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Perfumeに特化した音楽ブログ/音楽に特化したPerfumeブログ

第39回 Perfume FES!! 石川公演に寄せて ~宇多丸さんとPerfume その1~

私がブログを始めた理由の一つに、Perfumeブログってものすごくたくさんあるけど、私しか書こうとしないエントリがあるはず、ということで。今回はたぶんそのひとつです。

◆ライムスターイズインザハウス

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2014年4月7日、石川・本多の森ホールで開催されるPerfume FES!!、Perfume×ライムスター。あ~ちゃんが「血迷っとった」という時期からのPerfumeファンなら、ライムスターのメンバー・宇多丸さんとの縁もご存じの方が多いはず。でも若いファンの方々には、あまり知られていない気がします。

今回は、あ~ちゃん言うところの「アーティストの中で、たぶんいちばん早く、私たちのことを好きだとメディアで言って下さった」宇多丸さんが、雑誌やラジオで行ってきたPerfume評を総括してみます。

◆マブ論

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まずはこれを書かねば始まりません。現在も雑誌『BUBKA』で絶賛連載中の「マブ論」。単行本「マブ論CLASSICS アイドル時評2000-2008」でまとめられていますが、そこで宇多丸さんがPerfumeをどう取り上げたかを引用させていただきます。

BUBKA 2004年5月号『モノクロームエフェクト』

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うーむ、きっちり10年前ですね……(軽く衝撃)。この号でPerfumeが初登場。『モノクロームエフェクト』を〈サウンドおよびリリックに80'sテクノ・ポップ路線を徹底したことで、希少価値と呼ぶのが相応しい独自の存在感を確立している〉と評しています。なお、中田ヤスタカを〈余りにも屈託のないピチカート・フォロワーぶりで知られる〉と書いているあたりに時代を感じますね。評価は4マブ(最高は5マブです)。

2004年11月号『ビタミンドロップ』

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アイドルポップには厳しい時代という認識の元、〈身の丈に合わせた小規模展開であれ、作品的に焦点が定まったものを出し続けている、という意味では、実際このPerfumeの右に出るグループは目下いないのでは〉。『ビタミンドロップ』を〈『モノクロームエフェクト』からさらにブラッシュアップされた80'sテクノポップ・オマージュ〉として、メロディの捻り、歌詞のケレン味、ミニマムな曲展開、そして特に音色のチョイスを評価しています。4.5マブ

2005年12月号『リニアモーターガール』

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ついにPerfume徳間ジャパンからメジャー・デビュー! 初めて〈いまやもう、Perfumeだけがこのジャンル最後の希望〉という表現を用い、〈世知辛いご時世の中で唯一、アイドルとしてのジャンル的佇まい、その矜持はしっかりと保ちつつ(特にライブ!あれ観たらファンになっちゃうよ)同時に恐ろしく高いレベルで作品的焦点もキープしている、ほとんど奇跡的な存在〉と書いています。

そして『リニアモーターガール』は〈『AKIHABA LOVE』(※3マブ)の憂慮を吹き飛ばす、過去最強にミニマム方向へ振り切ったハードコア・テクノポップ〉として、〈現在これほど「アイドルに興味のない、むしろ偏見すら抱いている“外部”の人々」に自信を持って薦められる作品は他にない。頼むからこの調子で頑張ってくれ!〉と締めています。

当時のシーンと、そこにおけるPerfumeの位置付けが窺える文ですね。4.6マブで、〈ここで彼女らに踏ん張ってもらわねば、という切実な思いを込めて!〉とも記されています。

2006年3月号『コンピューターシティ』

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ここで宇多丸さんが、なぜPerfumeを〈最後の希望〉と感じたのか述べています。

〈アイドル・ソングは今後冬の時代を迎えるだろう〉という現状認識のもと、〈送り手たちは「箱庭」内の幸福感を完成させるか、作品の「強度」を外部に届くレベルまで高めるかで、細々と生き残りを図るしかないはず。しかしその両面に高い可能性を持つPerfumeこそ、「アイドルポップ最後の希望」に相応しい〉。

「箱庭」とは、アイドルとファンによる閉じた(ゆえに幸せな)空間、ですね。しかし、この後の論調は少し雰囲気が異なります。

・『リニアモーターガール』は音楽的な強度に偏っているのではないか

・彼女たちの生身の表情が読み取りづらく、capsuleと同一化してしまわないか

・そして「アイドルがうたう」ことの意義を危うくしないか

これらの心配、そしてサウンド面ではますますcapsule化が進行したことも触れつつ、歌詞(今回からヤスタカが書いている)に注目しています。

 

