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Perfumeに特化した音楽ブログ/音楽に特化したPerfumeブログ

第89回 「If you wanna」と「TOKYO GIRL」とフューチャー・ベース

先日のSONICMANIAのラストで立て続けに披露された、2つの新曲「TOKYO GIRL」と「If you wanna」。ここにPerfume的に新機軸といえる〈フューチャー・ベース〉が導入されているのでは、と前回のエントリーでは書きました。

 

 

 

「If you wanna」のTVプロモーションでも〈フューチャー・ベースという新しいサウンドという押し出し方がされていますね。

 

ちなみに、私が初めて「If you wanna」を聴いた瞬間に連想したのはこの曲です。

よもやPerfumeを聴いてデヴィッド・ゲッタを連想する日が来るとは……とはいえ、共通点としては

1:スタートからしばらくは音数も少なく抑制的

2:ビルドアップ(シンセの音程を徐々に上げたり、ビートを倍速にしたりしてアゲていくパート)を経由して間奏へ

3:ドロップと呼ばれる、サビっぽいけど歌のない間奏ではシンコペート(リズムや拍子をあえてずらす)した派手なシンセでピークを作る→また抑制的に戻る

4:3分ちょっとで短い

という楽曲の構造がよく似ているなー、という程度でした。

 

その後いろいろ聴いてみたら、「If you wanna」の間奏ほぼそのまんまな曲もありました(1分20秒~)。2015年末に発表されたトキモンスタのリミックスです。他にもいろいろありそうですね。余談ですが、2014年のTomorrowWorld(アトランタで開催されたダンス系フェス)でトキモンスタ観ました。音は尖っていたけどご本人はキュートでした。

 

そして、私が「TOKYO GIRL」を聴いて連想したのはこの曲です。

2015年発表の言うまでもない超有名曲ですが、これも音数の少なさ、シンコペートしたキック、ビルドアップからサビに向かう構成が特徴です。

「TOKYO GIRL」はあきらかに〈ザ・チェインスモーカーズ以降〉を意識したプロダクションだと感じました。

 

ここに貼った3曲は、いずれも〈フューチャー・ベース(系)〉と括られているようです。そうなると「If you wanna」「TOKYO GIRL」はフューチャー・ベースを採り入れたり、その影響下にあるサウンドと位置づけられます。

※「TOKYO GIRL」は、あくまでもフューチャー・ベース(のポップ化)を踏まえた楽曲という解釈で、シンセなどの上物がわかりやすく〈それっぽい〉わけではありませんが、キックのパターンにはフューチャー・ベースの要素を含むと捉えています

 

 

それでは、フューチャー・ベースとは何でしょうか?

 

〈EDM系トラップ〉通過後の、ドリーミーでキラキラしたシンセとシンコペートしたキック?

ゲーム音楽っぽい音色や、ドロップでのド派手なシンセ?

メリハリの利いた曲構造?

 

これで大体合ってると思うんですが……はたしてそれだけなのかな? そもそもフューチャー・ベースってどういう由来?と思ったので調べました。その結果が今回のエントリーです。

これは〈私が調べてみたらこうだった〉というだけで、憶測も飛躍も偏りも見落としもあると思いますが、むしろ識者の方々にそのご指摘をいただきたく、あえてアップします。

このブログで肝に銘じているのが〈よく知らないことは書かない〉ですが、今回だけは脇に置きます笑

 

◇(Future) Bass Music

実はフューチャー・ベースという単語、ここ数年で降って湧いたものではありませんサウンドの明確な定義もなかなか困難です。ググってみたら、単語としては2009年頃にはすでに使われていた形跡がありました。Perfume史でいえば『⊿』の頃ですね……

 

以下、いくつかのCD作品を参考に、それを勝手な思い込みで繋げてフューチャー・ベースの軌跡を考えてみます。

 

まず外せないのが、UKのソウル・ジャズ・レコーズ(※世界一信頼できるレーベル)から2010年9月にリリースされた、その名も『Future Bass』というコンピレーションです。

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サウンドとしての〈フューチャー・ベース〉を謳った作品として最古の部類でしょう。内容は、当時〈ポスト・ダブステップと呼ばれていたベース・ミュージック(解説ページはこちら)の見本市です!

……が、この辺は危険なほど知識がないため、以下ベース・ミュージック ディスクガイドより抜粋させていただきます。

 

ダブステップ:ジャングル~ドラムンベース、UKガラージ~2ステップ、グライムなどを元に、2000年代序盤のUKクラブ・シーンで生まれたビート・ミュージック。ヘヴィーなベースとシンコペートしたキックが特徴

ポスト・ダブステップダブステップにテクノやハウス、エレクトロニカ、ジャズなどをミックスしたサウンド

 

コンピ『Future Bass』は、世界的なムーヴメントになったダブステップが多様化し、過渡期を迎えた当時のドキュメンタリー的な一枚で、いま言われるようなフューチャー・ベースとは異なりますが、ここで聴けるビートのパターンやサウンドの音色は、2017年(のフューチャー・ベース)と地続きになっています。

 

また、これに先んじて2010年4月にはサブ・フォーカスというドラムンベースのアーティストが『Future Bass!』というコンピを雑誌の付録として発表しています。あいにく現物を聴けていませんが、ポスト・ダブステップドラムンベース、エレクトロ系の選曲のようですね。

これらのコンピから察する限り、2010年頃のフューチャー・ベースは〈ベース・ミュージックの未来はここにある〉というステートメントのような使われ方だったみたいです。ソウル・ジャズのサイトにある紹介文も〈Future Music! Future Bass!〉とハイテンションでした。

 

