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Perfumeに特化した音楽ブログ/音楽に特化したPerfumeブログ

第94回 『Future Pop』は傑作か?

Perfume、2年4ヶ月ぶりとなるニュー・アルバム『Future Pop』がリリースされました!

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今回、先行シングルではフューチャー・ベース寄りの楽曲が続いたため、アルバムも現行ダンス・ミュージックの要素を大きく採り入れた、未来的でエッジーなものになるのでは……と予想していましたが、実際に出来上がった作品は3人の歌が前面に出た、まもなく30歳を迎える彼女たちの成熟や落ち着きをも感じさせるものでした。

 

 

今回は『Future Pop』はPerfumeの軌跡において、そして現在のポップ・ミュージック・シーンにおいてどのような位置づけの作品なのかを考えてみます。

 

◇Rewind

これまでPerfumeは、ただ単にルーティン(1年に1枚アルバムを作る、といったレコード契約)でアルバムを発表するのではなく、リリースの間隔を長めに取りつつ、常にその時々における国内外のポップ・ミュージックとの同時代性、批評性、独創性、Perfumeを巡る状況などをアルバムに落とし込んできました。

その作風には、いわゆる〈振り子理論〉――あるアルバムの次に、あえて大きく色合いの異なる作品を発表して、表現に振れ幅を持たせること――も窺えます。エレクトロ・ハウスとチューン・ヴォイスを武器にポップネスを追究した、ある意味シンプルな作風でもあった『GAME』から、一気に音楽性の幅を拡げたカラフルな『⊿』ができたり、〈3.11〉後の日本社会を励ます超ポップな『JPN』の次作が、どこかマシーナリーで実験的な要素も含むダンス・アルバム『LEVEL3』だったり。

批評性という点でも、世界(からだいぶ遅れて日本でも発生した)EDMブームを軽々と(それこそ宇宙まで)飛び越えたコンセプチュアルな『COSMIC EXPLORERもありましたね。

Perfumeのアルバムは常に、それまでのPerfume作品になかったアプローチで、新たな表現領域を切り拓いてきました。そしてそのディレクションやプロデュースを基に、歌唱とサウンドで織り成す楽曲の飛び抜けた質の高さこそPerfumeの魅力の核であり、中田ヤスタカの才気の表われでした。物語性やメンバーの関係性はここではおいておきます。

 

その意味で、今回の『Future Pop』はというと……

 

◇Start-Up

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アルバムはスケールの大きな、ゆったりしたインスト「Start-Up」で幕を開けます。ごく小さい音量で聞こえる鳥のさえずり〈爽やかな朝〉や〈新しい1日の始まり〉をイメージさせます。アルバムの導入部からこういうアンビエンス(環境音)を入れてくるのは珍しいですね。メロディーは「無限未来」が流用されていて、あの曲がアルバムのキーであることを示唆します。

続いて表題曲「Future Pop」。「Start-Up」でのシンセのシーケンスに少し似たコード進行の、これまた珍しいアコースティック・ギターの音色で始まります。かしゆかが歌い出すと三味線のフレーズが重なって、これは当然「スパイス」を連想しますし、8ビットなSEはリニアモーターガール」「コンピューターシティ」「エレクトロ・ワールド」……いわゆる〈近未来3部作〉テクノポップ路線を彷彿とさせます。

 

最初は、あれあれ何かやたらと過去を参照してない?(まあ8ビットなピコピコ音は最近のK-Popでもちょいちょい採り入れてるけど)と思ったのですが、3人がユニゾンで歌う〈♪叶えて ほら Future Pop〉からビルドアップに入ると一気に加速! ドロップ(サビっぽいけど歌の入ってない間奏)ではトランシーなシンセに、なんと「ポイント」以来となるドラムンベース! 意外性もスリリングさも肉体性も兼ね備えていて、端的に言って最高ですよ!

そのままもう一度サビに入り、さらにアゲていく!と見せかけていきなりビートを止めて、また淡々とした4つ打ちから始めたりと、緩急の付け方も見事です。ヤスタカお主やるな……!!

