R.E.P.

Perfumeに特化した音楽ブログ/音楽に特化したPerfumeブログ

第100回 Primavera SoundとPerfume

スペインの都市型フェス、プリマヴェーラ・サウンドの2022年にPerfumeの出演が決定しました。

 

2022年のプリマヴェーラサウンド出演者、とにかく凄いですね……。

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Dua LipaにThe Strokes、Tyler, The Creator、Tame Impala、Disclosureなど、現行シーンのトップの面々を筆頭に、Massive AttackAutechrePavementMogwai、かのスティーヴ・アルビニ率いるShellacなど、いまなお絶大な影響を及ぼすレジェンダリーなアクトも多数名を連ねています。

ビリー・アイリッシュを見るたびに「それこそ17歳でデビューしたLorde、最近何してるんだろう?」と思っていたらそのLordeが復活したり、Sons of KemetにKamaal Williamsなど、活況を呈するUKジャズの面々も。

これは凄い、ヨーロッパのフェスの本気を見る思いです。

しかしこのプリマヴェーラサウンドのラインナップ、実はそれ以上に特筆すべき事項があります。

 

 

フェスの目標として【出演者のジェンダー平等】を掲げていることです。

 

 

私も各地のフェスに参加してきましたが、いずれも女性アーティストの比率は多くても全体の15~20%、下手したら数組という感覚です。

リリー・アレンのこのツイート、あるフェスの出演者のうち、女性のみをピックアップしています。なんと3組しかありません……

https://twitter.com/lilyallen/status/955816079363919876?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E955816079363919876%7Ctwgr%5E%7Ctwcon%5Es1_c10&ref_url=https%3A%2F%2Fwww.bbc.com%2Fnews%2Fentertainment-arts-43196414

https://twitter.com/lilyallen/status/955816079363919876?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E955816079363919876%7Ctwgr%5E%7Ctwcon%5Es1_c10&ref_url=https%3A%2F%2Fwww.bbc.com%2Fnews%2Fentertainment-arts-43196414

 

その目線でプリマヴェーラサウンドのラインナップを見返すと、UK R&Bの新星・Jorja Smith中田ヤスタカともコラボしていたCharli XCX不勉強で存じ上げませんでしたが御年74のスペイン人歌手のMaria del Mar Bonet、グラミー主要部門も獲得したKacey Musgraves、NYが誇るノイズ姐御Kim Gordon、シカゴ・ブルース/ゴスペルの御大Mavis Staples(御年81)、とかく勢いを感じるRina Sawayamaカレン・O嬢がフロントを務めるYeah Yeah Yeahs、いまなお闘争のアイコンであり続けるM.I.A.コペンハーゲンから4AD経由で登場したErika de Casier、そして時代の新星Dua Lipaなどなど……優れた女性アーティストばかり、枚挙に暇がありません。

 

◇Gender Equality

2019年のForbesに、プリマヴェーラサウンドの広報担当であるMarta Pallarès Olivaresさんのインタヴュー記事が出ていました。

Martaさんは以下のようなことを話しています。

 

プリマヴェーラサウンドジェンダーの不平等を「緊急性の高い問題」ととらえている

 

・本当は、ずっと前から取り組むべき問題で、ここ数年のラインナップは改善が見られたが、まだまだ足りない

 

この記事によると、プリマヴェーラサウンドは2001年にスタート。近年は20万人以上を動員し、その55%はスペイン国外の126か国から参加しているそう。当然経済効果も大きく、開催によって1億2000万ユーロの経済効果をもたらしているようです。ヨーロッパを代表する有名フェスのひとつですね。


そのプリマヴェーラサウンドが2019年の5月、ホームページで以下の声明を出しました。

〈Nobody is Normal〉ーーつまり〈普通の人〉なんて本当はどこにもいない。あらゆる人がその人らしくいられるよう、お互いを尊重して共存する世の中をめざす。そのために、プリマヴェーラサウンドまずジェンダーに基づく暴力や差別に対処していく、ということだと解釈しました。

そもそも、2018年にヨーロッパで45もの音楽イベントが、2022年までに出演者の男女比を50:50にすることを発表しています。

 

 この取り組みは言うまでもなく、女性の被る不平等や差別、暴力に対して声を上げる〈Me Too〉運動と連動しており、2022年までに音楽産業における男女比を50対50にすることを宣言したグローバル・ネットワーク団体「Keychange」の活動にも起因するようです。

 

プリマヴェーラサウンドの広報担当であるMarta Pallarès Olivaresさんの記事に話を戻すと、Martaさんは

・音楽フェスのジェンダー多様性の欠如には耐えられないものがある

プリマヴェーラサウンドでは女性出演者が増えているが、優れた女性アーティストはたくさんいるのだから、「いま最高のアーティストを呼ぼう」と思ったら、女性が増えるのは自然

・ここまで来るのに長い時間がかかったが、フェスの観客の半分が女性なのだから、出演者もそうするべきでしょう

・音楽業界は前進してきているが、まだやるべきことがたくさんあり、プリマヴェーラサウンド何かを変えようとしているフェス

とおっしゃっています。

 

◇FIGHT FOR YOUR RIGHT

プリマヴェーラサウンドの取り組みは、フェスを通してジェンダーの多様性を肯定し、差別や暴力を防ぐことで、以下の挑戦をしているようです。

 

・参加者や出演者、スタッフにとって、フェスを自由で開かれた心地よい場にする

音楽産業に根強い女性への偏見を是正する

・よりよい社会環境を作るためのメッセージを発する

 

これは社会課題への対策であり、人々の意識を変えることで既存の価値観のアップデートや、新しい価値観を創ることでもあります。しかし、いやそれだからこそ、出演者の選出には困難も伴うはずです。

 

こういった取り組みは逆風(後述します、あまり気が進みませんが笑)が非常に強いです。フェスのラインナップはその逆風をものともしない、フェスの理念やメッセージを体現する、素晴らしいアーティストを多数ブッキングする必要があります。

その一方、いまはフェスの世界的な急増によってフェス間のブッキング競争も熾烈になり、出演者のギャラが高騰したり、思うようなブッキングができなかったり、という話もよく耳にします。

万一、「とにかく女性出演者を増やさなきゃ!」とばかりに数合わせに走って、その場にふさわしくない出演者が増えてしまった場合……それは理念に賛同した出演者・来場者・スタッフや、結果的に出演枠が減ったともいえる男性アーティストに対する裏切りであり、最悪のケースです。

 

 

そして2022年のプリマヴェーラサウンドのラインナップは、私の把握できる限りですが、超強力で多彩で華やかです。豪華絢爛でありながら同時に尖ってもいて、フェスの信念をビシビシ感じさせる顔ぶれが実に魅力的です。参加できる方々が心底羨ましいです!!

 

 

言ってみれば、プリマヴェーラサウンド社会の旧弊(古いしきたりや、それを頑固に守る様)と戦っています。上述の〈Nobody is Normal〉の声明から引用しましょう。

 

"We already told you last year: Fight for your right to party, party for your right to fight."

(去年も言いましたね、パーティーをするために戦い、戦うためにパーティーをするのです

 

 

そしてこのパーティーにふさわしいアーティストとして……

日本からはPerfumeが選ばれました。

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2019年のコーチェラは、Perfumeの海外での知名度を考えれば大抜擢でした。そのコーチェラ出演が今回に繋がったのかもしれませんが、プリマヴェーラサウンドも超一流が揃ったラインナップ、しかも上述の背景と理念を持つフェスに、はるばる極東から招聘されるとは……これまで彼女たちが挑戦してきたこと、成し遂げてきたことが、この機会を作ったのでしょう。

 

これは本当に嬉しく、喜ばしいことです。女性ファンの方々は、きっと誇らしく思われるでしょう。私はまさかMassive AttackAutechreShellac、Dua Lipa、Perfumeというぶっ飛んだラインナップのフェスが存在することも想像しえなかったですが……笑

 

 

2019年のコーチェラ出演のインパクトは確かに大きかったですが、出演後にPerfumeはすぐ帰国していましたし、その後のコロナ禍もあり、Perfumeの海外での活動には随分とブランクが空いています。

2022年のプリマヴェーラサウンドでのステージがどんなものになるか。そしてヨーロッパでこれからPerfumeがどんな存在になるか。楽しみは尽きませんね。

 

 

◇AGAINST

さーて、それではプリマヴェーラサウンドのようなジェンダー平等に付き物の〈逆風〉についても書いていきましょうか。ここからはあまり楽しくない話が中心ですが、ぜひお読み下さい!笑

 

まず日本の音楽産業を顧みると、コロナ以前であっても、残念ながらジェンダー平等の前に、社会課題の解決に向けた機運はそれほど高まっていません。Coldplayは大量のCO2を排出する大規模なツアーを控えたり、The 1975はジェンダー不平等のイベントに参加しないことを表明しました。Live NationやAEGといった欧米の大手企業も、SDGs(持続可能な開発目標)をテーマにしたプロジェクトを立ち上げています。

これは、欧米社会は意識が高いから……というだけでなく、Z世代と言われるような90年代後半~2010年頃に生まれた消費者は、持続可能性への配慮に欠けたサービスや商品を選ばない傾向があるとされます。産業の持続可能性はマーケティングの重要な要素でもあるわけですが、日本はまだまだこれからです。

 

オリコンが発行する業務用「コンフィデンス」で、〈日本におけるコンサートの来場者のうち、7~8割が女性〉という調査結果を見たことがあります。一方、コンサートの作り手側はといいますと、音響や照明などの技術系の会社はまだ男性が多いようですが、徐々に女性が増えていると聞きますし、レコード会社やプロダクション、プロモーターなど制作系の会社は、社員の過半数が女性というところも多いでしょう。女性ユーザーが多い産業ですから、これはごく自然な成り行きです。

 

その反面、音楽業界内で、数社が集まって何らかの会議を行うような場合、その参加者の大半が男性であると感じます。各社の幹部が集まる、重要な会議になればなるほど、参加者は中高年男性の比率が高まります。もちろんそれ自体がダメなわけではなく、業界のベテランが持つ豊富な経験や判断力、人脈は確実に有効ですし、それがあっていまの音楽産業が成り立っている部分も多分にあるでしょう。

 

それでも……いえ、それゆえといいますか、女性ユーザーが多数を占める音楽系企業で、事業計画・経営戦略などの意思決定権を持つのは、ほぼ確実に男性です。というかおじさんです。女性社長・女性役員も増えていますが、まだ圧倒的に少数派です。海外はもう少し男女比率が近いはずですが、まだ完全にイコールではないでしょう。

 

これまでフェスに女性の出演者が少なかったのは、出演者を決定する場面で女性が少ないなど、女性が意思決定に十分関与できていないことが唯一にして最大の理由ではないでしょうか。

 

海外ではこんな記事もありました。

 

ただし、日本のフェスはゴミの分別といった自然環境への配慮、地域と連携した活性化への取り組み、参加者のマナー向上の呼びかけ、気配りの行き届いた会場運営など、日本のフェス独自の良い部分がたくさんあります。フジロック東日本大震災以降、脱原発のメッセージを発していることも見逃せませんし、玉城デニー沖縄県知事も出演してますね。

現在のフェス文化は、90年代以降に若い世代が中心になって作り上げたものですから、やはりそこでひとつ価値観がアップデートされている、といえそうです。

 

 

それでは、世代交代や価値観のアップデートを伴って、プリマヴェーラサウンドのようなジェンダー平等の取り組みが音楽産業および社会全体で、ますます進んでいくのでしょうか?