◇Bass To The Future

2012年9月には、UKを代表するレーベルのミニストリー・オブ・サウンドからも『Future Bass』というコンピが登場します。

ここで見逃せないのが、ラスティーとハドソン・モホークがピックアップされていること。ふたりとも、スコットランド出身の若きトラックメイカー/DJ/プロデューサーです。

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彼らのサウンドレイヴ(解説ページはこちら)ダブステップ、ヒップホップ、テクノなどの影響が濃いのですが、ここでのラスティーはすでに現行のフューチャー・ベースにかなり近いサウンドですし、ハドソン・モホークが組んでいたトゥナイト(TNGHT)というユニットはその後のEDM系トラップの隆盛に繋がって、その流行りが現行のフューチャー・ベースに至ると見ています。

そういう意味だと、最初にフューチャー・ベース(と現在呼ばれるサウンド)の流れを作ったのはラスティーなんでしょうか?

 

また、同じく2012年にはザ・ポップ・グループという超重要バンドを率いるマーク・ステュワートがソロ・アルバム『The Politics Of Envy』を発表しました。彼はこの作品に関するコメント(下記リンク先)で、ブリストルの新世代が作るベース・ミュージックをフューチャー・ベースと定義しており、そのビートやシンセの音色はやはり2017年の現在に通じています。

このように2012年のUKではすでにフューチャー・ベースが生まれていたと言えそうです。その後ミニストリー・オブ・サウンド2014年2015年にも『Future Bass』を冠したコンピを出すものの、ベース・ミュージック色が後退してハウス~UKガラージ系の選曲になっていました。2012年版の方向性を続けてくれれば、非常におもしろいシリーズになった気がするのですが、どうしてそうなったのか……

 

◇#Future bass

憶測ですが、フューチャー・ベースという用語は、2013年頃からSoundCloud(音声ファイルの共有サービス)経由で広まったのではないでしょうか?

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SoundCloudのプレイリストをハッシュタグ #Future bassで検索すると、2013年の後半からこのタグが付けられた投稿が増加しています。

とはいえ、まだそこではフューチャー・ベースとEDM系トラップの差はあまりはっきりしていないようで、フューチャー・ベースが「If you wanna」で聴かれるような特徴を持つようになったのは2015年以降と見ています。派手派手なビッグルーム系が幅を利かせる状況への反動として、EDMの多様化が進み、なかでもEDM系トラップが流行する一方、ドリーミーでチルアウトでメランコリックなサウンドも増えていった時期ですね。

ちなみに、2014年のTomorrowWorldではEDM系トラップは結構流れていましたが、フューチャー・ベースのようなサウンドはついぞ耳にしませんでした。

 

EDM系トラップの人気ドリーミーなサウンド志向、このふたつの流れが合わさって生まれたのがフューチャー・ベースではないか、というのが(やや強引で安直ですが)私の推論です。

 

 

とはいえ、いまでもフューチャー・ベースとEDM系トラップの明確な違いはそこまで大きくないと感じますし、逆に〈フューチャー・ベースはこういうサウンド!〉みたいに類型化させず、いろんな要素が混ざったり、作り手の個性が出ている方が音楽としてはおもしろい部分もあるのですが……

 

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↑フルーム

 

2016年以降は、フューチャー・ベースがメインストリームにも浸透(=トレンド化)して、前述のデヴィッド・ゲッタ、ザ・チェインスモーカーズ以外にもマーティン・ギャリックス、ナーヴォ、イエロー・クルーあたりもフューチャー・ベースを採り入れた曲を発表しています。

 

そしてオーストラリア出身のフルームによる2016年作『Skin』が今年のグラミー賞で〈ベスト・ダンス/エレクトロニック・アルバム〉を獲得し、USのマーケットでも一気にフューチャー・ベースが〈グラミーのお墨付き〉として広まりそうな感もあります。

 

このような流れでいまのフューチャー・ベースがあり、そしてPerfume「If you wanna」に至るのかな、といったところです。

 

Perfumeというアイコン(そしてアイドル)を通して、日本のポップ・ミュージックのモードをアップデートしようとする、もしくはそこまで大それたものではなくても、折々の目新しいサウンドをキャッチーかつ独創的に仕立てて提案していくという、中田ヤスタカのラディカルなチャレンジ精神はますます軒昂です。

やはりPerfume最大の魅力は、新しくておもしろいことに次々挑戦して、進化を続けているところなのでは、と改めて認識した次第です。

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結論:Perfumeやっぱ最高!!!!!

 

 

◇Outro

以上、拙いフューチャー・ベース論をお届けしました。御意見・ツッコミなどお待ちしております。

 

今回、思い切ってこのテキストを書いた理由は、それこそダブステップやEDMが流行ったときに、その背景や文脈や多様性など一切頓着せず、ただただ記号的にありがたがる向きが一部メディアやユーザーから感じられたからです。

今回のフューチャー・ベースではその轍を踏まないよう、どこか音楽雑誌やWebサイトがバシッと解説しないかな、でもどうも誰もやらなさそう……という予感がして、調査を始めました。

 

そしてテキストを書き進める最中、まさにヤスタカが表紙のサウンド&レコーディング・マガジン 2017年10月号」フューチャー・ベースの解説がなされているのを発見いたしました笑

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https://www.rittor-music.co.jp/magazine/sound-recording/

 

あれ……てことは、私はお呼びじゃなかった?と割と悟ったのですが、解釈もちょっと違うし、もう結構書いてしまったから最後までやり切るか!と書き上げました。

 

でもこのテキストも、私なりの「覚悟」と「正しさ」とかいうもの?で作り上げたかもしれないので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます!