て下さって、〈祝 中田〉って書かれた和菓子をいただいて。すごーい繊細な、小指の上の方くらいの小さいやつ。〈和菓子がおいしいので……〉ってたくさん持ってきて下さって。本当に記念日になりましたね」