 

ちなみに「Future Pop」、この曲(の3分前後から)にも似ていますね……この曲は『Future Pop』リリース直前に発表されたようで、偶然のようですが。

そしてこの表題曲、完成度も高く非常に素晴らしいですが……

残念ながら個人的には、ここがこのアルバムのピークのように感じてしまいました。

 

◇SINGLES

アルバム『Future Pop』のうち、「If you wanna」「TOKYO GIRL」「FUSION」「無限未来」「宝石の雨」「Everyday」の6曲(つまりアルバム収録曲の半分)はシングル曲およびそのカップリングです。これまでのPerfumeは、先行シングルのカップリング曲でアルバムに収録しないものもありましたが(直近では「透明人間」「DISPLAY」など)、今回はカップリング曲までもれなく収録しています。「TOKYO GIRL」はリマスタリング(音の再仕上げ)がされていますね。

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一方、既発曲をリアレンジして、作品の世界観を拡張する役割も担っていた恒例のAlbum-mixは、今回1曲もありません。「レーザービーム」「GLITTER」「Cling Cling」「FLASH」などは、Album-mixが断トツの出来だったと思うのですが。

 

少し脱線しますと、いまシングルをCDで出す人は徐々に減っています。宇多田ヒカルMr.ChildrenONE OK ROCKBUMP OF CHICKENいずれ劣らぬ超人気者ですが、近年この方々のシングルリリースはダウンロード販売かストリーミング配信のみになっています。星野源も新曲「アイデア」はダウンロード販売ですね。

米津玄師「Lemon」、DA PUMP「U.S.A.」も、シングルCDは出てこそいますが、オリコン業務版を見るとダウンロード販売がCDの何倍ものセールス(=拡がり)を記録しています。

一方、アルバムとなるといまだにCDの比重が大きく、CD:配信の売上比率は4:1~8:1くらいのケースをよく見かけます。先行シングルは配信で聴いて、アルバムはCDで買うというリスナーが結構多いのですね。

 

つまり、アルバムから先行して楽曲を届ける場合、手間暇かけてシングルCDを制作しなくても、ネット配信で事足りる状況になっているわけです(おそらくは収益性の面でも)。シングルCDを出すこと自体に、何かしらの意味や目的が問われる時代になりつつある、とも言えます。

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普通にシングルCDを出して、コアファンが購入するだけでは、一部のファンとのコミュニケーションにはなっても、新たな拡がりはなかなか見込めません。

そんなご時世に、先行シングル曲とそのカップリングを〈シングルバージョンのまま〉〈全曲〉アルバムに収録することは、あまり得策ではないように感じます。シングルをすべて買っているファンは「もう何度も聴いた曲ばかり」「なんだ、これならわざわざシングル買わなくても良かったかな?」と思いかねません。

 

もちろんきちんとした狙いや考えがあって、このような収録内容に落ち着いたはずですし、どのシングル曲も〈新しいPerfume像〉を提案するもので、決してクオリティーは低くありません。

 

しかし個人的には、多くの既発曲をそのまま収録したことで、アルバムならではの意外性や発見、驚きが薄れてしまったように感じます。

 

◇NEXT STAGE...?

このアルバムで初披露の楽曲は、イントロと表題曲を除けば「Tiny Bunny」「Tiny Baby」「Let Me Know」「超来輪」「天空」です。 

 

私は……あまり書きたくないなぁこの先……えーと、Perfumeのアルバムで初めて、

  

「あれ……なんか、楽曲がパワーダウンしてる……?」と感じてしまいました。

 

 

前にどこかで聞いたような気がしたり、メロディーも曲調もそこまで印象に残らなかったり。サウンドのデザイン自体はいつにも増して凝っていますし、おもしろくないわけではありませんが、Perfume×ヤスタカらしいイデアや独創性、フレッシュさをあまり明確に感じ取ることができませんでした。これは私の問題かもしれませんが……

 

トロピカル・ハウスとエレクトロを混ぜたような「Tiny Bunny」「Tiny Baby」は前作の「Baby Face」に続くスウィートな路線で、よく出来た曲ではありますが、はたしてオトナになったPerfumeに相応しい曲か?というと微妙な気もしてしまいます。やけに甘いヴォーカルやナンセンスな歌詞も好みが分かれるところでしょう。『⊿』あたりに入っていたら合っていたかもしれない、と思いました。

 

フューチャー・ベース曲の「Let Me Know」についてはこちらのツイートを……

 

 

「TOKYO GIRL」の段階でThe Chainsmokers風味だなと思っていましたが、「All We Know」は2016年の曲で、まったく気づきませんでした。もちろん似ているからダメというわけではありませんよ!

この曲、MVでは〈次世代への魂の継承〉のような作品でしたが、歌詞を読む限り、ヤスタカ先輩からPerfume3人への助言とも取れますね……周りに惑わされず、自分たちらしい道を進みなさい、僕は常に見守っているよという。

ただ、そうなると〈君を取り巻いた空気はいつしか甘い毒の固まり 吸っちゃだめだ〉とか、何を指すのか猛烈に気になってきますが……

 

そして「超来輪」。意味のなさそうなフレーズを並べた言葉遊びが主体で、いわゆるフックソングの発展型という感じですが、フックソング自体はもう2014年に「Cling Cling」で(汎アジア的なメロディーも含めて)やっていますし、決して目新しいアプローチというわけでもありませんので、いまこの曲がはたしてどれくらい聴き手に響くのか、私には図りかねます……

 

「天空」はかなりひさびさの王道ハウスで、『⊿』~『JPN』あたりのPerfumeを思わせますね。アルバムの終盤にもう一盛り上がりほしいな!というヤスタカの意向もあったのでしょうか……

 

 

もちろん新曲を気に入っている方が大勢でしょうし、あくまでも私の感想に過ぎません。しかし、残念ながら新しいユーザー、若いリスナーを惹きつけるような曲がこのアルバムには多くないように感じます。

表題曲「Future Pop」はエキサイティングで申し分ないですし、シングル曲もAlbum-mixがいくつか入っていたらまた違う印象だったのかもしれませんが……アルバム全体はどこか不完全燃焼な思いは拭えません。

 

◇In trend

さて気を取り直して、『Future Pop』は現行のポップ・ミュージック・シーンにおいてどういう位置づけにあるのでしょうか。

 

まずパッと「いまっぽいなー」と思ったのが、収録曲の短さです。

いま、海外ではApple MusicやSpotifyなどの定額制ストリーミングサービスが巨大なマーケットを生み出しています。

追記:2017年の日本のCD市場は約1700億円、ストリーミング市場は約570億円程度ですが、2016年のアメリカ音楽市場におけるストリーミングの売上は40億ドル、2017年は57億ドルまで伸びて、ストリーミングの市場シェアはなんと65%です。

出典:http://www.riaa.com/wp-content/uploads/2018/03/RIAA-Year-End-2017-News-and-Notes.pdf

そこでヒットしているポップ・ソングのプレイリスト(キュレーターやアルゴリズムなどがセレクトした楽曲リスト。このリストから曲を聴く人が非常に多いそう)を見ると、大半の曲は3分台。2分台の曲すらあり、逆に4分を超える曲は少ないです。

これは気軽に曲が飛ばせるストリーミング配信ゆえ、リスナーが飽きてしまう前に曲を終わらせる(あわよくばリピートしてもらう)狙いでしょう。『Future Pop』の12曲で42分というコンパクトさは、この流れに合っています。

補足:以下のような指摘がありました! 確かにそれも当然の話ですね……そこまで気づかなかったけど

 

海外では『Future Pop』がストリーミング配信されています(と書いていたら国内でも配信されました!!)。ストリーミング配信ではプレイリストがリスナーに与える影響が非常に大きく、楽曲プロモーションや収益性の向上、はたまた海外での活動を軌道に乗せるために、どれだけ多くの公式プレイリストに曲を入れてもらえるかが大変重要です。そうなると曲の尺は短い方が望ましいでしょうね。