 

私は、残念ながら一筋縄ではいかないと思っています。権力を持つ人は、自分の地位を脅かすような動きが大大大嫌いなのが世の常だからです。プリマヴェーラサウンドのようなジェンダー平等のアクションにも、やれポリコレだ、数合わせで女性に下駄をはかせているだけだ、意味がない、と嚙みついてくる人が必ず、絶対に出てきます。

(実際、プリマヴェーラサウンドに関する私のツイートにさえ噛みついてくるおじさんがいて、ご意見はブログの参考にさせてもらいつつ、迷わずスルーしました。対面ならともかく、ソーシャルメディア上の応酬は両者の立ち位置がまったく違い、最初から結論ありきのことも多く、時間を費やしておじさんにかまってあげるだけの結果になりかねません)

 

 

代議員候補や会社役員などの男女比率を事前に設定し、その達成を義務付けるクオータ制を挙げるまでもなく、まず数値目標を先に設定しない限り、ジェンダー平等は到底成し遂げられません。それくらい現代社会のジェンダー比率はアンバランスで不平等です。

 

よく言われることですが、女性が、そして性的マイノリティーやハンディキャップのある方々が生きやすい世の中は、男性にも、もちろんおじさんも生きやすい世の中です。

様々な理不尽に耐え、たくさんのものを犠牲にして、苦労の末にいまの地位と権力を得たであろうおじさんたちの気持ちも、よくわかります。が、おじさんだけが偉い会社や家庭はあまり幸せではなさそうです。私もおじさんのひとりとして、威張っているおじさんたちに「そんなに意地を張らないでさ、偉ぶってても仕方ないよ。良い音楽でも聴いて、もっと気楽にいこうよ」と言ってあげたいです。大きなお世話でしょうけど笑

 

 

音楽をはじめとする文化芸術を通して、社会をより良いものにしていこうと戦い続ける、すべての方に敬意を表します。

最後までお読み下さりありがとうございました。

 

 

第99回 Kind of Perfume

ご無沙汰しております。

このところずっと、Perfumeに関する原稿を書いていました。まだまだ完成は先ですが、少しずつ進んでいるところです。

 

いま予定している原稿のテーマは、以下のとおりです。

1:Perfumeが発表したほぼすべての楽曲についての評論・ガイド・感想

2:Perfume楽曲のカヴァー、トリビュート、サンプリング例

3:Perfumeを取り巻くアーティストたちの紹介

 

最初に私がこのような原稿を書きたいと思ったのは、Perfumeの〈音楽性〉について、メディアで語られる機会があまり多くない、または年々減少するように感じられたからです。作品リリースのたびに、文字媒体でのインタヴューやTV・ラジオ出演は多々ありますが、そこでは紙幅や時間の制限もあってか、作品に対するメンバー3人の想いを尋ねることが優先される状態が続いています。

一方、あれほど音楽的な評価が高いグループなのに、全曲解説のような試みはまだどなたも手掛けていないようですし、そういったものが出版される機運の高まりもなかなか感じられません。Perfume楽曲ベスト50、のような特集が某紙でありましたが、ここではそれ以上の言及はいたしません)

 

当然ながら、Perfumeの音楽性への評価はすでに確立されていますから、いまさらどうこう語るものではないとも言えますし、そもそも媒体側にはそういった切り口での記事にニーズがない、つまり3人の想いや関係についての記事こそマーケットで求められるものだ、という判断もあるのでしょう。確かにPerfume3人のキャラクターが大きな魅力であることは間違いありません。

 

でも、これだけ長く活動を続けて、傑出した作品を多々残して、時代の変化と共にアップデートを続けているグループなのに、その足跡を誰も文字媒体でまとめようとしなかったのはむしろ不自然に感じます。

◇the best thing

そんな中、2020年のツアー 「Perfume 8th Tour 2020 “P Cubed” in Dome」のグッズとして販売されたPerfume LIVE DATA BOOK』は、まさしく待望の1冊でした。

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ASMARTの商品紹介ページを引用します。

結成20年、メジャーデビュー15周年の節目を記念して、2008年『Perfume First Tour 「GAME」』から2019年『Reframe 2019』までのライブを1冊にまとめた「LIVE DATA BOOK」が登場! <ライブヒストリー><スペシャルインタビュー><セットリスト>と3つのカテゴリに分類し、Perfumeが最も大事にしてきたライブの歴史を、大ボリュームの152ページで振り返ります。

この文句のとおり、フェス出演なども含むPerfume全ライヴのセットリストという資料性・網羅性の高さは言うまでもなく、Perfumeのライヴ制作を支える各部門へのインタヴューはプロダクション・ノートとして一級品であり、Perfumeに留まらずライブ・エンタテインメントそのものへの理解や関心を深めることができる、決定的な1冊です。

 

ああ良かった、もうこれさえあればいい。Perfumeのライヴを創る当事者の手による、間違いない1冊Perfumeの軌跡は見事にまとめられました。もう他の誰かがPerfumeの活動を総括したり記録を残す必要はなくなったな……。

 

 

と重々承知のうえで、それ以降も私はPerfumeの楽曲に関する原稿をずっと書いています。

〈原稿を書く〉という視点で改めてPerfumeの曲をじっくり聴き直したところ、いくつもの新しい発見があり、聞き逃していた要素があり、何よりPerfumeの音楽的な創造性に改めて感じ入るものがあり、それらを原稿に落とし込んでいく作業が、想像以上に楽しかったからです。

 

私は日常的にPerfumeの楽曲を聞くことがさほど多くなく、じっくりPerfumeを聴き込むのは新作リリース時や、ライヴとその前後の期間くらいです。それだけにこの原稿を書く時間を通して、私はPerfumeの楽曲をあまりちゃんと聴けていなかったかも、という事実を痛感しました。いま改めてPerfumeの楽曲を知っていく過程で、気づいたことを原稿にまとめているだけとも言えます。その過程で、これまで私が得てきた音楽的な体験や情報を活かすことができれば、私が原稿を書く意味もあるかもしれない、と思っています。

 

もちろん、私より音楽に詳しい方は無限にいらっしゃいますが、さすがにPerfumeの楽曲ほぼすべてを評しようという方はあまりいないでしょう。

そもそも全曲解説の企画自体、音楽評論家の中山康樹さんによる『マイルスを聴け!』『エヴァンスを聴け!』『キース・ジャレットを聴け!』などはあるものの、珍しい試みかもしれませんが……

 

そして私より情熱のあるPerfumeファンの方々も無数にいらっしゃいますが、さすがにPerfumeの楽曲ほぼすべてを評しようという方はそんなにいないでしょう。

 

そう考えると、私が適任とは思えないものの、まあやってみようかな、できる範囲で。がいまの心境です。

◇進捗状況

さて問題は、その原稿をどこまで書いているのか?ですが、

1:Perfumeが発表したほぼすべての楽曲についての評論・ガイド・感想

 

ここで『LEVEL3』の“Handy Man”を書いており、ここまでで3万字くらいです。それ以降はほぼ白紙状態です。

 

まあまあ進んでるんじゃない?と思われるかもしれませんが、そもそも原稿を書き始めたのが10~11月くらいですね、2019年の。最初は「よし、いまから書き始めれば2020年のドームツアーには間に合うだろう」と甘く見ていましたが……さすがに甘すぎでしたね。

 

かようにものすごく進行が遅いのですが、実は執筆前に〈Perfumeの原稿を書くなら、音楽についてもう一度ちゃんと勉強し直さないと!〉と一念発起し、自宅にあったディスコやハウス、テクノ、ベース・ミュージックに関するディスクガイドやルポルタージュを読んだり、自宅にあったディスコ、ハウス、アシッド・ハウス、テクノ、ダブ・ステップ、EDMなどのCDや、ストリーミング音源を聴き直して、それぞれ特徴をまとめたりといった準備の時間を取りました。そしてこの準備時間はいまも頻繁に取っています。ちなみに私がこのブログを書いて学んだもっとも大きな教訓は〈よく知らないことは書かない方がいい〉です。

 

この準備の過程で得るものが大きく、刺激的で最高に楽しい時間でした。しまいにはチャーリー・パーカー(即興演奏を主体としたビ・バップのスタイルを編み出してジャズを革新したアルト・サックス奏者)の評伝「バードは生きている―チャーリー・パーカーの栄光と苦難」まで読み始め、これもすごく面白いのですが〈あっ、これを続けていたら永遠に原稿は書き上がらないな〉と気づいて中断したりしていました。

 

 

そんなこんなでPerfumeの楽曲に関する原稿を書き進めています。ただ、どうしてもメロディーや歌詞よりアレンジ(サウンド・デザイン)への言及が多くなりがちで、これはPerfumeよりむしろ中田ヤスタカに関する原稿になっているのでは……?という気がしなくもないのですが、やはりPerfume3人のヴォーカルがあってこその楽曲ですし、その前提を忘れなければまあいいか、くらいの認識でおります。

