第81回 NY♡Perfume
Perfumeのニューヨーク公演では先のレポートでも触れたように、日本公演よりも遥かに多種多様な観客が集まっていました。それはNYらしさと共に、Perfumeの魅力がいかに普遍的であるかの表れと言えるでしょう。
でも、ふと気になりました。その観客ひとりひとりは、どうやってPerfumeの存在を知ったのでしょうか? 好きな曲は何でしょうか? なぜライヴにまで来ようと思ったのでしょうか。そもそも、彼ら・彼女らはどんな人なのでしょうか?
海外のファンがPerfumeの魅力を語る、「他では聞いたことがない曲で、好きだね!」「3人とも可愛い!」「あのダンスが凄いよ!」といった発言はどこかで出ているかもしれません(映画「WE ARE Perfume」にも少し採り上げられていました)けど、海外ファン自身にフォーカスした例は多くありません。唯一、NHKの「MJ presents Perfumeドキュメント 今世界へ(放送:2012年12月31日)」はありましたが、あれは台湾のファンでした。
そして今回、NYに集まったアメリカのPerfumeファンの声を、ほんの少しですが聴くことができました。
◇CASE1:マイケルさん(黒人男性、30代後半)
「Perfume: A Gallery Experience」でたまたま私の前に並んでいただけで、得体の知れない日本人に下手な英語で話しかけられてしまったマイケルさん。優しそうな人だと私が見込んだこともあってか、大変親切に30分ほど話してくれました。
―すみませんサー、Perfumeをどうやって知りましたか?
「Youtubeだね。2009年頃かなぁ」
―えっ結構早いんですね! それは何の曲が覚えていますか?
「うーん、何だろう……ちょっとわからないけれど、最初にインパクトがあったのは『edge』かな」
―いちばん好きな曲は?
「『NIGHT FLIGHT』。あれはクールでおもしろいよ。君のいちばん好きな曲は?」
―ちょっと待ってくださいね……「GLITTER」「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」「Spring of Life」ですね(なぜ3曲も答えた)それではいちばん好きなアルバムは?
「そうだね……どれもそれぞれ良いから、なかなか決められないけど『⊿』かな」
―「NIGHT FLIGHT」も入っていますからね。ちなみに日本のツアーでは「NIGHT FLIGHT」も演奏していますよ
「ワオ、そうなんだ! それは楽しみだね。君の好きなアルバムは?」
―『JPN』でしょうか。あの作品は日本で大きな地震があった後に発表されたので、印象に残っています。そうだ、新しいアルバムは聞きましたか?
「もちろん! 凄く気に入っているよ」
―Perfumeのライヴを観たことはありますか?
「いいや、今晩が始めてなんだ。本当にエキサイティングで楽しみだよ。君はトーキョーから来たそうだから、たくさんPerfumeを観ているんだろうけどね。そうだ、君の好きなPerfumeメンバーは誰なんだい?」
―全員です(即答)
「ハハハ、そうかい。でもそうだよね、そのときどきで〈この子が良いな!〉って思うんだけど、結局はそうなるんだよね」
―(やはりその流れは万国共通なのか……)
「他に君の好きな日本のグループは?」
―えっ……えーと……(困ったな、すぐ浮かぶグループがいない)……BRAHMANですかね……
「それはどんな人たち?」
―(困ったな、よりによって一言で言いづらいぞ……)ハードコア・パンクですかね……えーと、ハードでスピーディーで、アグレッシヴでマッシヴで……
「なるほどね、じゃあ君は普段ハードコア・パンクを中心に聴くのかい?」
―いえ、そういうわけじゃ……いろんな音楽が好きなんです。ジャスティン・ティンバーレイクやテイラー・スウィフトも好きですし、あとラッパーのコモンとか
「へえ! 僕もそうだね、あらゆる音楽が好きなんだ。ジャスティン・ティンバーレイクは僕も好きだし、あとはジェイ・Zとか(あといろいろ挙げて下さったんですが惜しくも覚えていません)でも、いちばんはやっぱりプリンスだね! 彼は特別だよ」
―僕もヒップホップ好きです。いちばんはア・トライブ・コールド・クエストですね
「トライブは素晴らしいね! 僕も本当によく聞いたよ。
日本の音楽も好きだよ。サカナクションとかね。あと、昔シカゴに住んでいたんだけど、SCANDALがライヴしに来たよ。知ってるかい? 女の子4人組の。でも、シカゴにはあんまり日本人はライヴに来なかったね」
―シカゴと言えばブルーズ音楽が有名ですよね。あとシカゴ・ハウス。中田ヤスタカはシカゴ・ハウスの影響も少し受けているかもしれません
「そう……かもね(注:話の展開が強引で若干困惑された様子)中田ヤスタカは凄い音楽家だね。capsuleも聴いている。そういえば、きゃりーぱみゅぱみゅも知っているよ。ユニークだしおもしろいなとは思ったけど、あんまりハマらなかったなぁ。あ、君はずっとニューヨークに滞在しているの?」
―いえ、先にワシントンDCに行って、ブルース・スプリングスティーンのショウを観てきました
「どうだった?」
―素晴らしかったんですが、始まったのが午後8時、終わったのが午前0時で、地下鉄も終わって、タクシーも全然捕まらなかったです
「ハハハ、それは大変だったね! 彼の音楽も素晴らしいと思うよ」
―ボスとEストリート・バンドは、1985年以来日本には来ていないんですよ
「85年か、『Born In The U.S.A』の頃だね」(注:その通りで、マイケルさん本当にいろいろ詳しいです)
―そういえば、Perfumeのアルバムは全部持っていると仰っていましたが、CDってどう買っているんですか?
「お店は凄く少なくなってしまったけど、なんとか探しているよ。特に日本のCDは高額だから困るんだけどね、ははは(注:そもそも定価が高いうえに、関税がかかるから)」
―Amazonは使わないんですか?
「いや、もうみんなiTunesだね。でも僕はCDで買いたいし、今日の〈Perfume: A Gallery Experience〉では『COSMIC EXPLORER』のヴァイナル(注:アナログ盤、レコード)も買うつもりなんだ」
―10年前にもニューヨークに来たことがあるんですが、あのときはタワーレコードやHMVがたくさんありました
「全部なくなってしまったね。あの頃が懐かしいけど……でもあらゆるものは変わっていく。だから僕も変わっていかないとね!」
―(か、カッコいい……)お仕事は何をされていますか?
「なんていうのかな……中華料理の食材の流通会社の、マネージャーかな。今の仕事は結構気に入っているよ」
―(いまの日本で、自分の仕事が気に入っているとサラッと言える人がどれだけいるだろうか……)今日のライヴ、ぜひ楽しんでほしいです
「もちろん! 『WE ARE Perfume』って映画あったよね。彼女たちはああいう風にしてライヴの準備をしているんだろ? それってめちゃくちゃクールだよ。そういえば映画で、彼女たちは、マディソン・スクエア・ガーデンでライヴをすることが目標だと言っていたよね」
―難しいですよね?
「確かに。でも、彼女たちなら不可能じゃないと思うよ。それに、彼女たちがMSGに立っているところを観たいと思わない?」
―!!!!!!(なんてことだ、日本のファンの私が、〈ハマースタイン2DAYSだって売り切れなかったんだから、MSGなんて夢のまた夢だよ〉って無意識に思っていた。そうすることで、夢が叶わなかったときの無念さを緩和しようとしていたのかもしれない。NYのマイケルさんが、こう言ってくれているのに……という思いを込めながら)ええ、私もそれを願っています。ありがとう。話せて嬉しかったです
「こちらこそ。君も今晩来るんだよね? またそこで会えたらグレートだね!」
◇CASE2:D.J(黒人女性、30代前半)
ハマースタインの初日、開演前にたまたま僕の近くにいたことで不審な東洋人に捕まってしまったD.J(お名前を聞きそびれてしまったので仮名です)。大らかな体形でドレッドヘア、おしゃれな彼女は結構早口な方で、あまり聞き取れずに終わってしまったことが悔やまれます。
―すみません、Perfumeファンですか?
「ハハハ、そりゃそうよ! だからいまここにいるんじゃない!(その後凄い勢いでまくし立てられるがあまり聞き取れず)」
―Perfumeをどうやって知ったか教えて下さい
「YouTubeよ。『JPN』の頃だったかしら」
―そのとき最初に聴いた曲は?
「うーん、覚えていないけど。でもいちばん好きな曲は『NIGHT FLIGHT』ね」
―(NIGHT FLIGHT人気あるな……)いちばん好きなアルバムは?
「それは決められないかな」
―Perfumeのライヴを観たことはありますか?
「テキサスでやったSXSWよ。さっきも言ったけど(注:言っていたらしい)
でもあれは短くってね。どうしてもライヴを観たくて、テキサスから来たの。あなた、ギャラリーには行った? 私も行って、そこでヴァイナルを買おうと思っているの。私、普段はDJもやっているからヴァイナルで欲しくて」
―DJなんですか!どういう曲を流すのですか?
「70年代のファンクから、新しいR&Bにエレクトロニックなものまで、何でもよ」
―たとえば?
「○○○○や○○○(注:聞き取れず)、あとはパーラメントやファンカデリックも流すわね」
―ジョージ・クリントンの! 僕も好きです!
「最高よね! でもフェイヴァリットはプリンスね、やっぱり」
―(ここでもプリンス!)先日スミソニアンに行ってきたのですが、プリンスの追悼展示がありましたよ。今日のライヴ、楽しんで下さいね
「ええ、それはもう!」
◇CASE3:ケリーさん(白人男性、40代前半)
ハマースタインの2日目、開演前に私のもっとも近くにいたため、面倒くさいアジア人に捕まってしまったケリーさん。ビールを片手に、ちょっとジャイルズ・ピーターソンを思わせる穏やかで紳士的な方でした。
―サー、いくつかおたずねしてもよろしいですか?
「ああ、もちろん!」
―どうやってPerfumeを知りましたか?
「YouTubeだね。最初に聴いた曲は『レーザービーム』だと思う。これはいいな!と思ったよ」
―ちなみにいちばん好きな曲は?
「『NIGHT FLIGHT』」
―(まさか話を訊いた全員が異口同音に「NIGHT FLIGHT」とは……)Perfumeのライヴを観たことはありますか?
「いや、初めてだ。ジョージアから来たんだけど、実は娘がPerfumeの大ファンでね。君はニューイヤーのPerfumeのTV番組を観たかい?(注:おそらく紅白歌合戦のこと)。あれも娘と一緒に観たよ。彼女にはPerfumeのライヴに行くことを知らせずに、ニューヨークへ連れてきたんだ。サプライズでね! Perfumeを観られるよ、と伝えたとき、大喜びだったよ」
―それは素敵ですね!
「君はどこから来たの?」
―東京です
「シゴトで来たのかい? それともヤスミ?(注:カタカナ部分は日本語)」
―えっ……? ヤスミ、です笑」
「はは、それなら良かったね。妻が27年日本語を話していたから、私も少しだけわかるんだ。妻と娘が日本語で会話しているとさっぱりだけどね。妻とは最初オキナワで会ったんだけど、その後、別の場所で偶然再会してね。オキナワは好きだね。美しいところだし、人々は優しく、食べ物は美味しい」
―(もしかして……)米軍で働いていますか?
「USエア・フォースだ。私はそこで19年働いていたんだ。でも先日除隊してね。休みを満喫しているよ笑 いまはジョージアに住んでいるけど、今度テキサスに移るんだ」
―(ケリーさん、とても穏やかで優しそうなのに、こんな人が銃を撃ったり、過酷な訓練に耐えたりしているのだろうか……)
「おっ来た来た、妻のキョウコと娘だ。娘は7歳だよ。2人ともニューヨークは初めてだ」
―初めまして!
娘さん「Hello!」
キョウコさん「どうも、こんにちは(注:奥さんとは日本語で会話)。東京から来たんですね。えっ、もしかしてPerfumeの追っかけ?」
―いえ、そう……かもしれませんが笑 先にワシントンDCで、ブルース・スプリングスティーンのショウを見て来たんです
キョウコさん「Then, Perfume笑」
―そのとおりです!笑
ケリーさん「彼のショウはどうだった?」
―(注:マイケルさんと同じくだりのため省略)
ケリーさん「君は昨日も来たのかい? 昨日のチケットを取るつもりだったんだけど、何だか凄く売れていて、今日にしたんだ」
―昨日は何をなさったんですか?
ケリーさん「自由の女神を見たり、9.11 Memorial Museumに行ったりしたよ」
―私は10年前にもニューヨークに来たんですが、あの場所には、巨大な穴以外に何もありませんでした
ケリーさん「日本に住んでいる君の方が、私よりずっとニューヨークに詳しそうだねぇ」
―まさか!笑 他に好きなミュージシャンはいますか?
ケリーさん「いろいろあるけど、日本で言えばサカナクションとか」
―(なんとマイケルさんに続いて!)