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Perfumeの曲が入っているSpotifyプレイリスト(一部)。この先も世界各国でのプレイリスト入りが期待されます

 

それでは『Future Pop』のサウンドを、世界的なトレンドと比べると……といっても幅が広いので到底フォローしきれませんが、アメリカを例に挙げますと、2017年のニールセンによる市場調査で初めて〈ヒップホップ~R&B〉が〈ロック〉を追い抜き、アメリカで最も売れた音楽ジャンルになりました。

Spotityの「Today's Top Hits」のようなプレイリストを聞いてみるとバンド・サウンドはほとんど聞こえず、まずはヒップホップ~R&B、そしてメランコリックなシンセ・ポップなんかが多いですね。トロピカル・ハウスやフューチャー・ベースもそれなりに流れます。

BPMはゆったりしたものが中心で、数年前に猛威を振るっていたようなゴリゴリのビッグルーム系EDMは鳴りを潜めています。ヒスパニック向けのスペイン語曲も多いですね。ちなみに『Future Pop』に影がチラつくThe Chainsmokersですが、最新曲ではなぜかダンス・クラシックっぽいアレンジをやってました。

 

以上で述べた程度からの、本当に近視眼な見立てではありますが、『Future Pop』のサウンドは世界的なポップ・ミュージックの時流から近からず遠からず、それなりの距離は保ちながらもきちんと向き合っている、といったところでしょうか。そしてそれはPerfumeがこれまでずっと保ってきたスタンスでもあります。

Spotifyでいま再生回数の多い曲をざっと聞いた限り、そのあたりの雰囲気にもっとも近い(=ヒットする可能性が高そうな)曲は「Let Me Know」かな?と思いました。『Future Pop』の曲たちもこれから多くのプレイリストに入って、世界中のたくさんの人に届くことを願っています。

 

YouTubeが一般化した2005~2006年以降、Perfumeは本人たちが望むと望まざるとにかかわらず、それなりにうまくその波に乗っていたと思います。2016年のNY公演で話す機会があった現地のファンは「YouTubePerfumeを知ったんだ」と異口同音に語ってくれました。しかしストリーミング化の流れにはいまひとつ対応できていない感もあり、現にSpotifyの公式プレイリストのフォロワー数は1800人程度。これはいろいろ事情もあるのでしょうけど、実にもったいないです……

◇Where to go?

いろいろ書いてきましたが、それでは『Future Pop』はいまいちな作品か、というと決してそうとも言い切れません。これまでの作品と比べて不完全燃焼感は拭いきれないのですが、まあそれも好き嫌いの範疇と言えますし、過去の焼き直しに終始することなく、常に新しい道を探そうとする彼女たちの姿はさほど変わらないように思います。

 

何より、中田ヤスタカによるサウンド・デザインはさらに進化を遂げています。タイトルでぶち上げたような、画期的な未来のサウンドではないとしても、音楽的な楽しさはいくらでも見い出すことができそうです。

そもそも音楽は、誰かが一気に革新するものではなく、先人たちが作り上げた長い歴史を踏まえながら、日々少しずつ前に進んでいく文化なのでしょう。 

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『Future Pop』は「Everyday」という曲でフィナーレを迎えます。毎日の、それこそ1日1日が小さな未来とも言えますし、そんな日々の積み重ねが、やがて新たな未来になるのだと思います。

思えば『COSMIC EXPLORER』というとてつもない大風呂敷を拡げたアルバムを、「Hold Your Hand」というとてもスケールの小さな歌で終わらせた中田ヤスタカの作家性が、今回も息づいているように感じます。

 

 

そして何より、Perfumeの音楽は振付とダンスと舞台演出が加わった、ライヴの場でこそ完成するものです。

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秋から始まるツアーを心待ちにして、このやたら長い割にあまりはっきりした物言いがない感想エントリーを締め括らせていただきます!