〈完璧な計算で創られた楽園で/ひとつだけ/うそじゃない/愛してる〉

 

このラインです。ここで完璧な計算を〈強度〉創られた楽園を〈箱庭〉と解釈。〈舞台や演技は機械的なら機械的なほど、その奥の「うそじゃない」ものが伝わるという構造! テクノポップという形式で「アイドルがうたう」ことの意義を、いや、ことによるとアイドル・ポップというもの自体の本質的魅力すらも、これ以上ないほどわかりやすいかたちで一気に納得させてしまう〉。

この要因を宇多丸さんは〈(中田ヤスタカの)プロデューサーならではの論理性〉と書いています。鮮やかすぎる……いつか、こんな評論を書きたいものですよ。評価は4.8マブで〈満点はアルバムの時まで取っておきます!〉とあります。

 

なお、いまさらですが宇多丸さんの本業はラッパーです。

2006年10月号『Perfume~Complete Best~』

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〈過去6年の連載で、最高平均点を保持しているのはたぶんPerfume〉と書きつつ、〈同一のプロデューサーによる、一貫したコンセプトとクオリティを持つ曲が、コンスタントに(そこまで売れてなくても)リリースされ続けたことが、この国のアイドル音楽の歴史上、類を見ない奇跡的な出来事それに立ち会えた幸運に心底感謝すべきかもしれない〉。

そして作・編曲だけでなくレコーディングにミックス、マスタリングまで手掛けた中田ヤスタカの手腕を〈かつてこのジャンルで、誰も成し得なかったほどの完璧な品質管理〉と称賛、〈それを独力で成立させた功績は、公平に見ても最大級の賛辞に値する〉。

しかし活動の総まとめ的な本作に〈これでお終い的な予感〉も強く感じている宇多丸さん。それでもなお〈序盤の詞世界の構築性と、音楽的な流れの良さは圧巻〉〈メジャーデビュー以降の硬質な中田ワールドも、これはこれでとんでもないネクストレベル〉と、作品の力を信じています。

そして単行本では『パーフェクトスター・パーフェクトスタイル』の歌詞に感じた、〈Perfumeの終わりの示唆〉〈この先に予見される悲しくも美しい情景〉についても詳しく補足されていますが……そこは買って読んで下さい!

このテキストは、以下の文言で締められます。

〈ともあれ、この素晴らしい奇跡が、少しでも長く続くことに当連載がわずかであれ貢献出来るのなら、これに勝る喜びはありません。だから結論はひとつ! どうかぜひ、買ってみてください。〉そして当然の5マブ。〈間違いなく歴史に残る一枚〉として。

この単行本、330ページ超というかなりのヴォリュームですが、こんなにストレートな言葉で締めるページは他にありません。宇多丸さんは、どういう気持ちでこの言葉を締めに選んだのでしょうね。

さらに付け加えるなら、このエントリにたくさん出てくる〈奇跡〉〈希望〉という単語も、実際に単行本の中ではあまり出てきません。

Walk This Way

「マブ論CLASSICS」のPerfume評は、以降も続きます。

・もはや当たり前のような超高水準!Perfume『Fan Service』

・正義は勝つ!祝『ポリリズム』大ヒット!

・きっと、ここが新たな始まりだ――Perfume『GAME』

でも、もうこれ以上私が引用する必要はないでしょう。そして〈これが日本のポップ・ミュージックの新しい基準になればいい〉と語る『GAME』評をもって、宇多丸さんはこの単行本の本編を締め括っています。

宇多丸さんの評論は、当時もいまも一貫して〈その音楽のどこがおもしろいのか〉を考え抜き、膨大な知識と思い入れと音楽愛をベースに、すごく丁寧かつ誠実に書かれています。メディアでちゃんと音楽の話をすることは、当たり前のようで決して当たり前ではありません。そしてこの宇多丸さんの熱烈な評論が、Perfumeの評価に良い影響を与え、ずっと低空飛行していた彼女たちを支えたと、私は思います。

 

今回は拾い読みのような形式ではありますが、宇多丸さんの長い評論活動においてPerfumeがどういう位置にあるのか、お察しいただけるのではないでしょうか。

そんな宇多丸さんが来る4月7日、いよいよ初めてPerfumeとライヴで共演します!!! ライムスターとして、相当いろいろなネタを仕込んでくるでしょうし、これは楽しみ!!! もっとも宇多丸さんも素直じゃないので、すごく事務的にやるような気もしますが……

 

ちなみに宇多丸さんは音楽評論以外にも、自身のラジオ番組や、DJとして出演するイヴェントでPerfumeをサポートしてこられました。次回はそのあたりも振り返ります。