ケリーさん「あとはEGO-WRAPPIN'。知ってる? 」
―はい、でもそんなに日本の音楽に詳しくて驚きましたよ
キョウコさん「EGO-WRAPIN'、雰囲気が独特で素敵ね」
ケリーさん「あと、Charisma.comも好きだし、最近気に入ってるのはSHISHAMOだね。彼女たちは凄く良い。アルバムも聴いたよ。ファーストは最高で、セカンドも良い。でもサードはオーバープロデュースな気がしたな。あと、capsuleも好きだ。ほら(とiPhoneのライブラリを見せてくれるケリーさん。capsuleの近くに並んだキャロル・キングや私のよく知らない海外ミュージシャンをはじめ、本当にたくさんの曲が入っていました)」
―娘さんの好きなPerfumeの曲って何ですか?
ケリーさん「ほら、好きなPerfumeの曲は何?って」
娘さん「えー、うーん、あのね……」(注:もじもじしていて、結局教えてもらえなかった)
ケリーさん「あ、そういえば昨日のライヴの1曲目って何だったの?」
―さあ~、知りませんねぇ~(注:ウザい)
あとはケリーさんがお酒を買いに行っている間、キョウコさんと、東京とニューヨークの違いや、実家のある沖縄からジョージアへの移動には22時間かかること、可愛らしく利発そうな娘さんがマンハッタンの街中で「ママ、みんな聞いたことない言葉喋ってる! 私たちも、適当に変な言葉喋ろうよ。きっとみんな〈へえ、こんな言葉もあるんだな〉って思うよきっと!」という提案があったこと、耳栓の準備もしてきたことなどを伺いました。ナイスファミリー!
◇Music is everything
考えてみると、ケリーさんもキョウコさんも、そして言わずもがなのマイケルさんもD.Jも、ことさらに日本の音楽を追っているのではなく、ただシンプルに音楽が好きで、オープンなマインドでいろいろな曲を聴いているうちに、YouTubeを介してPerfumeへと辿り着き、ファンになり、ライヴにまで来てくれた、ということみたいです。
現地の他の方々も、多かれ少なかれそういう傾向があるのかもしれませんね。(さすがに全員のフェイヴァリットが「NIGHT FLIGHT」ってことはないでしょうけれど……)
ライヴが始まると、ケリーさんとキョウコさんが交互に娘さんを抱っこして観ていました。娘さんも曲に合わせて、小さな手を挙げたり下げたり。MC中、かしゆかが娘さんに気付いて笑顔で手を振って、ケリーさんが娘さんの手を取って振り返して、隣にいた私はそのおこぼれに預かったり。途中で一度、ケリーさんは私の方を向いて笑顔で「いやあ、ホントに楽しいねぇ!」と言ってくれました。
ケリーさんと私は話す言語も生まれた国も、年齢も、肌や目の色も、就いていた仕事もすべて違います。いえ、それはケリーさんだけでなく、マイケルさんもD.Jも、そして会場にいた大半の人々が、私とまったく違う(ように見えた)人たちでした。でもPerfumeのライヴを観ている間に、みんなが感じていたのはたったひとつ、「楽しいね!」だったはずです。こんな体験、世界一多様性のある街・ニューヨークでしかできなかったでしょう。
◇Shame on who?
素晴らしいニューヨークの2日間でしたが、群れて気が大きくなった日本人ファンの好ましくない振る舞いも目にしたり、耳にしたりしました。それはとても残念だし恥ずかしいですが、結局やったもの勝ちの世界だし(彼らはそういう行いで、自分の人生を貶めていると思うんですが)すべて彼らの自由です。私には彼らの行動を改めさせることはできないし、そんな権利もありません。本音を言うと、そんな連中とは関わり合いにすらなりたくない笑
ただひとつ思うのは、そういう利己的なファンの言動を知った、彼らが応援している〈つもり〉のスタッフやメンバー、そして現地のファンがどう感じるか想像した方がいいこと、せっかくPerfumeがカッコいいなら、ファンだってカッコよくあろうとしてもいいんじゃないの?ってだけです。
〈ただひとつ〉でもなかったし、何か学級会みたいなこと書いてしまいましたねー。さて、次回こそニューヨーク公演のレポートを書くつもりで、詳しくはそこで書きますが、ある曲でドローンを使った舞台演出があります。それを見たケリーさん、穏やかな方なのに、「ヘイ! あれを見るんだ!」とすごい勢いで娘さんに教えていました。さすがは元USエア・フォースだけあって、飛行する物体には敏感なのかも、と感じましたね(失礼)
マイケルさん、D.J、ケリーさんご一家、ありがとうございました。あなたたちのことを、私はこれからも時々思い出すでしょう。一期一会の世間ですが、またどこかで!