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Perfumeに特化した音楽ブログ/音楽に特化したPerfumeブログ

第13回  「考えるヒット」から考える、四つ打ちとPerfume

◆考えるヒット
週刊文春の9月6日号、近田春夫さんの音楽評連載「考えるヒット」では〈現行ポップス・シーンにおける四つ打ち〉、そしてPerfumeの「Spending all my time」について考察されていました。
このブログも実のテーマはPerfumeを切り口に古今東西の音楽について書く〉ですので(そうだったの?)近田さんの原稿を引用させていただきつつ、〈四つ打ちとPerfumeについて書き進めて参りますよー。軽く4000文字以上ありますが、今回は前編・後編には分けません。よろしくお付き合いいただけましたら嬉しいです。

毎回「考えるヒット」では2枚のシングルCDを俎上に載せています。まず1枚目はmiwaさんの「ヒカリヘ」。記事内の紹介文を引用しましょう。

「彼女9枚目のシングルは四つ打ちのダンスエレクトロサウンドに初挑戦。フジテレビ月9ドラマ主題歌としても話題」


えっ月9のドラマ主題歌に〈ダンス〉とか〈エレクトロ〉の文字が並ぶなんて……でもよく考えれば別に変でもなく、海外のEDMフィーヴァーを考えればむしろ遅きに失した感すらあるけど、それはさておき近田さんの原稿を引用します。

「曲が始まった途端、アレッと思うぐらい全然ダンスっぽくない。(中略)――このイントロでは客は勇んでフロアには降りてこないだろう――フォーキーな佇まいのあるサウンドプロダクションだったのである」

確かに、miwaさんらしいアコースティックな質感の、穏やかな音作りです。〈客は勇んでフロアには降りてこない〉というのは確かに(笑)

「歌になっても様相の変化はそれほど見られず、ただ軽くエフェクトをほどこしたヴォーカルの解釈にエレクトロな主張は感じられるにせよ、“ビートがなんにも仕事してない”状態が結構続くよね……。などと思っているうち突然〈ドッドッドッドッ〉とキックが加わってきて、たしかにこの曲は四つ打ち向きなテンポだったと気付かされもするが、曲そのものの印象が変わるわけではない」

「フォーキーといえばやはりフォーキーだろうし、一般に言うダンス・ミュージックとはなにかしら微妙に価値基準の異なるところがある。“踊るより聴いて”というプライオリティがサウンドから感じられるからかもしれない」
「そう捉えるとまた曲の楽しみ方も変わってくる。四つ打ちで踊らない曲があったって構わないんだったら。固定観念さえ捨てれば、このビートは水っ気のないアーティストにも案外フィットしそうなものに思えてくる」

と、ここまでがmiwaさんへの評論です。近田さんがダンス・ミュージック・リスナーとして聴いたこの四つ打ち曲は、あまり馴染みのないタイプの模様。そして、記事の核心部分である〈四つ打ちそのもの〉への考察が始まります。

◆四つ打ちの魅力とは?
「“四つ打ち”はただただ延々と続くだけでもフィジカルに心地いい。ほかのビートにそういう効き目がないとはいわないが、打ちこまれたひとつのリズムパターンを飽きずにずーっと聴いていられるかを競い合えば、おそらく四つ打ちを凌ぐものはないだろう。そして(私見ではあるが)それはもうこのさきずっと変わらないと思う。これより〈人工的かつ原始的〉な基本リズムパターンはいまだ誰にも作り出せていないのだ」

ちなみにこのブログでも、サマソニで観たピットブルの〈徹頭徹尾アゲていくビート〉をプリミティヴ、つまり原始的だと書いたので、我が意を得る思いです(近田さんありがとうございます!絶対見てないけど!。音楽にはいろいろな効用・機能がありますが、ビートだけでリスナーを昂揚させる機能は、いまや四つ打ちがもっとも優勢でしょう。ここはロック・バンドにもがんばってほしいのですが……さておき、引用を続けましょう。

「いずれすべてポップ・ミュージックが四つ打ちに収斂していってしまうとまではいわないが、無関係でいられなくなるのだけは間違いないだろう」
「『ヒカリヘ』の“ダンスを一義としないようにも見える四つ打ち”というスタンスには色々な可能性が秘められている気がしてならないのだ。この流れってサカナクションあたりから始まってるのかなぁ。なんか増えてきそうだよ、フォーク系四つ打ち! てか、そうなったら、結構面白いよねJポップも

昨今のJポップにおける〈ダンス・ミュージックの浸透〉は、サカナクションの功績もあるかもしれませんが、むしろK-Popの隆盛(当然そのネタ元はUS~ヨーロッパ)に引っ張られたのでは?

そして、少し遡れば90年代以降の石野卓球さんによる精力的なテクノ啓蒙活動があり、90年代中盤には小室哲哉さんによるダンス・ミュージックが社会現象的ヒット。2000年前後にはスーパーカーやくるりといったロック・バンドがテクノ~ハウス~トランスへアプローチしました。このへんの流れが、いまに繋がる基礎になっていると思います(もっと遡れるとも思いますが)。

◆海外における四つ打ちの変遷
一方、海外では四つ打ちの人気はずーっと前から続いています。簡単にまとめてみましょう。

70年代中盤にニューヨークで生まれたディスコの大ブームから、80年代にシカゴでハウスが、デトロイトでテクノが発明されました。

そしてUKに渡った四つ打ちは一気に(US本国よりも)浸透し、80年代後半にレイヴ、そしてマッドチェスターのブームを生んでいます。プライマル・スクリームによる91年の超傑作アシッド・ハウス盤『Screamadelica』も外せません。

90年代後半以降はダフト・パンク(フランス)にアンダーワールドケミカル・ブラザーズプロディジー(以上UK勢)などのダンス・アクトが大ヒット。また、四つ打ちから派生したドラムンベース2ステップ(UKガラージ)もブームになりました(そしてこれがダブステップに繋がる)。

このように、四つ打ち(に代表されるダンス・ミュージック)はヨーロッパでずっと支持されてきたのです。

(注:この部分、事実関係の確認および解釈の誤りがあったため、追って訂正いたします。申し訳ありません!)

(追記:この流れを、その多面性も含めて間違いのないように紹介することは、非常に難しいと理解しました。力不足でお恥ずかしい限りですが、上記の部分は撤回させて下さい)


そんなヨーロッパのダンス・ミュージックの活況が、USのヒットチャートに伝わり始めたのが2007年以降。かなり時間が掛かったわけですね。ノルウェイのプロデューサー・チーム、スターゲイトが手がけたニーヨの「Because Of You」、リアーナがユーロ~トランス方面に踏み込んだ『Good Girl Gone Bad』、そしてブラック・アイド・ピーズの『The E.N.D』やデヴィッド・ゲッタ『One Love』といったEDM路線のアーバン系作品の人気が爆発し、現在の〈EDM〉ブームまで繋がるのです…とか言いつつ、詳しい方、間違っていたらご指摘をお願いします!!

◆Electro World
四つ打ちのダンス・ビートがUSメインストリームに浸透する以前の2006年、すでに日本ではダンス・ミュージックのトレンド(当時はエレクトロ)を察知して、それを採り入れたブランニューなポップ・ミュージックを作る人たちがいました。

他でもないPerfumeです。

「コンピューターシティ」「エレクトロ・ワールド」は、そのチューン・ヴォイスも含めて、当時のどのロック・バンドよりもラディカルでプログレッシヴに聞こえました(でも「エレクトロ・ワールド」は、2012年に聴くといささかデジロック気味)

数多のバンドがたどり着けなかった(もしくはたどり着こうともしていなかった)領域へ一気に達したのが、さっぱり売れず、まさしく崖っぷちにいたマイナー女性アイドルだったことは実にアイロニカルです。

そして宇多丸さんや掟ポルシェさんをはじめ、多くのファンの熱心な支えを受けた彼女たちがかろうじて活動を繋ぎ、そして現在へと至る軌跡は、宇多さん言うところの〈アイドル界最後の希望〉が奇跡(と言っていいはず)を起こしていく〈物語〉でもあります。


宇多丸さんといえば…

先日発行されたミュージック・マガジン「アイドル・ソング・クロニクル 2002-2012」で、宇多さんも〈私が選ぶアイドルソング10曲〉で参加しています。そこで氏が選んだPerfumeの曲は「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」!! もし僕が同じ立場なら、間違いなくこの曲を選びます。

所属レコード会社との〈契約終了〉が現実のものになりつつあったPerfumeに、中田ヤスタカが(おそらくは相当の想いを込めて)贈った、エレクトリック・ピアノが煌めくセンチな歌謡ハウス。ここからPerfume革命的な快進撃が始まること、そしてこの時期のメンバーたちを象徴するような寓意を含む歌詞も合わせて、Perfume史の分水嶺として刻まれるべき重要曲だと思います。

余談ですが、僕はいまだに〈君はPerfumeのストーリーを引きずりすぎている〉と言われます。でも〈メンバー3人の敗者復活〉だけじゃなく、ここまでの音楽的な文脈も踏まえたうえでのストーリーだと捉えているので、それは引きずります! 引きずり続けますよ多分。

◆ふたたび考えるヒット
さて、好きなだけ話がそれ続けていましたが、「考えるヒット」2枚目のシングルはPerfume「Spending all my time」です! さあ近田さんはどう書いているのでしょうか!?



「さて四つ打ちといえばPerfume。狙いなのか単に出来がイマイチなのか、何かつかみどころのない感じがして、その一種煮え切らなさが結果的には妙にクセになる、という構造かな」
「とにかく今までと何かが違う楽曲なのはたしかである」

……まぁ、ずいぶんあっさり終わってますけどね。
「Spending~」は、こういうEDM直系のサウンドが日本のヒットチャートでトップ争いをするのは(K-Pop以外では)まだ珍しいので、〈国内市場向け〉としてはなかなかイイんじゃないかなーと思ってます。これを機に日本でもEDMブームが来るかもしれないですし。

メロディーには中毒性がありますし、歌詞が2フレーズの繰り返しだけなのもミニマルでおもしろい。シングルには他の2曲もあるし、この曲に無理して日本語詞を追加しなくても良かったんでは、というのが私見です。

 

最近のTV出演も追えるものは追っていますが、今回は「Hurly Burly」しかやらないのかな? あの曲も割と奇妙な作りでおもしろいけど、それだけじゃもったいない。〈ポップスとして受け入れられる音楽の幅を拡げたい〉というヤスタカの目論見を窺わせる「ポイント」もぜひ披露してほしいです。全国のお茶の間でドラムンベースがドカドカ打ち鳴らされたら、さぞ痛快でしょう。

なにしろ〈カワイイ女の子がフレッシュでカッコいい音楽をやる〉という、アイドル・ポップの醍醐味を更新し続けてきたのがPerfumeですから。