 

もちろん音楽は各々が聴きたいように聴くものですから、何かを決めつけたり、特定の聞き方を押しつけたり、あたかも自分の解釈が正しいと喧伝することのないよう肝に銘じています。

 

なお、この原稿をどういう形で発表するのか(もしくは特に発表しないか)は決めていません。テーマ的に大きなマーケットは見込めませんから、商業ベースの書籍として出版されることはまずありえないでしょう(そもそも原稿の質の問題があります)。

そうなると同人誌として自費出版とか、いまならnoteなんかでの発表も考えられそうですが、そのあたりはよくわからないのでとりあえずおいておきます。

 

 

私の知識量では、かろうじてPerfumeの音楽面について書けるかなという程度ですし、それゆえ原稿のタイトルも『Kind of Perfume』としました(kind of ~=「いくぶん、ある程度の」)。

そもそもPerfumeの魅力について本当はもっと語りたい、私なら語れる、という方もまだたくさんいらっしゃるはずです。私では到底手が回らないPerfume曲のコード進行や調性に関する音楽理論、ミキシングなどの音響面についてや、Perfumeのダンスについて、振付について、はたまた衣装、ミュージックビデオ、テクノロジー演出、ライヴ映像、ライヴMC、ラジオ番組、物語性、関係性などなど……まだ語られていない部分はたくさんあるはずです。

 

そういった多様な意見がもっともっと増えて、多くの方々の意見から自分が知らなかったことを学んだり、〈なるほど、私はこう思います〉といった意見の交流が活発化して、自分の考えを表現できる機会が増えたら豊かだな、と思います。

 

 

え、こんなエントリ書いている時間があったら原稿書けばいいのにって? それは確かに!!

 

(追記)

なぜ久々にブログ記事を書いたかといいますと、やはり人間締め切りがないと書かないな、ということに遅れ馳せながら気付きまして、2021年の6月には原稿を完成させます。

第98回 Perfume at Coachella!!!!!

Perfumeは2019年4月14日と21日、2週に渡りCoachella Valley Music and Arts Festivalへ出演しました。

私は19日のロサンゼルスでのワンマンと、コーチェラ2週目のライヴを現地で観ることができました。LA公演は「Future Pop」日本ツアーの延長線上にあり、そこに「チョコレイト・ディスコ」など海外での人気曲を採り入れ、新たな機構も導入したりと、ローカライズとアップデートがなされたものに。会場は満員で、日系の文化が根付いたLAの特色もあってか、アジア系の方々が多く来られていました。

……とLA公演について書きたいこともあるのですが、今回はコーチェラのことを。

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コーチェラ出演の意義について以前書きましたが、たとえ世界で最も注目を集めるフェスに出演しても、その場で観客が集まらなければ、良いパフォーマンスにならなければ、せっかくの機会を活かし切ることはできません。

春に行われるコーチェラは、いまやその1年の音楽市場のトレンドを象徴するとされています。世界中のフェス主催者、プロモーター、エージェントが「今年はどのアーティストが良いライヴをするかな?」と注目していますから、ここで目立ったアクトは、世界各国の夏フェスやイベント、ツアーのブッキングが期待できます!

さらにYouTubeでのリアルタイム配信も影響力が大きいため、間違いなくどのアクトも完璧に仕上げてきます。Perfumeは世界的な知名度ではどうしても分が悪いですが、コーチェラ期間中にMixmag、そしてRolling Stoneという人気メディアが〈コーチェラで観るべきアクト/1週目のベストアクト〉としてPerfumeを採り上げてくれました。

なおRolling Stoneは、アルバム『COSMIC EXPLORER』を、2016年の年間ベストに入れてくれたこともあります。これについても以前書きました。

こういった音楽メディアの人たちは仕事柄、常に新しいもの、おもしろいものを探していますので、そこにPerfumeが引っかかったのは、コーチェラ出演がフックになり、届くべきところにようやく届き、評価されつつあることの表われとも言えるでしょう。もしかしてPerfumeのコーチェラ、かなり行けるのでは……?という気もしてきたのです。 

とはいえ、私が観られるのは2週目のみ。ということで1週目に関する情報は極力遮断して当日を迎えました。

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◇What's Up, Coachella!!

コーチェラに行くのは2回目ですが、今回も世界中から集まったお客さんは人種も年代も多様。とはいえ平均年齢は30歳前後といった感じか、若い世代が多く参加しています。

この年のラインナップの特徴として、かつて猛威を振るっていたEDM系のDJが一気に少なくなりました。DJも曲を流すだけでなく、楽器を演奏したりバンドを従えたり。そしてEDM勢が鳴りを潜める一方で、非英語圏……つまりラテン・アメリカやアジア、ヨーロッパ圏のアーティストが存在感を増しています。

前回は、夜になるにつれて英語圏のアーティストが増えた印象でしたが、今回はメインどころだけ挙げても、まずコロンビアのJ BalvinプエルトリコBad Bunnyが最大規模のCoachella Stageに堂々の出演(真ん中にいるのはゲストのCardi Bですね。この3人による「I Like It」は近年を代表する超ヒット曲です。

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トリニダード・トバゴCalypso Rose(御年78歳!!!)

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フランスからCharlotte GainsbourgにGesaffelstein

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ロシアからNina Kraviz

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アジアからは我らがPerfumeBLACKPINK、Hyukohなどなど。

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ずいぶん国際色豊かになっていて、それに伴い2018年のコーチェラに感じた「意外と音楽性が限られるんだな」という印象から、随分と幅広いフェスになっています。これを受けて、各国のフェスはどれくらい変化するのでしょうか? 楽しみですね。

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さて、マニアック(?)な話はこのへんにして……ここからようやくPerfumeの話です!!

◇2019.4.21

Perfumeの出演当日、会場を見て回りました。

他にも、Pusha TやBlood Orange、Boy Pablo、SOB X RBEなど観ました。正直言って、どのアクトも実に凄いライヴをやっていて「本当にこのフェスに、僕が知ってるあのPerfumeが出るんだろうか……??」と途中から現実味がなくなりました笑 あ~ちゃんが大好きなAriana Grandeも(しかもPerfumeのすぐ後に)出るくらいですからね。非常に不思議な感覚というか、ふわふわした心持ちだったのを覚えています。

Perfumeの出演時間(20:25)が近づいてくると、Perfumeが出演するGobiと、すぐ隣のMojaveの動員が気になります。この2つは同規模だと思っていましたが、僕の記憶違いかステージプラン変更があったのか、GobiはMohaveより小さく、Mojaveの4分の3といったところでしょうか。

19時過ぎの時点で、Gobiは070 Shake、MojaveはClairoとどちらも女性アーティストが演奏していますが、どちらも人の入りはそれほどではありません。その分、Coachella StageのZeddと、こちらも巨大なステージであるSaharaに出演するYG(地元カリフォルニア出身のラッパー)に人が集まっています。

たとえしっかり準備して、良い演奏ができたとしても、裏に強力なアクトがいれば人はそちらに流れてしまうのがフェスの難しいところ。はたしてPerfumeは大丈夫かなぁ……

 

19:40頃になり、気になっていたOutdoor Theatreに移動。Justice(か2000年代後半の中田ヤスタカ?)をダークにした感じのGesaffelsteinも、かなり多くの人を集めています。

みんなー、20:25からGobiでPerfume始まるぞー!グサフェルもいいけどこっちもいいぞー!と渾身の力で呼びかけたいところですが、Zeddを見終わった人までもが続々とこちらへ集まってきます。この人の流れが、Gobiにも行っているといいのですが……

 

刻一刻と時間が迫ってきます。せっかくなのでギリギリまでGesaffelsteinを見て、20:10にGobiに到着しましたが、状況はこれ。

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うーん思った以上にアウェイというか、もう少し集まってくれると思ったんだけど……いいところ4〜500人くらいでしょうか。サブヘッドライナーでこれではあまりにも寂しい。でもまだ開始まで15分くらいあるから……大丈夫なはず!!きっと!!!

 

不安に駆られながらも、お隣のMojaveで演奏中のSofi Tukkerの様子を見に行くと、これが「マジか……」と声が出てしまうほどの大入り。

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前回のエントリではすっかり抜けていましたが、NY発のユニークで知的で優れたダンス・ポップが身上である彼らは、どこかPerfumeとも重なる部分があります。さらにデビュー曲がグラミー賞にノミネートされたり、iPhone XのCM曲を担当していたりと、どう考えてもカードが強すぎです……残念だけど、本当に残念だけど、さすがにこうなるとPerfumeは苦しいかもなぁ。

 

複雑な気持ちになりながらGobiに向かうと、20:25まで少し時間があるものの、テントから白い光が漏れていて、大音量の音楽が聞こえます。あれっ、もう始まってる?と歩みを早めると、流れているのはなんと「Dream Fighter」のインスト。ステージ上には透過型スクリーンがいくつか置かれているだけで、メンバーはいません。ライヴ開始前のSEということみたいですね。

先ほどよりは人も集まってきましたが、それでもまだ会場の前方だけ。やはり知名度がないんだろう、もうこれはこれで仕方ない……

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……でも、観客が何人だろうと関係ない! たとえどんな状況でも、彼女たちはベストを尽くすでしょう。それが私のずっと見てきたPerfumeです。

◇最高を求めて

Dream Fighter」が終わると、場内が暗転。待ちわびた観客から歓声が上がり、いよいよPerfumeのコーチェラライヴ(2週目)が始まります。先日のLA公演同様、これまでのPerfumeの軌跡が映像となってスクリーンに映し出される中、3人がステージに登場。そのままインダストリアルなイントロが……これは「STORY」!!! 2015年のSXSWと同様、いきなり先鋭的な面を打ち出して、冒頭から会場を掴みにかかります。インタラクションを駆使したプロジェクション・マッピングに、手動でスクリーンを動かすアナログな手法のミックスがPerfumeらしさ。ライヴが始まったこともあってか、徐々に人が増えてきた気がします。

続いては、来ました「Future Pop」!! こういったフェスで効果のありそうなドラムンベースで、一気に会場も爆発!!と思ったのですが、まあまあの盛り上がり。次の「エレクトロ・ワールド」も、日本なら鉄板の盛り上げ曲ですし、スクリーンに映し出されるリアルタイム生成のCGも、このクオリティでは他の誰もやっていないと思うのですが(コーチェラのAphex Twinは、スクリーンに観客の顔を勝手に映して、イヤな感じで変化させるリアルタイムCG生成はやってましたが、映された人はあまり嬉しくなさそうだった)、それもそこそこの反応。むむむ……とはいえ、先ほどから人が増えてきて、半分近くまでは埋まってきました。最後尾に陣取っていた私は徐々に後ろに下がることになります。

そして「If you wanna」。こういったフューチャー・ベース調の曲は、Saharaで出ているようなDJもちょいちょいかけていたので、サウンドとしてはまだまだ有効だろうと思ったのですが、この曲が終わるとGobiを出て行く人がちらほら。おいおい、まだまだ良い曲たくさんあるのに……君たちはまだ本当のPerfumeを知らない!!と思いつつ、私にはその背中を見送ることしかできません。

 

ここで最初のMC。メンバーの自己紹介などを手短に済ませて、すぐさま「FUSION」へ。普段のライヴとはまったく異なる性急な進行に、これでは全然休めないのでは?と感じつつ、コーチェラに賭ける決意がひしひしと伝わっても来ました。

「FUSION」の演出で、影絵がバン!と拡大されるとみんな「Ohhhhh!!!!」と超フレッシュな反応。これは嬉しかったですね。LA公演でも使われた、無線制御の稼働スクリーン(下に車輪が付いていて自由に動く)で、メンバーが乗っても自由自在に動き回る機構に驚きでした(コーチェラでは使っていなかったかも?あまりステージ見えなかったので)。

 

この「FUSION」から、はっきりと人の流れが変わりました。Perfumeより先に、MojaveのSofi Tukkerのライヴが終わったことが大きいですが、先進的な演出と3人のダンス、強力なビートと重低音、ちょっとエキゾティックなメロディーが「何やってるんだろう?」と通りすがりの人を引き込むのに十分なフックになったのだと思います。

◇the best thing

コーチェラに限らず、いろんな海外フェスを観てきて感じたことは、ああいう場での観客はオープンマインドです。たとえ自分が知らないアーティストや、普段よく聞くジャンルでなくても、気に入れば存分に楽しむし、「Not for me」と思えばすぐに移動してしまう人が多いように見えます。

このとき周りを見渡すと、集まっている人たちは人種も年代も性別もバラバラ。きっとみんなPerfumeのことは知らないし、日本語の歌詞は意味がよくわからないでしょう。それでも、踊れる曲だから、なんだか楽しそうだから、他に観るものを決めていないから……きっとそんな人たちが集まってきて、あっという間にGobiが人で埋まっていきます。

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ずっと人混みの最後列をキープしていた私は、最初は会場の前方にいたはずなのに、気が付くとGobiのかなり後方まで来ていました。それでもなお、止まることなく人が増えていきます。歩いて入ってくる人、駆け込んでくる人。スマートフォンでステージを撮影しながら、友達と話しながら、ダンスしながら……これは、凄いことが起きようとしている。ライヴ中にツイッターを開くつもりなど毛頭ありませんでしたが、慌ててこうツイートしました。

 

しかし、ここで急に迷いが生じました。

 

どうしよう? ここまで後ろに下がってしまうと、まずステージは見辛くなる。もちろんPerfumeの晴れ舞台を見届けたいし、いまならまだ前の方に行ける。近くで3人の姿を見られて、ライヴを思いっきり楽しめる。せっかくこんなに遠くまで来たんだから、と。

 

 

でも私は、Perfumeメンバーを近くで観たいがために、コーチェラまで来たわけでもありません。

Perfumeが、世界最高の舞台といえるコーチェラでどう戦って、その結果として何が起きるのかを知りたい。

世界中から来ている観客が、それにどう反応して、どう楽しんでくれるのかを知りたい。

そういう好奇心に駆られて、はるばるコーチェラまで来たのです。あと、まあ配信もあるし…!!!

 

そう決心し、会場前方へと向かう人の流れに逆らって、Gobiのいちばん後ろまで行きました。そこから見ると、すでにGobiの9割は埋まろうとしていて、テントの外ではSofi Tukkerを観ていた大勢の人々がメインステージ方面へ移動中。その大きな人の流れから、少なくない人たちが続々とGobiに入ってきます。そして……

このとき、自分が目の当たりにしている光景が、にわかには信じがたかったです。こうなってほしいな、こうだったらいいのに、というイメージが目の前で本当にそうなっている。その興奮と驚きと喜びで、かなり気が動転していました。心底嬉しくて涙が出そうだけど、それ以上にPerfumeのカッコよさに笑いが止まらないような。

Perfumeは……やっぱり凄い! 本当にやってくれた! この「edge(⊿-mix)」で、Gobiはついに満員になりました。

◇Speed of Sound

間髪を入れずPerfumeが繰り出すのは「だいじょばない」。ここでコーチェラでのPerfumeのモードがはっきり見えた気がしました。おそらく、一見のお客さんも含めて一気に引き込むためにキラー・チューンを畳み掛ける、Perfume史上もっともアグレッシヴでアップリフティングで、スピーディーなセットになるだろうと。彼女たちはここまでほとんど休憩らしい休憩を取っていませんが、それでもなお一切の隙なく、短距離走者のようなスピードで、持ち時間の50分を駆け抜けるつもりなのだと察しました。 

「だいじょばない」もまた、会場の大多数が初めて聴く曲と思われますが、なかなか人が減らないどころか、さらに集まってくる。「edge」で一気に高まった会場の温度が、さらに熱を帯びていくようです。

この辺でGobiに入り切れない人たちが、テントの外に集まって踊り始めます。たとえ意味のわからない日本語でも(というか「だいじょばない」の詞は日本人でも完璧には意味がわかりませんが笑)身体を動かし、心を躍らせることで、音楽は言葉の壁も人種も年代も超えて届いていきます。この伝播こそ音楽の力であり、文化芸術の素晴らしさです。

このときこの場所にいた人たちは、Perfumeが気に入るかもしれませんし、Perfumeを観たことなんてすぐに忘れてしまうかもしれません。それでも、人が集まるにつれてエネルギーの渦みたいなものがどんどん大きくなっていく興奮は忘れがたいものでした。

 

この時点で、私はテントの外に出ていましたので、もうステージ上の3人はほとんど見えません。でもPerfumeの音楽はよく聞こえるし、それを思い思いに楽しむ、本当にたくさんの人たちが目の前にいる。そして「だいじょばない」から立て続けに披露される「Pick Me Up」、「FAKE IT」!! ここまでの9曲、スパートを掛けるようにほとんど立て続けに披露されています。これが、コーチェラでのPerfumeです。

 

この日のPerfumeの姿は本当に、〈戦っていた〉という言葉が相応しいのですが、それは決してコーチェラそのものや観客、他の出演者たちとの戦いではなく、それまでの限界を打破するため、新しい可能性を切り拓くため、持てる力を出し切るための、自分たち自身との戦いのようにも感じました。

いつものような、観客と和やかにコミュニケーションを取りながらの幸福感に溢れたワンマン・ライヴでも、当然そのような厳しい一面はあるでしょう。それでも、これまで観てきたどのライヴよりも、このときのPerfumeは尖っていて、切実でひたむきで、がむしゃらに何かを追い求めているように感じたのです。

 

それはまるで〈常に崖っぷち〉で、とにかく必死だった頃の彼女たちの姿が、どこかダブって見えるような……

◇パーフェクトスター・パーフェクトスタイル

もちろん、Perfumeはコーチェラのサブヘッドライナーとして呼ばれていますし、日本に帰ればアリーナツアーもドーム公演も開催可能です。ファンが昔の苦労話に浸るのはもはや感傷や懐古に過ぎませんし、そういった〈物語性〉は、Perfumeほんの一面に過ぎません。人気は安定しているし、かといってそれに胡坐をかいて進歩を止めたり努力を怠ることもなく、着実にキャリアを積み重ねながら、コンスタントに新しいファンを獲得しています(新規ファンの獲得は、キャリアの長いアーティストにとって非常に重要な命題ですが、なかなか簡単ではありません)

それこそいまのPerfumeは、言うなれば〈すべてパーフェクトなスター〉です。

 

思えば、初めて本格的に海外フェスに出演した2013年のUltra Koreaでは、アルバム『LEVEL3』の序盤のように楽曲をシームレスに繋ぎ、ダンス・ミュージックとしての機能性を高めようとするトライアルがありました。なかなか披露されない「Hurly Burly」がセットに組み込まれたりとおもしろい試みでも、あいにくUltra Koreaでは客入りがさほどではなく、苦戦していた印象です。でもそのときの経験がなければ、このコーチェラでそういった路線にトライしていた可能性だってあります。

これまでの経験を経てこの境地にたどり着いた、Perfumeの姿がコーチェラにはありました。

 

繰り返しになりますが、コーチェラという世界最高の舞台で、とことんストイックに、決意と覚悟をもって、自分たちにできることを突き詰めるアイドル・グループPerfumeなのです。凄いことです、これは本当に……。

 

なお、私がその凄みに打ち震えているときに、眼前に広がっていた光景がこちらです笑。

現在に過去や軌跡を重ねてシリアスに感じ入ることもできれば、即効性に優れたダンス・ミュージックとしても機能する、これもまた音楽の豊かさなのだと思います。

 

「FAKE IT」までほぼ連続で来ていたため、メンバーの体力がかなり心配にもなったのですが(もちろん、大きなお世話ですね、彼女たちはプロフェッショナルの中のプロフェッショナルです)この曲が終わってようやくMCに。私も感無量だったのでうろ覚えですが、

あ~ちゃん「コーチェラ、楽しんでもらえましたか?」

かしゆか「参加できてうれしいです!」

のっち「夢が叶いました! またコーチェラに戻ってきてもいいですか!?

といった手短な英語MCに、大歓声で応える観客。あ~ちゃんが「私たちの最後の曲です!」と宣言して始まったのがFLASHでした。

◇最高のLightning Game

海外の人々にとってはエキゾティックであろう〈和風のメロディー〉に、クールで先鋭的な振付を重ねることで、ある意味でのPerfumeらしさが凝縮された「FLASH」は、まさに海外進出にはうってつけです。ここで最も大きな盛り上がりを見せて、この状態まで熱狂が拡がってきました。テントの外でこの状況なので、場内は推して知るべしでしょう。

FLASH」が終わると、この日唯一の日本語MCである「それではー、Perfumeでした! ありがとうございましたー!!」が快活に響いて、3人がステージを去って行きます。私は、いま起きたことは何だったんだろう? Perfumeのこの先に何が待っているんだろう?と、ぼんやりとした頭で、とても熱い何かを胸の内に感じながら、しばしその場に立ち尽くしました。

◇Next Stage with YOU

Perfumeの初めてのコーチェラは、大成功でした!

とはいえ、もしPerfumeの出番がMojaveのSofi Tukkerより早かったら、途中で観客がMojaveに流れてしまい、これほどの大盛況にはならなかった可能性はあります。スケジュールに助けられた部分もあるかもしれませんが、運だって実力の内です。それに、流動的な人の流れをしっかり引き寄せて、Gobiを満員にしたのは間違いなくPerfumeチームの地力であり、私の期待や予想を遥かに超える反応だったことは事実です。

 

そしてこのパフォーマンスに、ライゾマティクスが手掛けるリアルタイムAR・シームレスMRなどのエフェクトを(後からの編集ではなくリアルタイム処理で)採り入れた映像が、全世界に向けてYouTubeで配信されました。Ariana Grandeの直後の放送ということで、多くの視聴者数が期待できます。

Perfumeの北米ツアーは、コーチェラでのライヴをもって、華々しいフィナーレを迎えたと言えるでしょう。

 

それでは、コーチェラの先には何があるのでしょうか?

 

前述のとおり、コーチェラは世界中のプロモーターやエージェントなどが注目しています。コーチェラで優れたパフォーマンスを行ったアクトには、各国の夏フェスやイベント出演、ツアーのオファーが来るもので、それはアーティストとしてのステージを上げる大きなチャンスです。

はたしてPerfumeは、その流れに上手く乗っていくことになるのでしょうか。それとも海外展開はここで一区切りで、次は日本国内での活動にシフトするのでしょうか。早くも日本での夏フェス出演が数本発表されていますし、なんとなく後者になりそうな予感はありますね。

 

これは決してどちらが良いという話ではありませんが、BLACKPINKのコーチェラへの取り組み方はPerfumeと対照的です。

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BLACKPINKはコーチェラをスタート地点に、その直後のLA公演から北米~ワールドツアーをキックオフさせています。コーチェラでのバズを、そのままツアーの動員に反映させる狙いは明らかで、ニュージャージーのPrudential Center(2万人収容。NYから割と近いので、実質的にほぼNY公演)は、なんと2日間の開催で初日をソールドアウトさせています……! この動員力だと、近い将来のMadison Square Garden公演すら可能にも思えます。

韓国国内の音楽市場の小ささゆえに、海外進出が至上命題のK-Pop勢と、日本市場がまだまだ大きなPerfumeではそもそものベクトルが違いますが、ここまではっきり違いが出るとは。でも他所は他所、うちはうちです。日本国内と海外でうまくバランスを取りながら活動することはかなりの難題と思われますが、コーチェラを成功させたPerfumeなら、それも可能な気がします。

 

2019年、これから開催されるヨーロッパやアメリカ、アジアのフェスPerfumeが呼ばれることだってあるでしょうし、Perfumeの次なるワールドツアーは、おそらくこれまでとはまったく違う規模感のものになるでしょう。世界における知名度や評価を高めるという意味では、もはや東京オリンピックなんかにこだわる必要もないのでは? それほど大きなインパクトと、見事なパフォーマンスを見せてくれたのがコーチェラでのPerfumeでした。

 

そして、コーチェラでのPerfumeの盛り上がりは決して〈奇跡〉なんかではありません。あらゆる現象には理由があり、その意味ですべては必然です。

Perfumeチームの長きに渡る積み重ねと、未来への希望、そして海外でPerfumeを待ってくれている大勢のファンの存在があったからこそ、あの時間があったのだと思います。

2019.4.21 Coachella Valley Music and Arts Festival SET LIST

SE. Dream Fighter(Instrumental)

1. STORY

2. Future Pop

3. エレクトロ・ワールド

4. If you wanna

MC

5. FUSION

6. edge(⊿-mix)

7. だいじょばない

8. Pick Me Up

9. FAKE IT

10. FLASH

第97回 Coachellaに向けて

コーチェラ、開催直前になってようやくタイムテーブルが発表になりましたね。Perfumeが出演するDAY3はこちら。

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これを観た感想は、「あれ、Perfume意外といいところに入ってる!!」です。やはりというか、メインのCoachella Stage(3万人くらい入りそう)ではありませんでしたが、Perfumeが出演するGobi Stageは、コーチェラでは中くらいの大きさのテントステージです。正確なところはわかりませんが、7000~8000人くらいは普通に入るのでは……

 何より、20:20スタートという時間帯がいいですね! Perfumeはもっと早い(=暑いので会場にあんまり人がいない)時間に「一応、出演したよ」という感じでサラッとやるだけかも……と案じていましたが、意外にもGobi Stageのサブヘッドライナーになっています。なかなかの有力アクト扱いではないでしょうか。そもそもLAでのワンマンも、コーチェラ主催者のGoldenvoice社が引き受けていましたし、期待されている(もしくはGV社内にファンがいる)のかもしれません。

 

2018年のコーチェラではあのX JAPANがMojave Stage(Gobi Stageと同規模)に出演しましたが、なんとBeyonceとまったく同じ時間に当てられてしまい、動員はなかなか苦戦したようです。今回のPerfumeは幸い、Ariana GrandeやH.E.R.といった目玉アクトとは重なりません。

とはいえCoachella StageのKhalidは、ポップス~R&B界の新星であり、出たばかりの新作がストリーミングサービスを席巻していますので、かなり人を集めるでしょう。そしてOutdoor Theatre(こちらもなかなか大きい)でPerfumeと少し時間が重なっているGesaffelsteinはフランス・リヨン出身のDJ・プロデューサーで、The WeekndやKanye WestPharrell Williamsといった錚々たるメンツとコラボレートしたりで、ダンス・ミュージック好きな観客はまずこちらに集まるでしょう。彼はフレンチ・エレクトロ~テクノ界のスターだそうで、立ち位置はちょっと中田ヤスタカに重なるかもですね……

  他のステージも、イスラエル出身のハウス・プロデューサーGuy Gerberなど、さすがに強力アクトが重なる時間帯ですが、Coachella Stageでひとつ前のZeddから観客が流れてくるかもしれませんし……なるべく多くの人がPerfumeを観てくれたらな、と思います。

◇コーチェラにおけるステージ演出

コーチェラは雨が降らないため、到底野外フェスとは思えない演出が見られます。

こうなると、PerfumeのステージではRhizomatiksによるテクノロジー演出も期待したいところです。暗くなってからの出演ですから、どのステージでも演出は映えることでしょうし、世界中から集まった観客の度肝を抜くことも可能です。

 

ちなみに、Gobi以外のステージをいくつか挙げておきます。

Coachella Stage

コーチェラのメインステージで、3万人は余裕で入りそうです。広すぎるからか、いたるところにスピーカーが吊ってありました。

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Sahara Stage

Saharaも大きくて、ゆうに10000人は入りそうです。ただDJやラッパーのライヴが主体のためか、舞台が狭そうなので、テクノロジー演出をするなら不向きでしょう。BLACKPINKはこのステージ出演ですね。

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Outdoor Theatre

ヤシの木に囲まれて、いかにもコーチェラらしい雰囲気です。

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あとはGobiと同規模のテントステージであるNojave、DJが中心のYumaとDolab、バンド中心のSonoraと全8ステージあります。そしてコーチェラはYouTubeでの生中継が有名ですが、生中継のチャンネルは3つしかないわけで……

Perfumeの生中継はあるのか?

現在発表されている、生中継の予定表にPerfumeの名前はありません。

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Perfumeと同時間帯の他のアクトは、Guy Gerberを除いて全員放映されるのですが……理由はわかりませんが、どうも生中継は望めないようです。

昨年のBeyonceの生中継は4300万人が視聴した、というForbesの記事もありました。生中継では少なく見積もっても、各チャンネルで数十~数百万人は見ていることになるでしょう。せっかくPerfumeの名前を世界に知らしめるチャンスなのに……

しかし、会場にいる多くのファンが動画を撮影し、即座にソーシャルメディアにアップするでしょうから、生中継NGでもそれなりの情報の拡散は見込めるでしょう。

(追記)リアルタイム配信がないならやる意味ない、運営は何を考えているんだ、といったご高説がTwitterで流れているようですが、意味のあるなしを決めるのは部外者ではありません。確かに配信の力は大きいですが、どういうライヴにするかがもっとも大切ですし、2週目での配信や、録画放送になるかもしれませんし……

 

(さらに追記)

コーチェラのサイトでPerfumeの2週目公演の生中継が発表されました!やった!!

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httpsなn://twittたer.com/tk8497/status/111710462800752230おーそなんでオーソドックスな中継になるのか、はたまた2015年のSXSWのようにテクノロジー演出を採り入れるのか。いずれにしても、世界規模での数十万(もしかすると百万)単位の視聴者数が期待できますから、Perfumeの名前を知り、興味を持つ人が増える良いきっかけになることを願っています。

(その意味では、コーチェラ以降にもまだまだ北米ツアーの予定があったら良かったのかもしれませんが……それはまた!!)

 

また、メディアでもPerfumeは以下のように採り上げられています。

このMixmag、UKのダンス・ミュージック系メディアで、30年以上の歴史を誇る老舗です。テクノ~ハウス、ビート・ミュージックなんかがメインの媒体ですから、まさかこういう〈コーチェラで観るべきアクト20〉Perfumeを採り上げてくれるとは……! ほかのダンス系アクトとは少し違うけどかなり良い、と的確な推薦コメントが書かれています(文中に「filtered vocals」とあるけど、最近のPerfumeはヴォーカルにほとんどフィルターかかってないのはご愛敬)。

こういうニュースや口コミでPerfumeの注目が高まってくれると嬉しいですね。

◇TIPS

最後に、昨年コーチェラで感じたことなどを。

昼間に行くと猛烈に暑いので、割とみんな夕方くらいから来る

・現地はカラッカラに乾燥していて、水分がないと生命の危険を感じるほどだが、無料の水汲み場があるので、空きペットボトルを活用しましょう。保湿も全力で

・椅子やスプレー缶など、日本のフェスなら持ち込みOKなものが禁止されているため、ホームページで確認を

ウェットティッシュは必需品(手づかみで食べるフードも多いため)

・雨具は不要、夜は羽織るものがあればよい

・アルコール類の販売はゾーニングされているため、飲みたい人はIDを持参(それでもマルガリータ16ドル、ビール11ドルとか信じられないくらい高価ですが……)

・会場で売っているカットフルーツは貴重なビタミン源(会場やホテルではなかなか野菜にありつけないため)

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最後になりましたが、コーチェラに参加される皆様、そしてPerfumeおよびスタッフの皆様の時間が素晴らしいものになりますように。

第96回 Perfume、コーチェラフェスに出演

2019年4月に開催される、Coachella Valley Music and Arts Festival(以下、コーチェラ)へのPerfumeの出演が発表されました。

今回は、コーチェラ出演にどのような意味があって、どう影響があるかを書いてみます。 

◇コーチェラとは?

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アメリカはカリフォルニア州、ロサンゼルスのおよそ200km東に位置する街・コーチェラで開催されるフェスティバルです。1999年の初開催から現在に至るコーチェラは、世界で最も人気があり、注目度の高いフェスとされています。その理由として、以下が挙げられるでしょうか。

世界の音楽シーンのトレンドを象徴する、魅力的で強力なラインナップ

 

・著名アーティスト、俳優、モデル、お金持ちも多数訪れる非日常的アート空間

 

・開催期間中に約25万人が世界中から来場、チケットの売り上げは約130億円(いずれも2017年)

 

・4月開催のため、各地の夏フェス主催者が注目(コーチェラで優れたパフォーマンスをすれば、その夏は世界中のフェスにも呼ばれたりも)

 

今年は4月12日(金)~14日(日)、19日(金)~21日(日)の2週に渡って開催され、2週とも出演者は基本的に同じです。Perfumeの出演日は4月14日(日)と21日(日)の2回を予定しています。

Perfumeは4月19日にLAでライヴを予定しており、LA公演を主催するGolden Voice社はコーチェラの主催者でもあるため、Perfumeがコーチェラにも出演したらちょうどいいなーとは思っていたのですが……ついに決まりましたね!

Perfumeコーチェラ出演の意味

いまや超人気フェスであるコーチェラ、多くのミュージシャンが出演を希望しても、出られるのはほんの一握り。コーチェラに出たことがステータスでもあります(出演料がどれくらいなのかはまったく知りませんが)。

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世界中から集まった、多数の観客を前にパフォーマンスできるまたとない機会であり、YouTubeでの生中継もありますので、世界中でそのステージが観られることになります。Perfumeのパフォーマンスはノン・ヴァーバル(非言語的)な魅力がありますし、他の誰とも違うステージが注目を集めるのではないでしょうか。

また前述のとおり、Perfumeコーチェラ期間中のワンマンライヴもあります!そうなると……

<予想>

コーチェラ1週目のパフォーマンスが会場・YouTubeで話題沸騰

     ↓

このPerfumeっての、19日にLAでワンマンショウをやるらしいぜ!

      ↓

世界の音楽産業関係者がLAライヴに殺到

       ↓

Perfume is awesome!!!!

               

世界的ブレイク、マディソン・スクエア・ガーデン2DAYS公演へ……

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いやー私にはここまで見えましたね!!!

 

ただ、このコーチェラ出演が無条件で素晴らしいかというと、そうとも言い切れません…… 

◇コーチェラでいかに戦うか

少なくとも、以下の点は懸念されます。

 

1:タイムテーブルがどうなるか?

コーチェラ、早い時間の出演になってしまうと、残念ながら会場自体にお客さんがあまりいません。会場は砂漠エリアにあるため、日中は相当暑いからです。それでもテント型のステージなら、日差しをよけるためもあってそれなりに観客がいますが、あくまでも日よけに来ているわけですからね……

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また、強力なアクトと出演時間が重なると、そちらに観客が集まるため必然的に他のステージはガラガラになってしまいます。せっかく遅い時間帯の出演でも、たとえばアリアナ・グランデの真裏なんかに当てられてしまったら……他にも注目の出演者が目白押しのため、動員的には決して楽ではありません。

2:K-Popの進出

想定外だったのは、BLACKPINKのサブヘッドライナー的出演です。

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ポスターでのBLACKPINKの扱いはジャネル・モネイやザ・1975、ディプロといったビッグネームと同格でびっくりしました。K-Popの女性グループの出演はコーチェラ史上初なこともあり、かなりの話題を呼びそうです(男性グループはEpik Highが2016年に出演)。 

今回、PerfumeとBLACKPINKは同じ〈アジア枠〉になりそうですが、話題性や勢い、YouTubeの再生回数なんかを比べたら確かにBLACKPINKの方が……いやいやそんなの関係ない!ステージで何をするかが勝負! 韓国からは人気バンドのHyukohも出ますし、アジア勢の盛り上がりPerfumeも一役買えることは誇らしいですね。

3:アウェイでの戦い

Perfumeが海外フェスに出演するのは2013年のUltra Korea、そして2015年のSXSW以来ですが、特にUltra Koreaは途中で人がどんどん帰ってしまったりと、正直言って悔しい状況でした(メンバー曰く、ステージ上に大量の虫が飛んでいて集中できなかったとか……)。SXSWもさほど大規模な会場ではなかったですし(配信はありましたが)、コーチェラは世界中の観客に直接アピールできる場として、Ultra Koreaでの雪辱を晴らす機会にもなってくれそうで、個人的にワクワクしています。

Perfumeはコーチェラ出演者の中で数少ないアイドルであり、確実にアウェイだとは思いますが、逆境でこそ真価を発揮し、一見の観客を巻き込んでいくライヴが見たいし、いまのPerfumeはそれが可能なグループでしょう。そしてコーチェラは何しろ砂漠エリアで、空気が恐ろしいほど乾燥しているため、Perfumeメンバーはお肌の保湿ケアなどにも留意してほしいところです(そこ?)

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4:いつもどおりのライヴができるか?

コーチェラでは、DJなどダンス・ミュージック系のアクトはいくつかの〈ダンス系ステージ〉に固められる傾向があります。

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この写真の左に写るアーチ型テント?はアラン・ウォーカーやキャッシュ・キャッシュなどDJを中心に、常に大量の観客を集めていました。もしPerfumeがこのステージに出演できれば、ダンス・ミュージック好きな観客にアピールする大きなチャンスになりそうです。むろんメインステージがベストですが……

そしてテクノロジー演出ですが、昨年のザ・ウィークエンドはプロジェクション・マッピングを使っていたし、アルト・Jの演奏とシンクロする照明も凝っていました。過去には2パック(96年に亡くなった伝説的なラッパー)がホログラム映像で登場したりして、フェスとしてもテクノロジー演出はやぶさかでないようですが、Perfumeのようにダンスとテクノロジーが一体化して、相乗効果を生む演出は、まだこのフェスに存在しません。フェスなのでなかなか難しいかもしれませんが、Perfumeの先進的かつユニークな演出は、一気に世界的なバズを起こす可能性だってあります。

◇コーチェラを楽しむために

毎年チケットは即日完売しますので、1月4日(現地時間)からのチケット販売が正念場です。首尾よくチケットを買えたとしても、会場が不便な場所にあったりして、なかなか参加のハードルは高いです。それがフェスのブランドにもなっているとは思いますが……快適に過ごせるVIPチケットも999ドルとクレイジーな価格です。

 

上述の通り、コーチェラはYouTubeでの中継があります。これまでは1週目だけの放送でしたが、2019年からは2週目も中継されるとのことで、わざわざ現地まで行かずともPerfumeのライヴをチェックできるはずです(事務所が中継NGにでもしない限りは…)! 

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最後に言いたいことは、Perfumeのパフォーマンスは世界のどこに出しても恥ずかしくない、日本の音楽シーンの誇りです。コーチェラ出演という喜ばしい機会が最大限に活かされる環境と内容を期待してやみませんし、間違いなくそうなることでしょう。それではカリフォルニアで会いましょう!!!(ホントかよ)

第95回 Perfume 7th TOUR 2018「FUTURE POP」

Perfume 7th TOUR 2018「FUTURE POP」、ツアー初日となる9月21日の長野ビッグハット公演を観に行きました。 

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 結論から言いますと、今回も新たな挑戦を経て前進した姿を見せてくれますし、鉄板のハイパー盛り上げスタイルもあります。

しかしこれまでとは少し異なるテンションも随所に感じさせて、加速しながら最後まで駆け抜ける様は、これまでのPerfumeとはどこか一味違うようです。

終盤、場内が無音になるとメンバーの荒い呼吸がマイクを通して聞こえてきたりと、体力的にはいままで以上にしんどそうですが、それでもパフォーマンスの質は下げない、アスリートのような立ち居振る舞いは圧巻でした。(単に体力が落ちているとか、そういうわけでもなさそうですし)

アルバム『Future Pop』に関しては前回のエントリーのとおり、どこか不完全燃焼に感じてしまいましたが、ライヴはある意味、それとは対照的なものでした。

 

選曲もなかなか予想外の展開。おそらくここから多少の入れ替えがあるでしょうし、また流れも変わって来そうです。ネタバレにならないと思うので書きますが、私が「特にこの曲はぜひライヴでやってほしいなぁ!」と希望している曲が今回ことごとく入ってなかったのですが、それでも十分見応えがありました。

『Future Pop』で「この曲は……パワーダウンしてしまっているのでは?」と感じた部分も、アルバムの一部ではなくライヴの一部になると不思議と目立たなくなったり、楽曲がテクノロジー演出とダンスと一体化することで、一段高みに上った感もありました。

ライヴ演出に使用される映像は、かなりハイファイというか複雑になった印象で、演出そのものの情報量も多いため、そのぶんPerfume3人の存在感が薄れてしまう危険もあります。うまく行っている曲もあればバランスが危うい曲もあるように感じましたが、そういった試行錯誤を続けて、常に改善を図ってきたのがPerfumeでもあります。

 

もちろんツアー初日ということもあり、映像とメンバーの行動が食い違ったり、音響も最初ぼんやりして聞こえたり(これは場所にも依りますが)といった部分もありましたが、それこそすぐに立て直し、改善されていくことでしょう。

あと、ある曲での電通っぽさ溢れた演出〉は……。感動する人も多いと思うのですが、別に3人から生まれた言葉ではなさそうなので、そこまでやってしまうのは情緒過多というか、説明しすぎというか、オーバー・プロデュースかもしれません。

 

 ◇Darkness On The Edge Of Town

あと、これも書いておきます。

のっちのグッズ販促MCの最中に「お誕生日おめでとう!」と声を上げるなど(念のため、ライヴ前日がのっち30歳の誕生日でした)、一部ファンの言動に否定的な意見がツイッターで散見されます。MCでは、メンバー個人のアンチが激しく反応しそうな表現もありました。

とはいえ〈ぐるんぐるんツアー〉2014年9月20日代々木第一体育館でも、ファンが先走ってのっちのお誕生日を祝う展開はありましたし、Perfumeファンのほとんどは善良な方々だと思いますので、ここではそれ以上書くことを控えます。

 

ライヴを観ながら思ったのは、アーティスト人気の拡がりは、概してそういう困った層の流入と表裏一体です。いろいろなことが起きますが、それでも大きな流れは誰にも止められません。その中で、PerfumePerfumeであり続けて、Perfumeという存在をこれまでの人生で背負ってきたわけですよね。

その重みがいかほどか、私には想像もつきませんが、それをこれからも続けようとする3人の、現在進行形を感じるライヴでした。

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◇Spirit In The Night

以下、なんとなくのMC集です。

 

かしゆか、初めての長野公演で「初めてPerfume観る人!」調査、1割もいないくらいでしたが初参加陣はスタンド席に多め。

 

のっち、新作グッズのプレゼン。その場ではタオルしか持っていなかったものの、「可愛いグッズをたくさん作りました」と。新作Tシャツの売れ行きも市場調査(調査方法:購入者による挙手)。「大体3分3分3分……良い感じ」と(本来は3割3割3割?でも五分五分とも言うから3分で正しい?)

のっちが「それと、パン…」と言いかけたところでファンが「お誕生日おめでとう!」と声を上げる。それに続いて何人もが「Happy Birthday!」などと声を上げるが「何ー? そう、パンフレットね!と華麗にスルー。あ~ちゃんがステージに戻ってきて販促トークに参加、「このパンフレットは関さんが制作に関わって下さってて、もう作品なんですよ……さて、みんなの言いたかったこと、のっちお誕生日おめでとう!」

 

今回、のっち誕生日のカウントダウンで初めて3人一緒に過ごしたそう。これまでお誕生日の当日は、友人や祝ってくれる人と過ごすのでは……と遠慮していたものの、今回はリハーサルで必然的に長野におり、9月20日は東京に帰る?とのっちに聞いても「帰らない」と即答したため、あ~ちゃん「オッケー帰らない」。19日の夜遅くからリッチなコース料理を食べて、シャンパンタワー(赤や青など色が変わる、やらしい感じの)も立て、日付が変わる0時をカウントダウンしたそうです(コーディネートしたであろうエフ・オー・ビー企画の皆さん、本当にお疲れ様です

のっちは、あ~ちゃんとかしゆかの合同プレゼントで凄いものをもらったらしく……何だろう、長野の原野かな?と思いましたが、「それが何かはファンクラブサイトで発表しますのでよろしく!」と、しっかりファンクラブの宣伝をしていました。

 

のっちのお誕生日だけでなく、この日はメジャーデビュー記念日。あ~ちゃん曰く、「リニアモーターガール」の衣装(変なスリットが入って、耳に何かを付けて)はいつ思い出しても本当に恥ずかしいけれど、いま思えばあの曲がデビュー曲で良かったと思う。もうあまりライヴでやらないけれど

1年に1日の特別な日を、こうして一緒に過ごせるのは(長野の)皆さんだけ!……よしもう十分じゃろ→次の曲へ

 

最後のスピーチ、かしゆか「あっという間でした」

のっち「皆さんの表情から、私の誕生日をすごく祝ってくれていることが伝わりました。アルバムの曲をこれから育てていけるのが楽しみだし、こうして初日に笑顔で皆さんの前に立てていることが自信につながります。この気持ちをもって全国を回ります」

あ~ちゃん「のっちはこんな人だけど、誕生日のスピーチが過去最高に素晴らしかった。30歳になるってことは本当に大きいんだ、自分はまだあと半年あるけど、それが凄く楽しみになりました」

第94回 『Future Pop』は傑作か?

Perfume、2年4ヶ月ぶりとなるニュー・アルバム『Future Pop』がリリースされました!

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今回、先行シングルではフューチャー・ベース寄りの楽曲が続いたため、アルバムも現行ダンス・ミュージックの要素を大きく採り入れた、未来的でエッジーなものになるのでは……と予想していましたが、実際に出来上がった作品は3人の歌が前面に出た、まもなく30歳を迎える彼女たちの成熟や落ち着きをも感じさせるものでした。

 

 

今回は『Future Pop』はPerfumeの軌跡において、そして現在のポップ・ミュージック・シーンにおいてどのような位置づけの作品なのかを考えてみます。

 

◇Rewind

これまでPerfumeは、ただ単にルーティン(1年に1枚アルバムを作る、といったレコード契約)でアルバムを発表するのではなく、リリースの間隔を長めに取りつつ、常にその時々における国内外のポップ・ミュージックとの同時代性、批評性、独創性、Perfumeを巡る状況などをアルバムに落とし込んできました。

その作風には、いわゆる〈振り子理論〉――あるアルバムの次に、あえて大きく色合いの異なる作品を発表して、表現に振れ幅を持たせること――も窺えます。エレクトロ・ハウスとチューン・ヴォイスを武器にポップネスを追究した、ある意味シンプルな作風でもあった『GAME』から、一気に音楽性の幅を拡げたカラフルな『⊿』ができたり、〈3.11〉後の日本社会を励ます超ポップな『JPN』の次作が、どこかマシーナリーで実験的な要素も含むダンス・アルバム『LEVEL3』だったり。

批評性という点でも、世界(からだいぶ遅れて日本でも発生した)EDMブームを軽々と(それこそ宇宙まで)飛び越えたコンセプチュアルな『COSMIC EXPLORERもありましたね。

Perfumeのアルバムは常に、それまでのPerfume作品になかったアプローチで、新たな表現領域を切り拓いてきました。そしてそのディレクションやプロデュースを基に、歌唱とサウンドで織り成す楽曲の飛び抜けた質の高さこそPerfumeの魅力の核であり、中田ヤスタカの才気の表われでした。物語性やメンバーの関係性はここではおいておきます。

 

その意味で、今回の『Future Pop』はというと……

 

◇Start-Up

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アルバムはスケールの大きな、ゆったりしたインスト「Start-Up」で幕を開けます。ごく小さい音量で聞こえる鳥のさえずり〈爽やかな朝〉や〈新しい1日の始まり〉をイメージさせます。アルバムの導入部からこういうアンビエンス(環境音)を入れてくるのは珍しいですね。メロディーは「無限未来」が流用されていて、あの曲がアルバムのキーであることを示唆します。

続いて表題曲「Future Pop」。「Start-Up」でのシンセのシーケンスに少し似たコード進行の、これまた珍しいアコースティック・ギターの音色で始まります。かしゆかが歌い出すと三味線のフレーズが重なって、これは当然「スパイス」を連想しますし、8ビットなSEはリニアモーターガール」「コンピューターシティ」「エレクトロ・ワールド」……いわゆる〈近未来3部作〉テクノポップ路線を彷彿とさせます。

 

最初は、あれあれ何かやたらと過去を参照してない?(まあ8ビットなピコピコ音は最近のK-Popでもちょいちょい採り入れてるけど)と思ったのですが、3人がユニゾンで歌う〈♪叶えて ほら Future Pop〉からビルドアップに入ると一気に加速! ドロップ(サビっぽいけど歌の入ってない間奏)ではトランシーなシンセに、なんと「ポイント」以来となるドラムンベース! 意外性もスリリングさも肉体性も兼ね備えていて、端的に言って最高ですよ!

そのままもう一度サビに入り、さらにアゲていく!と見せかけていきなりビートを止めて、また淡々とした4つ打ちから始めたりと、緩急の付け方も見事です。ヤスタカお主やるな……!!

 

ちなみに「Future Pop」、この曲(の3分前後から)にも似ていますね……この曲は『Future Pop』リリース直前に発表されたようで、偶然のようですが。

そしてこの表題曲、完成度も高く非常に素晴らしいですが……

残念ながら個人的には、ここがこのアルバムのピークのように感じてしまいました。

 

◇SINGLES

アルバム『Future Pop』のうち、「If you wanna」「TOKYO GIRL」「FUSION」「無限未来」「宝石の雨」「Everyday」の6曲(つまりアルバム収録曲の半分)はシングル曲およびそのカップリングです。これまでのPerfumeは、先行シングルのカップリング曲でアルバムに収録しないものもありましたが(直近では「透明人間」「DISPLAY」など)、今回はカップリング曲までもれなく収録しています。「TOKYO GIRL」はリマスタリング(音の再仕上げ)がされていますね。

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一方、既発曲をリアレンジして、作品の世界観を拡張する役割も担っていた恒例のAlbum-mixは、今回1曲もありません。「レーザービーム」「GLITTER」「Cling Cling」「FLASH」などは、Album-mixが断トツの出来だったと思うのですが。

 

少し脱線しますと、いまシングルをCDで出す人は徐々に減っています。宇多田ヒカルMr.ChildrenONE OK ROCKBUMP OF CHICKENいずれ劣らぬ超人気者ですが、近年この方々のシングルリリースはダウンロード販売かストリーミング配信のみになっています。星野源も新曲「アイデア」はダウンロード販売ですね。

米津玄師「Lemon」、DA PUMP「U.S.A.」も、シングルCDは出てこそいますが、オリコン業務版を見るとダウンロード販売がCDの何倍ものセールス(=拡がり)を記録しています。

一方、アルバムとなるといまだにCDの比重が大きく、CD:配信の売上比率は4:1~8:1くらいのケースをよく見かけます。先行シングルは配信で聴いて、アルバムはCDで買うというリスナーが結構多いのですね。

 

つまり、アルバムから先行して楽曲を届ける場合、手間暇かけてシングルCDを制作しなくても、ネット配信で事足りる状況になっているわけです(おそらくは収益性の面でも)。シングルCDを出すこと自体に、何かしらの意味や目的が問われる時代になりつつある、とも言えます。

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普通にシングルCDを出して、コアファンが購入するだけでは、一部のファンとのコミュニケーションにはなっても、新たな拡がりはなかなか見込めません。

そんなご時世に、先行シングル曲とそのカップリングを〈シングルバージョンのまま〉〈全曲〉アルバムに収録することは、あまり得策ではないように感じます。シングルをすべて買っているファンは「もう何度も聴いた曲ばかり」「なんだ、これならわざわざシングル買わなくても良かったかな?」と思いかねません。

 

もちろんきちんとした狙いや考えがあって、このような収録内容に落ち着いたはずですし、どのシングル曲も〈新しいPerfume像〉を提案するもので、決してクオリティーは低くありません。

 

しかし個人的には、多くの既発曲をそのまま収録したことで、アルバムならではの意外性や発見、驚きが薄れてしまったように感じます。

 

◇NEXT STAGE...?

このアルバムで初披露の楽曲は、イントロと表題曲を除けば「Tiny Bunny」「Tiny Baby」「Let Me Know」「超来輪」「天空」です。 

 

私は……あまり書きたくないなぁこの先……えーと、Perfumeのアルバムで初めて、

  

「あれ……なんか、楽曲がパワーダウンしてる……?」と感じてしまいました。

 

 

前にどこかで聞いたような気がしたり、メロディーも曲調もそこまで印象に残らなかったり。サウンドのデザイン自体はいつにも増して凝っていますし、おもしろくないわけではありませんが、Perfume×ヤスタカらしいイデアや独創性、フレッシュさをあまり明確に感じ取ることができませんでした。これは私の問題かもしれませんが……

 

トロピカル・ハウスとエレクトロを混ぜたような「Tiny Bunny」「Tiny Baby」は前作の「Baby Face」に続くスウィートな路線で、よく出来た曲ではありますが、はたしてオトナになったPerfumeに相応しい曲か?というと微妙な気もしてしまいます。やけに甘いヴォーカルやナンセンスな歌詞も好みが分かれるところでしょう。『⊿』あたりに入っていたら合っていたかもしれない、と思いました。

 

フューチャー・ベース曲の「Let Me Know」についてはこちらのツイートを……

 

 

「TOKYO GIRL」の段階でThe Chainsmokers風味だなと思っていましたが、「All We Know」は2016年の曲で、まったく気づきませんでした。もちろん似ているからダメというわけではありませんよ!

この曲、MVでは〈次世代への魂の継承〉のような作品でしたが、歌詞を読む限り、ヤスタカ先輩からPerfume3人への助言とも取れますね……周りに惑わされず、自分たちらしい道を進みなさい、僕は常に見守っているよという。

ただ、そうなると〈君を取り巻いた空気はいつしか甘い毒の固まり 吸っちゃだめだ〉とか、何を指すのか猛烈に気になってきますが……

 

そして「超来輪」。意味のなさそうなフレーズを並べた言葉遊びが主体で、いわゆるフックソングの発展型という感じですが、フックソング自体はもう2014年に「Cling Cling」で(汎アジア的なメロディーも含めて)やっていますし、決して目新しいアプローチというわけでもありませんので、いまこの曲がはたしてどれくらい聴き手に響くのか、私には図りかねます……

 

「天空」はかなりひさびさの王道ハウスで、『⊿』~『JPN』あたりのPerfumeを思わせますね。アルバムの終盤にもう一盛り上がりほしいな!というヤスタカの意向もあったのでしょうか……

 

 

もちろん新曲を気に入っている方が大勢でしょうし、あくまでも私の感想に過ぎません。しかし、残念ながら新しいユーザー、若いリスナーを惹きつけるような曲がこのアルバムには多くないように感じます。

表題曲「Future Pop」はエキサイティングで申し分ないですし、シングル曲もAlbum-mixがいくつか入っていたらまた違う印象だったのかもしれませんが……アルバム全体はどこか不完全燃焼な思いは拭えません。

 

◇In trend

さて気を取り直して、『Future Pop』は現行のポップ・ミュージック・シーンにおいてどういう位置づけにあるのでしょうか。

 

まずパッと「いまっぽいなー」と思ったのが、収録曲の短さです。

いま、海外ではApple MusicやSpotifyなどの定額制ストリーミングサービスが巨大なマーケットを生み出しています。

追記:2017年の日本のCD市場は約1700億円、ストリーミング市場は約570億円程度ですが、2016年のアメリカ音楽市場におけるストリーミングの売上は40億ドル、2017年は57億ドルまで伸びて、ストリーミングの市場シェアはなんと65%です。

出典:http://www.riaa.com/wp-content/uploads/2018/03/RIAA-Year-End-2017-News-and-Notes.pdf

そこでヒットしているポップ・ソングのプレイリスト(キュレーターやアルゴリズムなどがセレクトした楽曲リスト。このリストから曲を聴く人が非常に多いそう)を見ると、大半の曲は3分台。2分台の曲すらあり、逆に4分を超える曲は少ないです。

これは気軽に曲が飛ばせるストリーミング配信ゆえ、リスナーが飽きてしまう前に曲を終わらせる(あわよくばリピートしてもらう)狙いでしょう。『Future Pop』の12曲で42分というコンパクトさは、この流れに合っています。

補足:以下のような指摘がありました! 確かにそれも当然の話ですね……そこまで気づかなかったけど

 

海外では『Future Pop』がストリーミング配信されています(と書いていたら国内でも配信されました!!)。ストリーミング配信ではプレイリストがリスナーに与える影響が非常に大きく、楽曲プロモーションや収益性の向上、はたまた海外での活動を軌道に乗せるために、どれだけ多くの公式プレイリストに曲を入れてもらえるかが大変重要です。そうなると曲の尺は短い方が望ましいでしょうね。

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Perfumeの曲が入っているSpotifyプレイリスト(一部)。この先も世界各国でのプレイリスト入りが期待されます

 

それでは『Future Pop』のサウンドを、世界的なトレンドと比べると……といっても幅が広いので到底フォローしきれませんが、アメリカを例に挙げますと、2017年のニールセンによる市場調査で初めて〈ヒップホップ~R&B〉が〈ロック〉を追い抜き、アメリカで最も売れた音楽ジャンルになりました。

Spotityの「Today's Top Hits」のようなプレイリストを聞いてみるとバンド・サウンドはほとんど聞こえず、まずはヒップホップ~R&B、そしてメランコリックなシンセ・ポップなんかが多いですね。トロピカル・ハウスやフューチャー・ベースもそれなりに流れます。

BPMはゆったりしたものが中心で、数年前に猛威を振るっていたようなゴリゴリのビッグルーム系EDMは鳴りを潜めています。ヒスパニック向けのスペイン語曲も多いですね。ちなみに『Future Pop』に影がチラつくThe Chainsmokersですが、最新曲ではなぜかダンス・クラシックっぽいアレンジをやってました。

 

以上で述べた程度からの、本当に近視眼な見立てではありますが、『Future Pop』のサウンドは世界的なポップ・ミュージックの時流から近からず遠からず、それなりの距離は保ちながらもきちんと向き合っている、といったところでしょうか。そしてそれはPerfumeがこれまでずっと保ってきたスタンスでもあります。

Spotifyでいま再生回数の多い曲をざっと聞いた限り、そのあたりの雰囲気にもっとも近い(=ヒットする可能性が高そうな)曲は「Let Me Know」かな?と思いました。『Future Pop』の曲たちもこれから多くのプレイリストに入って、世界中のたくさんの人に届くことを願っています。

 

YouTubeが一般化した2005~2006年以降、Perfumeは本人たちが望むと望まざるとにかかわらず、それなりにうまくその波に乗っていたと思います。2016年のNY公演で話す機会があった現地のファンは「YouTubePerfumeを知ったんだ」と異口同音に語ってくれました。しかしストリーミング化の流れにはいまひとつ対応できていない感もあり、現にSpotifyの公式プレイリストのフォロワー数は1800人程度。これはいろいろ事情もあるのでしょうけど、実にもったいないです……

◇Where to go?

いろいろ書いてきましたが、それでは『Future Pop』はいまいちな作品か、というと決してそうとも言い切れません。これまでの作品と比べて不完全燃焼感は拭いきれないのですが、まあそれも好き嫌いの範疇と言えますし、過去の焼き直しに終始することなく、常に新しい道を探そうとする彼女たちの姿はさほど変わらないように思います。

 

何より、中田ヤスタカによるサウンド・デザインはさらに進化を遂げています。タイトルでぶち上げたような、画期的な未来のサウンドではないとしても、音楽的な楽しさはいくらでも見い出すことができそうです。

そもそも音楽は、誰かが一気に革新するものではなく、先人たちが作り上げた長い歴史を踏まえながら、日々少しずつ前に進んでいく文化なのでしょう。 

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『Future Pop』は「Everyday」という曲でフィナーレを迎えます。毎日の、それこそ1日1日が小さな未来とも言えますし、そんな日々の積み重ねが、やがて新たな未来になるのだと思います。

思えば『COSMIC EXPLORER』というとてつもない大風呂敷を拡げたアルバムを、「Hold Your Hand」というとてもスケールの小さな歌で終わらせた中田ヤスタカの作家性が、今回も息づいているように感じます。

 

 

そして何より、Perfumeの音楽は振付とダンスと舞台演出が加わった、ライヴの場でこそ完成するものです。

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秋から始まるツアーを心待ちにして、このやたら長い割にあまりはっきりした物言いがない感想エントリーを締め括らせていただきます!